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俺は「エロ神」じゃない!   作者: 柳原テツロウ
一章 異世界転生編
15/60

15話 モンジルの司教は美しいだけじゃない!

バトルが始まると同時にお互いは距離を置いて身構えた。颯太は前屈みになると、全身から火柱をたたせる。対して美香は辺り一面にバリアをはる。完全に防御体制である。


「昨日の勝負の時から思っていたのが、何故そこまでしてバリアにこだわる、お前にはなんでもつくれるのであろう?」


「確かに私はなんでもつくれるわ。でもね、難しい構造のものをつくったり動かしたりするつていうのは大変なのよ。だから、単純な構造であるのにも関わらず、ある程度の耐久力を持つ、このバリアの出番なのよ。」


「単純な構造で、さらに耐久力を兼ね備えるバリアか。だがな、忠告だ。そのバリアとやらで私の業火に本当に耐えられるのか?」


さらに火力をあげる颯太。火の勢いが強くなったことで暖まった空気が対流をお越し、コロシアム全体に強風が吹き荒れる。観客たちもその強風に帽子やカツラを飛ばされそうになりながら二人を見守る。


「私は天神、このモンジル教団の司教!!耐えてあげるわよ、その業火とやらに。こい!!」


普段は温厚な美香が真剣な面持ちになる。それは、大陸最強の女が本気を出した瞬間であった。さっきまでとは明らかに雰囲気の変わった美香を見た《炎》の颯太はさらに火力をあげる。そして、火力をあげた瞬間に美香目掛けて、目にも止まらぬ速さで接近する。その衝撃で美香がはったバリアが全て割れる。


「焼き付くされろ!!天神ぃ!!」


最大火力の炎を足にまとわせ、美香の頭を狙う。その攻撃に対し、美香は数枚のバリアを重ねることで耐久力を上げ、受け止めた。颯太はヒラリと逆宙返りの要領でバリアから離れ、美香の方へ体を向け、再び構えの姿勢をとる。


「一枚じゃ脆くても、重ねればあなたの渾身の一撃にすらだって耐えられるのよ。」


「渾身の一撃か、あんななものは挨拶代わりにずきない。」


「随分と派手な挨拶ね、じゃあ私も返事をしなきゃね!」


美香は能力で羽をつくるとそのまま真上に上昇し、その場で静止した。背中に羽をはやし、高くのぼった日の光をあびる美香の姿はまさに天使のごとくであった。モンジル教を信仰する観客たちにとってその光景は今ここに真の神が降り立ったとも思わせるものであった。


「て、天使だ…」


「あぁ!天使様!!」


「ミカ様は私たちを救ってくれるモンジルの真の天使だ!!」


観客席は大いに盛り上がる。全体に『ミカ様』コールが起き、完全に美香に優勢な雰囲気が出来上がった。


「いい盛り上がりではないか天神。」


そう言いながら颯太が羽と両腕を広げ、空中で止まる美香を見上げている。美香は大きく息を吸い、両手を合わせる。


(そうよ、私には信じてくれる人達がたくさんいるのよ。絶対に負けない!!)


美香は観客席の前の方にいた翔弥と目を合わせる。翔弥がコクリと首を縦にふると、美香もゆっくりともう一度、さっきよりも深く息を吸い込んだ。そして大きく息を吐くようにして唱える。


「今、この天神によって裁きを受けよ!!」


そう美香が唱えると、上空と地面にそれぞれ巨大な魔方陣が現れ、大地が震えだす。大きな地鳴りが町全体に響きわたり、観客席に座るサリーとジェスも抱きつくようにして震え、翔弥も目を冷や汗をたらしながら笑う。


(そうだ思い出したよ。これが昔の、本当の美香の姿だ。地を震わせ、空に君臨する最強の天使、『天神』。)


「おいおい嘘だろ…これは…」


《炎》の颯太もこの状況に思わず、たじろいだ。そして、颯太が後ろ足を引いた瞬間に上空の魔方陣から地面の魔方陣に向かって無数の光線が放たれた。空中で静止する美香の横を抜け、全てのが光線が颯太へと集まる。


