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チーレムとか本当要らないんで俺に執筆に集中させてくれ下さい  作者: 空飛ぶひよこ


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ライナス4歳 チートの目覚め③

「みまもる? …かんさつしていたのまちがいだろ」


「同じ事じゃ」


 ルーフェリアは一瞬にして俺に近づくと、宙に浮いたまま俺に鼻先を突きつけてきた。

 腐っても女神。近くで見ると、陶器のような白い滑らかなその肌と、くっきりとしたアイラインを縁取る長い睫毛や、ルビーのような赤い瞳をはじめとした、恐ろしいまでに整った顔立ちがよく分かる。が、この距離間は正直不快だ。美少女のアップは見る人にとっては眼福かもしれないが、俺は別に嬉しくもなんともない。


「同じ行為をしても、それを捉える人物の主観によって表現は変わる。主も物書きならば、それくらい分かろうも。わらわが主を四年間見ていたのは事実なのじゃから、主ももっと良い風に捉えてもらいたいものじゃ」


「おまえをよろこばせるぎりはないからな」


「転生させてやったじゃろう? 様々な特典をつけて。もっと感謝しても良いんじゃぞ?」


「しごのたましいという、みかえりつきでな。とうかこうかんだというなら、おれとおまえのたちばは、たいとうだろう。へりくだるひつようせいをかんじない」


「ええぃ、あぁ言えばこうゆう。……女心がわからん奴め。だから主の描く小説の女キャラは魅力に乏しいと言われるのじゃ」


「………なぜ、しってる」


「わらわは異界を統べる女神じゃぞ? 過去視くらいお茶の子さいさいじゃ」


 ……ルーフェリアめ。痛い所をつきやがる。


 俺は自分で言うのもなんだが、文才はあると思う。発想力だって、他の作家に負けていない自信がある。

 けれども、前世の俺はなかなかデビューができなかった。なぜか。

 俺が投稿していた小説の評価シートに書かれる言葉はいつも同じだった。「ヒロインに魅力がない」

 必死に市場調査をして、男の理想と思われるヒロイン像を作り上げても、なぜかいつもその点ばかりが指摘される。解せない。俺の描くヒロインの一体何がいけないというんだ。

 悩み抜いたあげく、男キャラがメインの戦記物で何とか書籍デビューを果たすことができたのだが、それでも担当編集者に出番が少ないヒロインを相当手直しされたのは苦い思い出だ。

 今世こそ、この欠点をなんとかせねば……。


「それにしても……ふむ。改めて近くで見てみても、なかなか愛らしい顔をしているの」


 過去の追憶に耽りかけていた俺の意識を、顎をすくいあげることによってルーフェリアは元に戻した。

 正直手を振り払いたいが、取りあえずこの場は耐える。まだ助力を頼んでいない今の段階で、あんまり機嫌を悪くされても困る。


「せっかくじゃから、転生する体の顔立ちまでこだわってやったんじゃ。金髪、碧眼…なかなかの理想的な美形じゃろ? 前の主とは雲泥の差じゃ」


「・・・・・・べつにおれは、まえのかおのままでもよかったんだが」


「あんな十把一絡げで売られてそうな、大量生産顔のどこが良かったんじゃ。またあんな顔で生まれさせたら、ちと人ごみの中に交じっただけで、わらわが主を見失ってしまうわ」


 ……随分な言われ様だな、俺の元の顔。

 確かにどこにでもいそうな平凡な顔だったが、俺としては全く不満はなかったんだぞ。おい。ずっとその顔だった分、それなりの愛着もあったし。


「綺麗なものを好むのは、生物の本能じゃ。これから一生涯を追って観察するなら、やはり美形じゃないとな。主も嬉しかろうも? これで将来は女の子にもてもてじゃ」


「……べつにもてたいとかのぞんでないんだが」


「じゃが、もてたらその分女のことが分かるぞ? そうしたらきっと、主が描く女キャラも、きっと魅力的になるじゃろうて」


 ……それは、ちょっといいな。正直、ちょっと揺れた。

 だが、実際の女が、フィクション上の理想の女のようとは限らないしな。

 そもそも、モテたりなんかしたら、その分会話だのなんだので時間がとられる。そんなものの為に執筆時間を削られるのはごめんだ。

 ナシだ。ナシ。やっぱり、女にもててもちっとも嬉しくない。


「そんなことよりルーフェリア……おれのちから、なんとかならないのか?」


「なんじゃ?藪から棒に。ちゃんと主がどんな賊も撃退できるようにちぃと能力を与えてやったというのに、何が不満なんじゃ?」


「つよすぎなんだよ…!! あきらかに、じんがいレベルじゃないか…!!」


 四歳で、こんな力を持っているとか本気でありえない。どう考えても異常だ。

 ……まさか成長したらもっと強くなるなんて言わないよな。

 頼むから勘弁してくれ……俺は悪目立ちしたくないんだ。悪目立ちすることなく、一人で平和に執筆をしたいんだ。


「せっかくわらわが渾身の特典を与えてやったのに、主は我儘じゃのう。……じゃが、与えてしまったものは、今更どうにもならん。諦めて、自力で調整できるようになるんじゃな」


 口元に笑みを浮かべたまま、首を横に振ったルーフェリアの言葉に、思わず耳を疑った。


「は…? おまえ、かみだろう」


「主は神を万能視し過ぎじゃ。神だとてできることとできないことがある。一度与えた祝福や呪いを取り消すのは、わらわとて不可能なこと。与えた時点で既に魂にそれが組み込まれてしまっているからの。まぁ、もしかしたら祝福を与えてすぐなら取り消すことは可能だったかもしれんが、既に主に祝福を与えて四年経っているからの。もう既に祝福は主の魂に染みこんでしまっとるわ」


 こんな異常な力を持って、これから一生過ごさないといけないとか嘘だろ……。


「……そのうちおれは、うっかりひとをころしてしまうかもしれない」


「人間と言うのは繊細で脆いからの。難儀な生き物じゃ。……そうじゃ。祝福の取り消しはできないが、新たな祝福を与えることならできるぞ」


「……新たな祝福?」


「そう。例えば【主が望まない限り、人を殺したり、重大な傷害を負わせたりはしない】とかな」


「それなら、【おれがのぞまないかぎり、ちからがはつどうしない】ということにしてくれ」


「それは無理じゃ。祝福の取り消しに近いからの。祝福するにあたっても、るーるというものがあるのじゃ。まぁ、主は変なことを考えずに、わらわの提案に従っておれ。これはわらわの好意じゃぞ」


 ……本当か?どうも胡散臭い。

 だってこいつ、明らかに俺の今の状況楽しんでんじゃねーか。本当はできるの隠してるだけなんじゃ……。


 しかしルーフェリアを疑った所で、どうにもならない。主導権はルーフェリアにあるのだから。祝福を与えるも、与えないもあいつの自由。例えルーフェリアの言っていることが嘘だとしても、俺にはその真偽を確かめる術などないのだから。


「わかった……それじゃあ、そのしゅくふくをたのむ」


「ふふん。主の願いを叶えてしんぜよう。せいぜいわらわに感謝するのじゃな」


 得意げなドヤ顔が非常に腹が立つが、我慢だ……我慢。

 俺は与えられるルーフェリアの祝福を甘受しながら、俺はこの先待ち受けている未来を憂いた。


 ……そういえばあの時願った特典って、家柄と力以外にもう一つあったな……。

 簡単には死なない強靭な体って……まさか、な。




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