16話 炎が使えるのはお前だけじゃない!
《炎》の人格の颯太と翔弥は向き合うと同時に互いに攻撃を開始した。お互いに力を使わず、素手での戦い。防御なしの殴り合いに会場は大いに盛り上がる。
「くたばれ火之神よ!!」
「俺が貴様を倒す!!」
激しい殴り合いはしばらく続いたが、数十秒後ついに翔弥が動いた。颯太の攻撃を避ける同時に手に炎の剣を持ち、切りかかる。すかさず颯太も剣を持ち、それを受けとめる。驚いた様子の翔弥が剣を擦らせながら尋ねる。
「それは俺の技だ。何故貴様が使えるのだ?」
「颯太自身の記憶を見て真似させてもらった。それにしても便利なものだな。」
翔弥の隙をつき、もう片方の手に剣を握る颯太。しかし、颯太が剣を生成するよりも早い段階で既に翔弥の空いていた方の手に剣が握られていた。
(こ、こいつ…早い!)
「驚ろくことでもないだろ《炎》よ。これは元々俺が修行を続けてやっと編み出した技、早々容易く扱われちゃ困るんだよ!!」
翔弥の攻撃をもう一度受け止める颯太。しかし、さっきとは違い、明らかに颯太が押し負けている。
「私が押されているだと…そんなこと…あってたまるか!!!」
全力で押し返そうとする颯太だが、翔弥はびくともしない。それどころか、さらに翔弥は力を入れ、ズリズリとフィールドの端の方へと押されていく。
「火之神…こんな力を何故隠していた!!」
「隠してなんかないさ。俺は今親友のためにこの力を使っているそれだけだ!!」
「お前、主人公じゃないくせに調子に乗るなよ。」
「黙れ主人公!!」
翔弥の剣が颯太の剣をへし折る。舌打ちをした颯太が距離をとろうと下がるが、背後の壁によって阻まれる。
「さぁ、とどめを刺してやるよ《炎》!!」
このままとどめを刺すらしい翔弥は深く空気を吸う、さらにまた吸う。これを数秒間繰り返した。
「何をしている火之神。」
「体に酸素を送るのさ。お前も知っているだろ?燃焼のための三原則、『発火以上の温度』、『可燃物』、そして『酸素』!!よって酸素を多く取り入れることで火力が上がる!!」
今日一日で上がった火柱の中でも群を抜く巨大な火柱が立ちのぼる。そして、さらに温度が上がっていくと橙色の火が青くなっていく。
「青い炎!?」
「さぁ受けろ!!!俺の全力!!!」
巨大な火を全て右の腕に集め、一気に放出する。颯太は避けるすべもなく直撃を食らった。
「ぐぁぁぁっっ!!!」
そして、大きな爆発と共にコロシアムの一角が崩れ落ち、煙がフィールドを覆う。瓦礫が降り注ぎ慌てて避難をする観客たちを魔法使いたちが守る。サリーも周りの浮遊魔法で瓦礫を浮かせている。そんな中、翔弥が片手を横に振るう。するとフィールド上の煙が吹き飛ばされ、溶けかかった壁によりかかる瀕死の颯太が現れた。まだ目には赤い光が残っている。
「やって…くれるじゃないか…。」
颯太が血に染まる足を引きずりながら、翔弥のもとへ歩み寄る。
「まだ…私は戦える…!」
そう言いながらも膝をつき、動けなくなる颯太。
「《炎》、諦めろ。貴様では何度やろうが俺には勝てない。それにその体は颯太のものだ。これ以上傷つけるわけにはいかない。」
「黙れ…ブハァっ…!!」
大量の血を吐き、そのまま倒れる颯太。翔弥がすかさず抱きかかえる。目から赤い光が消えていく。
「「ソータ!!」」
サリーとジェスも観客席から飛び降り、颯太に駆け寄る。翔弥が颯太を仰向けに寝かせる。すぐにサリーが颯太を魔法で冷やし始める。
「ショーヤさん!私だけじゃ無理よ。今すぐ医療魔法を使える人たちを集めて!」
「わかった。」
そしてコロシアム全体に聞こえるように叫ぶ
「医療魔法を使えるものは早急に集まってくれ!!早く!時間がない!!」
「内臓もボロボロ…このままじゃ!」
必死に颯太に冷却魔法をかけ続けるサリーの横でジェスがゆっくりと颯太に水を飲ませる。集まった医療魔法使い達が総動員で颯太の応急処置にあたる。ある程度の応急処置が済むと、颯太はすぐさま病院へと運ばれた。医者たちが手術が必要と判断したため、8時間に及ぶ大手術が行われた。
医者たちと痛みと戦いながらも颯太の体を再生させた美香の懸命な処置によって颯太は一命をとりとめた。
5日後の夕方、颯太はサリーとジェスが見守る中、病室のベッドの上で目が覚めた。
「お、おはよ‥.二人とも。」
「め、目が覚めたのね!!ソータぁぁぁ!!!あぁぁっっーーー!よがっだぁ!!心配したんだからぁ!!」
「本当ですよ…よかった…」
泣きながら抱きついてくる二人をよしよしと慰める颯太。しばらくして落ち着いたサリーがあの後について話し始める。
「颯太が倒れて、色んな魔法使いやお医者さんが助けてくれたんだよ。まぁ美香さんが一番頑張ってくれたんだけどね。美香さん、8ヵ所の骨折よ。よく動けたものだってお医者さんたちもビックリしてたわ。」
「俺のためにそんなにまで…」
「本当に良い人だよね…。」
「しょ、翔弥さんは?」
「…実は…颯太が怪我したとに結構負い目を感じちゃってるみたいで…。《炎》を止めるとはいえ、力をコントロールできないような自分では会わせる顔がないってずっと本部の仕事部屋にこもってるのよ。」
「今から本部へ行くぞ。」
「もう動いて大丈夫なの?」
「全然平気、美香さんのおかげだよ。」
そんな颯太にジェスが家で作ってきたであろうお弁当を渡す。
「まずは夕飯を食べて、体にエネルギーを送ってあげてくださいね。」
「あ、ありがとう…。」
(毎日、弁当を作ってきてくれてたのか…。それにこの弁当、栄養価の高いものばっかり入ってる…あぁ…なんて気遣いだ…)
弁当を泣きながら頬張る颯太をサリーとジェスがニコニコしながら見つめる。颯太は弁当をたべおえると上半身のストレッチしながら言う。
「さて、そろそろ行こうか。」
「そうね、それにちゃんと受付にも言わないとね。」
颯太はベッドから立ち上がり、歩こうとするが五日間寝ていたせいか、うまくバランスがとれない。
「おぉっと…ありがとジェス。」
ジェスに肩を借りながら部屋を出て、病院の廊下を歩く。受付の人に退院することを知らせ、最後におじいちゃんって感じのお医者さんの制止を振り払い、病院を後にする。
「お待ちしていましたよ、颯太さん。」
モンジル教団の軍隊約50人が病院の前に立っていた。今の颯太が危険人物であることには間違いないため、それは当然のことであった。