自殺未遂と出会い
『なぁ、知っているか?』
『何をだ?』
『連続暗殺事件の犯人だよ』
『あぁ、知っているさ。マフィアの幹部らしいな。必ず一人は能力を持っているとか』
この話は少女が愛を知るまでの話。
孤独を捨てて愛を知るなら私は。
何も望まない。
ーパァンー
部屋に響く乾いた銃声。
また今日も、標的が殺された。
静寂が訪れる部屋には人の影。
長い髪をなびかせて窓から飛び降りる影が映しだされているだけ。
「空が真っ暗…星が月が綺麗」
手を伸ばして半月の月を握り潰す。
血で汚れた手はきっと人を殺したからだろうな。
「…死ねるかな」
薄れて行く意識の中で私は囁く。
地面に身体が叩き付けられた感覚で笑みが漏れた。
死ねるんだ。
お願いだから邪魔しないで。
「うわあああああああああああああああ!」
悲鳴を上げて飛び起きた。
荒い呼吸のまま見上げた部屋は知らない。
「っハァハァハァ…。私…自殺して…死んだはずじゃ…」
ズキズキする身体を起こしてベッドを降りようとする。
『起きたか。操り人形。何が死にたいんだい?』
なんで?
私の能力を知っている人なんて居ないはずなのに。
何?この人。
それに、自殺を失敗で終わらせたのはこの人。
声が出ない。
なんて声をかければ?
あと、顔が見えない。
なんでドアにもたれかかっているんだろう。
『行く場所がないなら仲間にならないかね?』
会話が進められているんだよね。
行く場所…。
イライラする。
「…が…何が分かって言っているの!?私の過去なんて知らない癖に!」
その瞬間、無数の糸が飛び出した。
私の能力は自由自在に糸を出して、人を操る能力。
戦闘も可能だから。
『おっと。危ないじゃないか。能力不可能』
すると身体の力が抜けて行く。
ベッドから落ちそうになると抱きしめられた。
さっきまでドアにもたれかかって居たはずなのに。
そんな疑問を胸に抱きながら初めて顔を見た。
白髪の老けて見える男性。
目は琥珀色で吸い込まれそう。
『やはり、操り人形の能力者ですな。名は?』
「伯東麗奈…なんで…その能力を…」
『儂の名は宮辻行人。伯東の能力は見てすぐに察した』
宮辻行人…?
何処かで聞いた事があるけど思い出せないや。
それにしても、私が自殺に失敗した理由って。
まさか!?
「…人形…私の人形の美咲は何処っ!?」
『これかい?路上に落ちていたんだが、この人形が伯東を庇っていた』
「だから…私の能力を察した…。この人形には魂が入っているから」
ボソッと囁く。
『魂?』
「…この美咲とは双子なの…5年前に転落死して…」
涙が溢れて来た。
人前では泣かないのに。
「そ、それで…心を痛めたお母さんが趣味で球体関節人形を作っていたから私の左目と死んだ美咲の左目の眼球が入れ替わっているの。くだらない話だと思って聞いてください」
そう、5年前の夏の事件。
当時13歳だった私は海で美咲と遊んでいた。
「今日も暑いね」
「そうね~。あっ、見て!この下に向日葵がさいているわよ!」
走って向日葵を見に行った美咲の姿が一瞬にして消えた。
「キャアアアア!」
美咲の悲鳴が聞こえて崖に近寄ると血の池が白い砂を汚している。
海に来ていた別の人もそれに気づいて海水浴場はパニック。
そして、お母さんの性格が変わったのもこの日を境に。
『…美咲…美咲っ…お前が悪いのよ!海に行こうなんていいだしたからよ!』
人形を作りながらお母さんは美咲の死体が警察から帰って来るのを待っている。
その日の夜、お母さんの話声が聞こえた。
『先生。麗奈の左目と美咲の左目をくり抜いてくれませんか?』
『どうしてですか?理由を聞かないと』
『私は今、球体関節人形を作っていまして、麗奈の左目を人形に入れ美咲の左目を麗奈に入れようと』
『なる程…。分かりました。明日、伺います』
私…眼球が無くなるの?
次の日の朝、私は無理やり目を抉り取られた。
数カ月がして私の左目には美咲の目が埋め込まれた。
『ほう…。それで、埋め込まれた左目にはあの能力が眠っていた訳ですな』
「お母さんは私に、左目には眼帯をしてなさい、お願いだからって」
『なる程』
「操り人形の力を持っているからって言われて。その時知ったの。眼帯を付ける理由を」
オッドアイ。
左右の目の色が違う事をさす。
私と美咲は瞳の色が双子なのに違った。
私は両方黒色の瞳。
美咲の右目が緑で左目が赤。
少し変わった特徴で友達も少なかったらしい。
『行く場所がないなら此処が伯東の部屋。欲しい物はあるかい?』
欲しい物…。
沢山あるに決まっている。
部屋を見渡すと何かが足りない。
そう、人形と裁縫セットがないんだ。
「人形…裁縫セット」
『人形が好きなんじゃな』
そう言われて部屋を出ていこうとする宮辻。
「宮辻さん…あの、私は此処に居ても迷惑じゃ?それに今日…出会ったばっかりだし」
『暇だからいいのです。伯東』
気づけば無意識に私は心を開いていたらしい。
宮辻は、部屋を出て行き取り残された私は睡魔に襲われて寝てしまった。
「んっ…」
目を覚まして部屋を見渡す。
何時間ぐらい寝てたんだろう。
「凄い。これ、全部私の人形だ」
ベッドから降りてすぐに人形を作り始めた。
昔の記憶はあまり覚えてはないけど、前住んでた家には沢山の人形があったはず。
部品を作り始めて人形作りに没頭してしまう。
金具がぶつかり合う音。
ハサミで布を切る音。
いろんな音がこだまする。
「出来た」
気づけば人形は3体に増えていた。
集中すると人形の数なんてどうでもいいから。
硝子ケースに人形をしまう。
そして、人形用の小さいソファーに人形を置く。
「あはっ…なんて素敵なんだろう」
お母さんの影響で人形は好きな私。
美咲を抱きあげて囁く。
「ねぇ…美咲。私ね新しいお家を貰ったんだよ。美咲も一緒だからね」
部屋に響く独り言。
「え?眼帯を付けないと危ない?」
「でもね、今は眼帯がないから能力を出さないようにしないと。数カ月前の覚醒が怖い?」
「そっかぁ…。美咲は私との唯一の家族だもんね」
気味の悪いほど静寂の中に響くのは人形遊びをしている私の声だけ。
するとドアが開いた。
『もう人形を作っておったのか。独り言がすると思ったら人形との会話かい』
「宮辻さん。人形セット買ってくれてありがとう…」
『いいんじゃよ。儂は出かけるがついて来るかの?』
「ご一緒させて頂きます」
すると、新品の黒いワンピースを渡された。
おまけに、どう考えても美咲を付けろと言っているような紐もセットで。
急いで着替えて宮辻の居る部屋に向かった。
「支度しました」
『眼帯をつけなさい。此処に入った限り命は狙われるからの』
「どう言う事…」
『昨日は説明をする時間がなくてすまぬ。此処はマフィアの組織でな』
マフィア…。
「マフィア…も、もしかして私を助けた理由は」
『能力を使って外部の人間を殺す事じゃ。儂は特別危険リストに載っておるから、伯東も狙われる』
感が当たった。
「それでもいいから…居場所をください!」
自分でも驚いた声。
『話の理解が早くて感謝。ほれ、眼帯じゃ』
左目に眼帯を付けて、マフィアって幹部を後にした。