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チーレムとか本当要らないんで俺に執筆に集中させてくれ下さい  作者: 空飛ぶひよこ


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ライナス10歳 二つ名誕生

 嫌な未来予想というのは的中するもので。

 10歳になった頃には、俺には美形に追いかけられる受難の日々がすでに始まっていた。


「おい、ライナス~。どこにいんだ? 稽古しようぜ。試したい新技があるんだ」


「おい、ロナルド。お前はいつもライナスといられるだろう。たまの仕事の休みくらい、ライナスを私に譲れ……私はまだ、ライナスの独特の魔力構造を解き明かしてないんだ。……それにしても。ライナスのあの特異な力。あれも魔力によるものなのだろうか。あいつは、本当に興味が尽きない弟だよ」


 ……弟を検体としか思わない、イかれた偏執狂の美形兄貴共からな!!

 俺は庭園の茂みに隠れて、一人執筆に勤しみながら内心で毒づいた。

 こいつらのせいで、休日もまともに執筆できやしねぇ……。いい加減キれるぞ。グレるぞ。

 俺が道を外したらお前らのせいだからな!!


「俺だって最近は中等部の課題やら何やらが忙しくて、なかなかライナスと稽古できてねぇんだよ! …一度ライナスと稽古する楽しみ知ったら、学園の奴らなんてお粗末過ぎててんで物足りねぇし。レックス兄貴は、もういい年した大人なんだから弟構うのいい加減やめろよ」


「私だってまだ18歳だ。それに、弟の面倒見るのは長兄の役目だろう? お前こそ課題に集中したほうが良いんじゃないのか。まもなく試験の筈だろう。お前はライナスと同じくらい強力な魔力を持ちながら、全く活用しないから勿体無い。なんなら私がお前に魔法の良さを教えてやろうか?」


「ぜってぇごめんだ……俺は魔法みたいなチマチマした行為、性にあわねぇんだよ。剣の強化用の魔法が少し使えればそれでいい」


「ロナルド、お前は全然分かっていない!! いいか、魔法というのはな、剣ではけして成し得ない強力な攻撃力も、どんな武具でも敵わない高い防御力も、傷ついた体を瞬時に蘇生させる脅威の回復力も生み出すことができる、至高の存在なんだぞ!! それをたかが剣の補助だけに使うとは……」


「『たかが』? ああ? てめぇ、今剣を馬鹿にしやがったな? 塔に閉じこもって魔法研究ばかりしているモヤシ野郎の癖によ!! かび臭ぇ、ゴミみたいな本ばかり読みやがって!!」


「『ゴミみたい』…? 古代の高名な魔術師の努力と叡智が詰まった、貴重な魔術書をゴミみたいだと? ……昔からお前の頭は剣術ばかりで、それ以外何も詰まっていないのではないかと疑っていたが、本当にお前の脳は空っぽなようだな? ロナルド」


 ……お、雲行きが怪しくなってきた。いいぞ、いいぞ。もっと争え。争って二人で潰し合って、そのまま俺のことは放っておいてくれ。

 この二人は別に仲が悪いわけではないが、価値観が全く違うが故に、気がついたら勝手にバトってくれるからありがたい。どうせなら、いつも二人で来て欲しいくらいだ。

 特にレックスは、ロナルドほど俺の力に執着ないしな。俺、魔力量自体は家族の中では平凡だし。(俺の家系の魔力量が高過ぎるせいで、それでも一般的基準ではありえない高さなんだが)……ルーフェリアに3つの願いを聞かれた時に、下手に魔法のことなんて願わなくて良かったとつくづく思うよ。本当に。


「--よし、分かった!! 今日こそてめぇに剣術のすごさ分からせてやるから、稽古場に来やがれ!!」


「身を持って魔法の凄さを味わうのはお前の方だ。ロナルド……安心しろ。お前がどれほど怪我を負っても、いつものように優しいお兄様が、傷ひとつ残らないよう回復魔法を施してやるから」


 どうやら話がまとまったらしい二人は、すっかり俺を探していたことなんて忘れて稽古場に向かっていく。

 これでようやく執筆に集中できる。


「ライナスお兄様……こんなところにいたのね」


 ほっと気を抜いた途端、突然耳元にから聞こえてきた声に、思わず体が跳ねた。

 気配が…気配が、全くなかった…!!

 いつのまに、こんな近くに!?


