1話 俺は普通野郎じゃない!
「だぁれがエロ神だ!!俺の名前は江口颯太だ!!!」
こんなアホみたいな出だしで申し訳ありません。これは最近流行りの異世界小説の新たな1ページを刻む物語!!
だと良いんですが……
「我らの性なる願いをお聞きください!!」
今、多くの信者達が膝まずき俺を崇めている。泣いているもの、叫んでいるもの、老若男女、数十人の前で俺は広い夜空へ涙と共に叫ぶ。
「どうしてこうなったぁ!!!」
場面は3日前の、俺が通っている高校の廊下で起きた事件へさかのぼる。
「俺の名前は江口颯太、成績優秀、運動神経も抜群、そしてイケメンなフェイス!!こんな完璧な人材は世界のどこ探してもいないであろう!!是非、この俺と付き合ってくれ!!」
「え…なにこの人…。」
「あ!またあの野郎は...こらぁ!!」
「げっ、雪見!?いい所なんだから邪魔すんなよ!」
逃げようとする颯太の前に立ち塞がる。
「おい、待て。」
少女が鬼のような顔で颯太を睨む。
「ご、ご、ごめんなさい!!!」
「可愛い娘見つける度に告白して!そこの娘もごめんね。もう帰っていいわよ。」
「うん…ありがとう…」
颯太に告白されていた娘が全速力で逃げていく。
「あぁ!!…俺の新たなる旅路が…」
「何が『旅路』よ。勉強普通、スポーツテストピッタリ全国平均、顔面偏差値50の普通野郎が何いってんの?」
「普通普通言うなよこのツンデレが!」
「つ、ツンデレですって!?このブス!!」
「さっき偏差値50って言ってましたよねー?」
「この…もう知らない!」
あ…怒らせちゃったかな…コイツ、この性格さえなければ完璧なのにな…。
彼女の名前は香取雪見、俺の幼馴染み。勉強も運動も完璧にこなす才色兼備な美少女。だけど、この強気すぎる性格が男子の恋愛対象から外れてしまう要因だ。
キーンコーンカーンコーン…(以下省略)
「あぁもう!授業遅れちまったじゃねぇか。ったく!」
放課後、颯太は忘れ物をとりに教室に戻ってきていた。
「宿題宿題…あ、あった。よかった…これ明日までにやんないと山田先生に怒られ……ん?」
颯太の宿題のテキストに小さな1枚の紙が挟まっていた。紙には空欄がもうけられていた。
「なんだこれ、提出物か?よくわかんないし名前でも書いとくか。」
空欄にペンで『江口』という名前を書く。
「これでよし!」
「おい江口ぃ!!」
「ひぃっ!」
後ろから友達に声を掛けられ、驚いた拍子に紙は手で擦りながら、そのまま床に落ちていった。
「な、なんだよ…脅かすなよ。」
「ごめんごめん、今日もカラオケいくか?」
「お、いいね、行こうぜ。」
落ちた紙にも気付かず、教室を出る。床に落ちた紙がドアから入った風でめくられる。その紙の裏にはこう書いてあった。
『お前は何の神になりたい?』
カラオケからの帰り道、俺は友達と別れ、1人夜道を歩く。空には雲がかかり、颯太は走り始めた。
「雨が降りそうだ、早く帰らなきゃ…」
しかし、それは突然だった。
路地を曲がったところで俺の体は大きな衝撃と共に宙に浮いた。
あ…あれ?なんで俺今浮いてるんだ?
俺には回るように大きく動く景色と黒いような赤いような雫のようなものが見えていた。
これ、血か…俺、死ぬのか?まぁでも思い残すことはない…いや…たくさんあるな…
キィィィィッッ!!!!
