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チーレムとか本当要らないんで俺に執筆に集中させてくれ下さい  作者: 空飛ぶひよこ


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ライナス4歳 チートの目覚め

「にぃた。らい、にぃた。おはなち、ちて。おはなち」


「はいはい。ライラ。おまえは、おれのおはなしがすきだね」


「らいら、らいにぃ、しゅき‼ だいしゅき‼」


「……そこはおれじゃなくて、おれのはなしがすきというところだろ」


「どっちもだいだいだいしゅき‼」


 俺は猫のように擦り寄る三歳の妹に呆れながらも、その頭をそっと撫でた。

 一つ年下の妹ライラは、どうしたことか生まれた時から、俺にべったりだ。特別優しくしたわけでもない筈なのに、明らかに他の家族とは違う態度に正直戸惑いを隠せない。なんせ、生れてすぐ泣き喚いていた時さえ、俺が近くに寄れば泣きやんだくらいの筋金入りブラコンだ。一体俺の何を気に入ったのか理解に苦しむ。……まぁ、いい。きっと今だけだ。年頃になれば、また変わってくるだろう。

 それに、ライラが俺に懐くのはそう悪いことばかりではない。


「きょうのはなしは、むかしこのくにをつくった王さまのはなしだよ。……王さまにてきたいした、まおうが、なぜわるいことをしたかのおはなし」


「まおー?」


「わるいやつらの、おうさまのこと……でもね、まおーもね、すきでわるいやつになったわけではないんだ」


 ライラに新しいお話を聞かせるという名目で、俺はオリジナル民話の創作を自由に行うことができるようになった。


 ライラがいるから俺は「ライラにまた同じ話を聞かせたいから」という理由で与えられたノートに書き記すことも、「ライラに聞かせる物語を知りたいから」という名目で本を強請ることもできる。


 幼い体に大人の脳みそを持つ俺は、成長するにつれて周囲に不気味がられるようになっていた。両親はそんな俺でも変わらず愛し続けてくれていたが、使用人達はいつの頃からか化け物を見るような目で俺を見るようになっていた。別に他人にどう思われようとどうでもいいのだが、それ故に観察対象にされ、行動が制限されるとなると、そのままにしておくわけにもいかない。異常な行動を恐れるが故に、使用人たちはさりげなくを装って俺から紙や、ペンを遠ざけようとしていたのだ。どうも奴らには、暇があれば紙に向かって一心不乱に日本語の物語を書き記す俺の姿は随分と異様に見えたらしい。……ふざけた話だ。何の為に俺が転生したと思っているんだ。


 だからと言って、声を上げて抗議した所で、増々俺の立場を悪くするだけだということは分かっていた。どうしようもない状況に歯噛みをしていた時に誕生したのが、ライラだった。

 使用人たちの俺への悪印象を拭う為には、正真正銘の無垢な赤子であるライラの存在は非常に有用だった。俺がライラの為を考え、ライラの為を思って行った(ように見える)行動ならば、多少年齢にそぐわないものであっても、何故か奴らの目には「いいお兄ちゃんになる為に頑張った故の行動」に映るらしい。……やっている行為自体は同じなのに、じつに単純なもんだ。

 また一歳差の幼いライラを観察することで、俺は実際の年相応な幼子の行動を学ぶこともできた。ライラを参考にして、少し幼児らしい演技を続ければ、次第に使用人たちの目は柔らかいものに変わっていき、俺に対する監視も弱くなっていった。勝手に紙やペンを触っている姿を見ても、目を細めるくらいに。

 そう言った意味で、俺はライラには感謝しなければなるまい。


「らいにぃた。おはなち、おもちろかった!」


「そうか。なら、よかった」


「らいにぃた。しゅごい。おはなち、たくしゃん、しってる!!」


「しっているんじゃなくて、これはぜんぶ、おれがつくったんだよ」


「おはなち、つくる? もっとしゅごい‼」


 ぱちぱちと紅葉の様な手を叩くライラに笑みを零しながら、俺は手元のスケッチブックに先程作った物語を、拙いこの世界の文字で書き留めた。


 元々存在する物語を改変して脚色し、新しい物語を創作する……これは、今現在出回っている物語の構造を体得するには実に有効な手段だ。

 元の世界では王道的物語をテンプレだの、模倣だの批判する輩がいたが、実際流行となる物語というのは、いつの時代も一つの構造から発展し、変容していくものだと俺は思っている。

