10話 噂の氷女は他人じゃない!①
「翔弥さん!!起こしに来てくださいよ!!」
「いやぁごめんごめん。」
颯太はビズレールとの戦いの後、ジャングルで眠ってしまった。翔弥も起こしに来るのを忘れてしまい、気付いたら夕方になっていた。そんな颯太が本部に文句を言いにきたという感じである。
「今日はもう帰っていいですか?」
「あぁ、いいとも。後一週間はゆっくりしててくれ。俺は仕事に行ってくる。」
「一週間もですか?どんな仕事ですか?」
「秘密だ。」
「えぇー」
「でも帰ってきたら特訓だ。それまでの一週間、お前に課題を与える!!」
「それは!!」
「これだ。」
翔弥が持ってきたのは山ほどの書類だった。
「モンジル教団はこれでも200万人規模の国家並の団体だ。色々やらねばならないことがあるのだ。この書類全てに目を通して、判子を押しといてくれ。」
「はぁ?これじゃ、まるで雑用じゃないですか?」
「特訓したくないのか?」
ギロっと翔弥が颯太を睨む。
「わ、わかりました…引き受けますよ…。はぁ…。」
「いやぁ助かる助かる。じゃあ俺は早速出掛けるよ。」
「そういえば美香さんは?」
「部屋で寝てる。風邪だよ風邪。」
「アラララ…」
「この書類だってアイツの仕事だ。」
「全部ですか?司教様も大変ですね。」
颯太はそのまま宿へと帰った。ドアを開けるととても良い香りがした。
「今日は朝早く出ていきましたからね、疲れていると思って少し張りきってみました。」
「おぉ!!!」
テーブルの上には色彩豊かな和食が並んでいた。
「和食だ!!久しぶりだなぁ!!」
「知ってるんですか?東の大陸の料理だそうです。図書館にレシピがあったので作ってみました。」
「いやぁ、疲れた体にはとても良いよ。ありがとジェス。」
(まぁ今日はほぼ一日寝てたんですけど。)
「よかったです、喜んでもらえて。」
「ちなみに今日は何してきたの?」
「えっと、ローブの幹部と戦ってきた。」
「へぇー、それは疲れたでしょ。ん?」
「嘘ですよね!?」
「本当だけど、牢から逃げたからってジャングルに翔弥さんと捕まえに行った。」
「怪我とかないの?」
「大丈夫だよ。」
「倒したの!?」
「うん。ん?てか…俺あいつ倒したんだよな…」
(え、割りと凄いことしちゃってるよな?俺)
「ここ最近やっと『神の力を持つ者』みたいになってきたじゃない!」
「いや『みたい』じゃなくて実際そうなんだけど。まぁ、明日からは翔弥さんの仕事手伝うことになったから本部で働くことになるけど、お前らはどうするんだ?」
「私は近くの有名シェフのもとで料理の修行をしようと思います。」
「私も魔法の勉強をしようかなって考えてるの。」
「二人とも、頑張れよ。さぁ、冷めないうちに食べようぜ。」
「そうね!」
「「「いただきます!!」」」
「うまっ!!」
「さすがジェス!!」
「いえいえ、ん!!我ながらおいしいです!」
「ハハハ!!」
三人でテーブルを囲んでする食事はとてもおいしく、また楽しいものであった。笑顔に包まれるその様子はまるで本当の家族のようであった。そして今、このパーティーを混乱に落としいれることとなる一人の女がジャングルを抜け、ここヨクセルに到着していた。
「はぁ…長かった…」
その者は近くのベンチに座り込んだ。
「この神の力全然役に立たないじゃない…まぁ寒いと感じることは無くなったけど。」
「ば、ば、化け物!!!」
一人の住民が女を見て、逃げ出した。
「あぁ…面倒な力だ。」
女が通った道は月に照らされ輝くように凍っていた。
翌日の朝
「さてさて、仕事行きますか…」
町を歩く颯太、片手にはジェスが作ってくれたお弁当を持っている。そんな町の片隅に人だかりができてた。
「どうしたんだ?」
颯太は人だかりの後ろから除くようにしてみた。すると、そこには完全に凍ったホテルがあった。ホテルの主と思われる男が必死に皆にこの状況について伝えている。
「き、昨日の夜のことだ!に女が来たんだ。普通にお客さんって感じだったから部屋を貸したんだけど…朝方に寒くて目が覚めたらこの状況だったんだよ。貸した部屋はもぬけの殻で金だけフロントに置いてあったよ。」
「あの、その話もっと聞かせてもらえないですか?」
「あ、コロシアムにいた!」
「颯太と申します、どうも。」
(まぁコロシアムであそこまで派手にやったら少しは有名になるか。)
「そいつ、どんな服装でしたか?」
「このホテルには結構、いろんな所からの客が来るが、初めて見たものだったよ。」
(見たこともない服!!間違いない転生者だ!!)
「ありがとうございます。」
その場を走り去る颯太
(まだ町のどこかにいるはずだ!!探すぞ!!)
その日、颯太は仕事をすっぽかし、謎の氷女を探した。怪しそうな路地裏をみたり、色んな店に聞き込みをしたり。しかし、全くそれらしき情報はなく、結局夕方になって宿へと戻った。
「ダメか…まぁそんなもんだよな。とりあえず、明日また探すとするか。ただいまー」
「お帰りなさい!!」
玄関には何故か3足の靴がならんでいた。
「あれ?お客さん?」
玄関までサリーが出てくる。
「うん、図書館で仲良くなったの。ちょうど良かったわ、今からその子もいっしょにご飯食べようと思ってたの。」
「そうか。」
部屋に入るとそこはやけに寒かった。そして颯太に背を向けた状態でテーブルの席につく女がいた。
「え、ちょっと寒くねぇか?てか、かなり!」
「そう?エアコンが壊れたんじゃない?」
「そんなレベルかこれ!?」
蛇口から出た水が凍ったままになっているし、そもそも台所でジェスが倒れている。
「おい、ジェスしっかりしろ!!」
(こ、この座ってる女だ!!間違いない!!氷女!!)
「なんか急に寝ちゃったのよね。」
(お前はなぜ普通にしてるんだよ!!)
「あ、紹介するわね。私の旅仲間のソータよ。この子はユキミ。」
颯太はおそるおそる手を差し伸べる。女の手に触れると颯太の手がこおり始めた。
(凍ってるって!!ヤバイって!!)
「ど、どうもはじめましてユキミさん。」
「いやこちらこそソータさん。」
お互いは顔を合わせた瞬間、違和感を覚えた。聞き覚えのある声、そしてお互いが顔を見合わせる。
「ん」
「え」
「「えぇっっーー!!!」」
「二人ともどうしたの?」
「ゆ、雪見!?」
「颯太だよね!?なんで!?」
二人は現実世界でのお馴染みである。
「二人とも知り合い!?」
「あ、あぁ…ダメだ、脳の処理が追い付かない…」
「わ、わ、私もだ!」
「ちょっと二人っきりにしてくれ!!」
そう言うと颯太と雪見は隣の部屋と入っていった。