ちょうど雨が降り始めた夕方だった。江口颯太16歳は6月13日、雨で視界が狭くなった道路でバイクに跳ねられ、死んだ。
「はずなんだけどな…」
俺が目覚めたのは事故からまる1日たった6月14日の夕方だった。
「俺生きてるよな…」
自分の頬を引っ張る。
「いてっ…生きてる…生きてるぞ!!…ってここどこだ?」
周りを見渡すが、窓もなく、自分以外誰もいない。真っ白な部屋に真っ白なベッドと自分だけ、音もしない不思議な部屋だ。すると突然
「お目覚めですか?江口颯太君。」
「うっ…ビックリした…どこだ?」
「ここですここ。」
後ろの壁からモニターが現れ、そこに眼鏡をかけた20代ほどの男性が映し出された。
「な、なんだアンタ?」
「自己紹介しなくてはなりませんね。僕の名前はソラ。そう呼んでください。」
「ソラ…と呼べばいいんですね?えっと…ソラ、どうして俺は死んでいないんだ?それにここはどこだ?」
「君は死にましたよ?」
「え、マジで!?本当に!?」
「はい、間違いなく。」
「そんなぁ…じゃあ一体ここは?」
「察してください。」
「よくある異世界に転生の流れですね、そしてここがその入口です。」
「素晴らしい、その通りです。」
「嘘だろ!?」
そんなイベントが実際にあるとは…。まさにラノベ展開だ。にしても…本当に俺、死んだんだな。
「死んだことはショックですか?」
「当たり前だろ、こっちはまだ16歳の!人生これからっていう青春を生きる若者だぞ!?実はお前に殺されたんじゃないのか?」
「残念ながらあなたの死はただの不運です。僕が選ぶのはあくまで死んだ人の中からです。まぁでも、色々と協力をしていただくのですから、出来る限りの事はいたしますよ。」
「ほ、本当か!?じゃあ!自分の好きな世界にいけたりはするのか?」
「ご希望は?」
「そうだな…スタイル良くて色気あって…それにそれに…と、とりあえず!美女ばっかりのハーレムワールドに!!」
「まぁ希望なんて添えないですけど」
「ガクッ…なんでだよ!!そこはもっとほら?普通、ではどうぞ的な感じで扉みたいなのが開くじゃん。」
「ハ ハ ハ ハ」
「棒読みかよ。で、俺はどんな世界に転生するんだ?」
「わかりません。」
「は!?説明もないのかよ!」
「特に世界に関する説明はないです。ですが、あなたにとても大事な話があります。」
ソラはプリントを手にとり、読み上げる。
「大事?」
「えぇ。これはあなたに与えられた復活のチャンスです。」
「復活?生き返るってことか?」
「はい。その条件が今から転生していただく世界を平和にすることです。」
「平和…それまた難しいことを…。」
「大丈夫です。あなたには特別な力を与えます。」
「特別な力?特殊能力的な?」
「ご名答です。その名も『神の力』。」
「か…神の力…」
「神の力がきっとあなたを導いてくれます。」
「な、なんかやる気出てきたかも!!オッシャァ!!平和活動!やってやろうじゃねぇか!!」
「では定番のあれいきますよ。」
部屋に一枚の木の扉が現れ、勝手に開く。その先はモヤモヤとして何も見えず、薄暗かった。
「でたでた!扉!」
この扉の先に、俺の新しい人生が!!
俺はドアの前に立ちしばらくの間モヤモヤを眺め、覚悟を決めて扉の中に足を一歩踏み入れた。
「と、その前に。」
「なんだよ!!結構良いシーンだよ、ここ!」
「今回、あなたを含めた8人がそっちの世界に送られます。」
「8人!?俺だけじゃないのかよ!?」
「はい。ちなみにあなたの力については事前にした質問の回答の内容を反映させていただきました。」
「回答ってなんたま?ちょ、コラぁ!待て…」
扉が俺を押し込みながら無理矢理、閉じようとする。抵抗しようと扉の前で踏ん張ったが、ズルズルとモヤモヤの方へ押し込まれる
「どうぞいってらっしゃい。」
「おい!もう少し詳しい説明はないのか!!」
「ないでーs…u…」
ソラの声がだんだんと聞こえなくなる。周りのモヤモヤはまとわりつくように360度を覆っている。想像できるのはブラックホールのような最悪な状況。だが俺は覚悟を決め、再び一歩を踏んだ。
俺は絶対に生き返ってやる!必ず!
1人の男の波乱万丈な二度目の人生が幕を開ける!