 西洋文学では、まずは王道的な騎士物語があって、そこから亜種が生まれ、そして時代に合わせて思想を取り入れて発展していった。

 民話は語りつがれていくうちに変容し、地域によって同じ構造でありながら、独自色を持った形で残存するようになった。

 今語られている物語というのは、語られているだけの理由があるのだ。聞き手を惹きつけるだけの、何かが。ライラしか物語の聞き手がいない今の状態では、まずはこの世界の物語構造を体得して自分のものにすることが先決だ。


「……ライナス。また、そんなスケッチブックにお絵かきをしながら、ライラと遊んでんのか?」


「ろん、にぃ!!」


「……ロナルド、にいさん」


 俺は三歳上の次兄の登場に、思わずスケッチブックから上げた顔を歪めた。


「おえかきをしていたのではありません……ものがたりを、かいていたのです」


「んなの、どっちも大差ねーだろーが。男なら体を動かせ、体を‼ ほら、俺が今から剣の稽古をつけてやるから、な? な?」


「やー‼ らいにいた、らいらとおはなちすりゅの‼」


「ライラ、お前は黙って見てろ。お前がそんなんだから、ライナスはちっとも体動かさねぇんだ。…ほら、ライナス。俺の模擬刀貸してやるからよ? な? 相手してくれよ」


 次兄ロナルドは、けして悪い奴ではない。面倒見がよい兄貴肌で、普段は俺のこともライラのことも可愛がってくれている。懐が深いガキ大将と言ったところか。


「ライナスも男だったら、剣くらい使えないとな‼ レックス兄貴は魔法が一番だとかほざくが、接近戦には剣が一番だぜ!!」


 ……ただ、非常に暑苦しい剣術馬鹿なのだ。暇さえあれば鍛錬を始め、勝手に一人でやっていてくれればいいものを、隙あらば俺を巻き込もうとしてくる。

 どうも、俺のフェルディアの血筋は皆、偏執狂の気があるらしい。

 いつも口元に笑みを湛えている父ルーカスは普段は穏やかで虫一つ殺せないような人だが、自分が治める領土に対する想いは半端無くて、仕事の際は人格が180°変わるし(大声で部下を罵倒している姿を見た時は、目を疑った)現在12歳の長兄レックスは、知的で冷静沈着な少年だが、魔術の研究に一生を捧げたいと恍惚とした表情で語る変人だし(俺の魔力の質は魂のせいか少し変わっているらしく、顔を合せる度に研究させろとうるさい)、次兄はこれだ。

 俺の人格形成に今世の血筋は関係ないのに、恐ろしく血の繋がりを感じてしまうのは何故だろうか。せめてライラは母フレイアに似て、そんな偏った嗜好に振り回されない普通の人生を送って欲しいと、自分のことは棚にあげて願ってしまう。


「……ロナルドにいさん。おれはまだ4さいですし、そもそもけんなんて、にぎったことがありません。まいにちけいこをしているにいさんに、つきあうなんてむりです」


「まだしたことないからこそ、訓練すんだろ? 大丈夫だ。まずは俺はお前にはなにもしねぇから。お前はおれが構えた剣にむかって、打ち込んでくればいい」


 まずはって……そのうち打ち合いさせる気か。三歳下のひ弱の弟に。勘弁してくれ。

 俺はこっそり溜息を吐きながら、つきだされた模擬刀を受け取った。こうなったら、もう俺が一回でも打ち込まない限り、ロナルドは満足しないだろう。


「……あれ、いがいとかるいな」


 渡された模擬刀は、想定していた以上に軽かった。生まれてこのかた、ろくな運動をしてこなかった俺の腕には自分で言うのもなんだが、まったく筋肉などついていない。そんな俺が軽々と模擬刀持てるだなんて、正直意外だった。

 まぁ、そうは言ってもロナルドはまだ7歳だ。子ども用の模擬刀なんて、そんなものかもしれない。


「よし、ちゃんと持ったな!!……うん、持ち方は合ってる。我が弟ながら、なかなか筋がいいぞ‼ それじゃあ、俺の剣に向かって打ち込んで来い‼」


「……はい」


 正直、俺はやる気が全くなかった。

 変に成長を期待されて、また次回もなんてなっても困るから、寧ろロナルドに幻滅されたくて、俺はわざとへなちょこな動作で剣を振りおろした。勿論、力なんて全然入れてない。


 それなのに。


「…っろんにぃっっ‼!!」


 俺が剣を振り下ろした瞬間、ロナルドは後方に向かってすごい勢いで吹っ飛んで行った。


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