18話 俺が立候補したいのは司教じゃない!
※18話より文体を主人公、颯太の視点に変更させていただきます。ご理解よろしくおねがいします。
美香さんの計らいで俺は兵隊の監視から解放された。宿につくと早速、サリーとジェスに問いただされた。俺がスピーチの練習をしたいと言ったことについてだろう。面倒くさいから俺は即座に答えた。
「次の選挙に出馬しようと思う。おいおい、サリー本を読むな、ジェスも夕飯の準備をするな。」
どうやら、無理と思われてる様だ。だから二人には言いたくなかったんだ。ため息だけついて自分の部屋に戻る。四年に一度の選挙が2週間後に控えている今、もう時間に余裕はない。約一週間ぶりに机に向かい、選挙用のスピーチを考える。
「このたび立候補させていただきます江口颯太です。俺が…私は司教補佐官となり…」
補佐官になってなにをするんだ?何も知らないし、そもそも考えたことないしな…、とりあえず適当に言っておくか。
「前、翔弥司教補佐官のご意志をつぎ、このモンジルを支えていきたいと思います。」
よしこんなんでいいか…。こんな感じで紙に綴り、大体10分ほどのスピーチの台本を完成させた。ベットにゴロンと倒れ、うつ伏せの状態で音読しながら覚える作業。10分とはいえ、暗記というものはいつになっても大変なものだ。
「ご飯できましたよー、補佐官さーん。」
そんな嫌みをこめた言い方でジェスがキッチンから俺を呼ぶ。部屋から出てダイニングに行くと、クスクスと笑いながら既に席についた二人がいた。テーブルの上の食事は相変わらず、美味しそうだ。
「おい、なに笑ってやがる。」
「ソータの演説がこっちまで聞こえてきたわ。いやぁー、堅いこと言ってたわねー。」
「これらの法律を改正することでさらなる民主主義政治の確立を進めていきたいです。この私、江口ソータに清き一票を。」
変顔を交えながら俺の真似をしてくるジェスを塩を塗った腕で締め上げる。
「それにしてもこの町の法律のことなんてよく知ってるわね。」
「最近、嫌ってほど仕事で見てきたからな。」
数日前に翔弥さんが俺に押し付けてきた書類の大半が裁判とか、法律改正案とかだったからよく覚えている。今さらだが、よくもそんな大事な書類を俺に任せたなあの人。
「ちょっと…ソータ…首…」
「あ、すまん。」
首を締めたままだった腕を緩めてやる。
「ゲホッ、それにしても急にどうしたんですか?颯太が政治に手を伸ばすなんて。」
俺もよくわからん、今は使命感だけで動いている感じだ。けど、俺は堂々とジェスに言ってやった。
「俺はこれからのモンジル教を 美香さんと翔弥さんに託された。俺がこのモンジル教団を支え、導いていこう。そう思ったのさ。」
間違ったことは言っていない。
「め、珍しく主人公ですね。」
「そうよその調子よソータ!!」
コイツら、覚えてやがれ。
俺は夕飯を平らげるとすぐに近くの図書館へと向かった。選挙をするにあたって、まだまだ情報が足りなすぎる。まず数日間は徹夜になるだろう…。頑張ろう…
それから俺は毎日図書館へと通った。朝の9時から夜の10時まで。調べてノートに書き写す、調べてノートに書き写すの作業を繰り返した。時には睡魔に負けそうになったり、図書館の奥に眠る大人のご本の誘惑に負けそうになったこともあった。しかし、俺は書き続けた。そして、6冊目のノートがなくなる頃、ようやく図書館へ通う生活が終わった。たった一週間で、俺はこの教団の96に及ぶ法律を全て自らの知識とした。ここまで机に向かったのは高校受験以来だ。
「そして、ついに!!」
俺は一週間ぶりに本部の前に立った。立候補願いを提出するためだ。司教と司教補佐官の引退ということもあって、立候補願いを提出するための行列には20人ほどが並んでいた。他の大臣への立候補願いもここで提出することになっているが
「司教に立候補します。」
「司教補佐官に。」
「司教です。」
「補佐官です、お願いします。」
提出の際の最終確認では大半のものが司教か司教補佐官を希望していた。やはり、この二つが激戦区のようだ。そして、ついに俺の番だ。
「来てくれたみたいだな。」
あ、最悪だ。
用紙を受けとるのは翔弥さんだった。笑いを堪えながら俺をジロジロと見てくる。
「目の下の隈を見るところ、毎日お勉強ってとこか?」
ったくこの人は…つい最近まで引きこもるくらい落ち込んでたくせに。
「そうですよ。後ろ詰まってるんではやくしてください。」
俺の後ろには30人ほどの行列ができていた。さっきよりも長くなっている…
「おっとすまん。で、希望は何かな?」
「司教ほ…」
「おぉ司教か、頑張れよ。」
「ちょっ!!」
「はい次の人。」
翔弥さんはそう言うと司教と紙に書き、そのままボックスにいれてしまった。完全にやられた…
翔弥さんがやってやったと言わんばかりの視線をこっちに送ってくる。最初からこれが狙いだったようだ。こうなったら最後までやるしかないようだ。
翌日、俺は横で爆笑するサリーとジェスに怒りの視線を向けながら、立候補者発表を見た。魔法を使った映写機のようなもので本部の入り口のモニターにそれぞれの役職の立候補の名前と顔が表示される。もちろん俺の名前も堂々と陳列していた。『司教』立候補者の欄に。
「な、なんでソータ司教に立候補してんの!?」
「ほんとですよ、さらに思い上がったんですか?」
「うるせぇ!色々あったんだよ聞くんじゃねぇ!」
人数を確認すると8人だった。正直、多すぎやしないかと思い不安になったが、司教だろうが補佐官だろうが覚悟はできていた。
「投票まで残り6日。お前ら、手伝ってくれるか?」
「そう言ってくると思ってましたよ。」
「私たちがソータを全力をサポートしてあげる。その代わり、司教になったあかつきには?」
「わかったよ、どこか好きな所に連れてってあげるよ。」
「やったぁー!!!」
「素晴らしいですソータ!!」
二人とは最近あまり一緒に何かをするということがなかったな。久しぶりに俺たちのパーティーの底力見せてやろうじゃねぇか!!
「しゃぁっ!!選挙活動だ!!いくぞ!!」