「あら。お兄様。そんなに驚かなくても。私にはお兄様が隠れそうな場所くらい、すっかりお見通しよ」


「ライラ……」


 いつの間にか背後から抱きつくように密着していたライラは、俺と目が合うなり安心させるような笑みを浮かべた。


「安心して。お兄様。私はレックスお兄様やロナルド兄様と違って、お兄様の執筆を邪魔する気は全くないから。だって私、お兄様の小説も大好きだもの」


 …邪魔する気がないというなら、頼むから抱きつくのはやめてくれ…。

 一個下のライラは、現在9歳。けぶるようなウエーブがかった金髪が美しい、客観的に見ても愛らしい美少女だが、最近成長期にさしかかって徐々に大人に近づいて来てる。

 だからその…密着されると、当たるのだ。その、何だ……膨らみかけた、胸が。


 ……まだ幼い妹の、胸が気になるだなんて変態みたいだが、前世ではそれだけ女と無縁だったんだ!! 察してくれ!!



「あら。お兄様。顔が赤いわ。どしたの?」


「……何でもない。気にするな」


「そう? ならいいのだけど……ふふふっ…これくらいのことで赤くなるお兄様、本当かわいいわ」


 ライラが小声で何か言っていたが、雑念を振り払うのに必死な俺は気がつかなかった。


「それにしても、お兄様。こんな所で執筆されても集中できないでしょう。レックスお兄様達も稽古に戻られたようですし、屋敷の中で戻られたらいかがですか」


「いや……すぐにあちらの用事が終わって、また俺のことを思い出されても厄介だからな。暫くはここで作業する」


 俺の見立てでは、また今回もすぐにレックスが圧勝する筈だからな。

 ロナルドも下手な大人ならば瞬殺してしまうくらい、ずば抜けて剣の腕は優れている。相手がレックスじゃなければ、そこらの魔術師だって敵いやしないだろう。

 だが相手はあのレックスだ。ロナルドと同じくらい…否、もしかしたらそれ以上に偏執狂で、家族の誰よりも多い魔法量を持ち、十八年間ずっと魔術を研究し続けた男だ。

 年齢で五年も遅れを取っているロナルドがとても敵う相手じゃない。すぐにズタボロにされたうえで、傷ひとつない状態まで回復されてベッドに寝転がらされるのがオチだ。

 そんな結果が分かりきっているのにも関わらず懲りずに喧嘩を売り続ける辺り、ロナルドも大概頭がおかしいというか、ドエムというか……。絶対、対魔法の鍛錬になって、これはこれでちょうどいいと思ってるんだぜ。戦闘狂の考えることは全く理解できん。

 まぁロナルドのことはどうでもいとして(どうせレックスがちょうど良く手加減するだろうから大事になる筈ないしな)、問題はロナルド瞬殺後のレックスだ。

 戦闘が終わったら、間違いなくまた俺を探しに来る。また執筆の邪魔をしやがる。……そんな未来が分かりきってて、屋敷になんか戻れるか。


 ……しかし、いくら厚い木の板を用意したとはいえ、地面の上で執筆するのは大変だな……もともとこの世界の文字は複雑で書きづらいのに、ますます読みづらいことになってる。これじゃあ、俺だって読み返せるか分からんぞ。元々字は綺麗なほうじゃないしな。

 くそ…どこか隠れるのに最適で、執筆がしやすい場所はないのか……。


 頭を抱える俺に、助け舟を出したのはライラだった。


「ねぇ、お兄様……門を出て、少し歩いた所に今は使われていない空き家があるのって知ってる? あそこならば、他のお兄様達に邪魔されずに執筆に集中できると思うのだけど」


「門を出て? だが、あそこには門番が……」


 いくら正しい統治を成していたとしても、高位貴族ほど敵は多くなるものだ。

 それゆえに、俺とライラは中等部にあがる年齢まで、勝手に屋敷の外を出歩くのを禁じられていた。

 随分過保護な…とも思わなくもないが、その変は平和だった日本の常識とは比較してはいけないのだろう。

 父親にその辺をよく言い含まれているであろう門番は、いくら頼みこんだとしても俺とライラを外に出してくれるとは思わないのだが…。

 戸惑う俺に、ライラは不敵に笑いかけた。


「着いて来て。お兄様……秘密の抜け道、教えてあげるわ。ライナスお兄様だけに、特別よ」


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