「こんなもの!!私の力で!!ぐはっ…!!」


光線に向けて巨大な炎をぶつけるも押し負け、光線は颯太に直撃した。直撃と共にさらなる強風がコロシアム全体に広がる。小さな子供なら飛ばされてしまいそうな強風である。そして、コロシアムのフィールド全体を煙が覆い、何も見えなくなった。


「ソータっ!!」


「これはさすがにソータが!!」


サリーとジェスもあまりにも強力な美香の攻撃に颯太の身を心配する。ジェスは手を合わせ、颯太の無事を祈っている。攻撃で体力をかなり使った美香は息を切らしながら、未だ上空で飛んでいる。


「12年前の戦争をも終結させた、この超神魔法モンジリア。さすがに動けないでしょ…」


サリーがそれ聞き口を押さえ、震え始めた。ジェスは美香の攻撃に怯えて震えているのだと思った。ジェスはそっとサリーの肩に手を起き、


「サリー、大丈夫ですよ。もう怖くないですよ…私がついてますから、安心してください。」


「怖いなんてそんな滅相もない!!神と魔法使いの技を掛け合わせた『神魔法』!!」


「私の心配を返してくださいよ。」


どうやら、サリーの魔法使い魂に火がついたらしい。フワフワしているサリーの普段との差に引いている様子のジェス。そんな観客席も少し勝敗はつきましたムードになってきていたその時、コロシアム全体に聞こえる怒号が鳴り響いた。


《これが全力か!?天神!!貴様には失望したよ!!》


渦状の巨大な火柱が地上を覆う煙をはらうようにして、天高く上がる。そして、颯太が火柱の中を炎を推進力とし、飛びながらのぼる。


「な、なんで…あのモンジリアが耐えられたっていうの…」


「私の業火で焼きつくしただけさ。」


「魔法を焼きつくす!?そんなこと、無理よ!」


「無理じゃないさ、私の無限に上げられる体温がそれを可能とする。そして、この体はその超高温に易々と耐える。どうやら、もうお疲れのようだな。」


体に傷一つついていない颯太に対し、美香は既にフラフラであり、空中で今にもバランスを失いそうであった。


「わ…私は負けるわけにはいかない…!!」


「いい心持ちだ。だがな!!」


炎をまとった颯太の足が美香の腹を抉るように放たれ、美香はコロシアムの観客席まで吹っ飛ばされ、叩きつけられる。


「ぐはっ…!ぅ…」


「美香ぁ!!」


美香に翔弥が駆け寄る。動かなくなった美香をみると翔弥は颯太の方に顔を向ける。


「《炎》!!貴様!何故ここまで!!」


怒りをあらわにしたその表情は周りの観客も腰が引けるほどのものであった。《炎》の颯太は両手を小さく広げ、笑いながらそんな翔弥に言い放つ。


「君は何を言っているんだ?天下のモンジル教団の司教様がこんな弱いわけないだろう?」


颯太がとどめを指そうと美香のもとへ近寄る。そして、もう一度炎を足に纏わせ、振り下ろす。


「モンジルは私のものだぁ!!!…おい、その腕をどけろ。」


美香の顔のすぐ近くで颯太の足を腕を横に伸ばして止める翔弥。横に伸ばした腕がボッと炎を纏った。


「嫌だな。」


「私に喧嘩を売るのか?」


「ここからは俺が美香に代わりに戦いたいのだが。許してもらえないだろか?」


「ほぉ?面白いことを言うな火之神よ。いいだろう認めよう。どうせお前も叩きのめす必要があったしな。」


翔弥に止められた足を戻し、数メートル後ろに下がる颯太。


「いいのか?お前の炎では私には勝てないぞ、民衆の前で無様に倒れるだけではないのか?」


「倒れるのはお前だ《炎》。そのすかした人格をへし折ってやる!!!」


颯太は両手から観客席の壁に向け炎を放ち、逆噴射の要領でフィールドの中心へと戻り、地面に立つ。翔弥は近くの者に美香を任せると深く息を吐き、ネクタイを緩める。


「待ってろ美香!!今度は俺がお前を守る!!」


翔弥がスーツをバサッと脱ぎ捨て、観客席からフィールドに飛び降りる。


「さぁ、始めようか。《炎》!!」


炎と炎の熱い戦いが始まる。

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