少しの別れ
「5年前の記憶は曖昧なんだけどね…美咲が死んだ夏の間から全てが壊れ始めたのは確かなんだ」
『ほう。では、詳しく話を聞こうかの』
私は全てを話すことを決意した。
5年前、美咲は崖から落ちて死んでしまった。
お母さんは、美咲そっくりの人形を作りあげて私の眼球を美咲の人形に入れた事。
今の私の能力があるのは美咲の左目が入っているから。
眼球を入れ替えてからお母さんは、前みたいに明るい性格に戻っていて嬉しかった。
そして、寒い季節と変わり目に私はお母さんを殺したらしい。
でも、この記憶は曖昧で覚えてないんだよね。
燃えさかるお屋敷を見て何があったのかさえ覚えない。
覚えているのはこれだけ。
あとは、誰かを殺して自殺未遂をした事だけだから。
『結構な人生を送っていたらしいの。他に思い当たる筋はあるのかい?』
「人形…きっと壊された操り人形よ」
『壊された操り人形とはなんじゃ?』
「お母さんの話でも聞いたりした話なの…夢でも見たからきっと」
やっぱり、操り人形も関係しているのかな。
『操り人形じゃと手がかりも何もないかもしれんの』
「お母さんの人形のモチーフはお母さんが気にいった人の顔とかをしているの」
『それじゃ、壊れた操り人形そっくりの人を探しに行かんと第二の覚醒は防げないのじゃな』
「そうかも知れない…私…探しに行く!」
そう言うと私はベッドから降りて廊下に出ようとする。
探せばきっといるはず。
『今のお前には無理なんじゃないのかい?第一の覚醒でほとんどの記憶が失われている伯東にはの』
言われていればそうだ。
お母さんが死んだ後の記憶はほとんどない。
第一の覚醒…。
美咲の方が幸せなの?
なら死んだ方がいいじゃん。
「死んだ方がいいじゃん…いいに決まっているっ!」
悲痛な叫び声が部屋中にこだまする。
宮辻さんはただ無言で見つめているだけ。
『チッ…うっせぇ餓鬼だな。宮辻、話は聞かせてもらった。責任を取って俺が探してやるよ』
『話が早いの。神代、機嫌が今日に限っていいんじゃな』
『お前、俺の気が変わらねぇうちに行くぞ』
神代さんってこんな人だっけ。
「えっ…でも」
『ルビーのネックレスはお前の左目とリンクしている。気を付けな』
私を抱きあげて無理やり廊下に出された。
なんでこんなんのよ!?
前もって言ってくれなと大変じゃん。
ネックレスと左目がリンクしている?
「あ、あの…着替え持って行きたい…」
『5分で必要な物を鞄に突っ込んで持って来い』
「うん」
部屋に戻って服とかを鞄に詰め込む。
空原さんって服のセンスあるかも。
いろいろと詰め込んで玄関まで行くと宮辻さんが居た。
「行ってきます」
そう言って私は屋敷を出た。
『来るの遅い』
「すいません」
『お前、俺の事本当に覚えてないんだな?』
「…覚えてない…会った事あるんですか?」
『考えろ。のろのろすんな、今日中にこの街でを出るぞ』
「なんで…街を出るの?」
『この街には居ねぇからだよ。操り人形師がな』
結構詳しいんだなぁ。
走って追い付くと駅まで着ていた。
なんで駅?
『早くしろ』
私の分の切手まで買って貰っちゃった。
電車に乗りこんで外の景色を眺めている。
『さっきから黙りやがって。不満でもあんのか』
「ない…ただ…外の景色が見たいだけ」
覚醒を断ち切れる事があるならいいけど。
『目的地に着いたら宿を探す』
「うん」
神代さんって掴み所がないような。
最初の暴力は何処に行ってしまったの?
疑問を浮かべながら電車に揺られた。