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チーレムとか本当要らないんで俺に執筆に集中させてくれ下さい  作者: 空飛ぶひよこ


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Re birth

 包み込む光がなくなった瞬間、俺は生暖かい液体のようなものの中にいた。

 ここは一体どこなのだろうか。……分からない。

 わからないけど、ひどく穏やかで心地よかった。

 不安も恐れも、何もない。ここは、今まで生きてきた何処よりも安全で、安らげる場所だと、俺の本能が告げる。

 体を丸めながら、まるで微睡んでいるかのような心地で、液体の中に身を委ねる。……俺は遠い昔に、同じ体験をしたような気がする。

 きっと、ずっとここでこうしていれば幸せなのかもしれない。このまま、ただ、何も考えずに液体に身を委ねていれば。


 ……ああ、だけど。


 だけど、ここには、紙が、ない。


 紙に文字を書き記す、筆記用具も、何もない。


 そもそも俺の視界には景色というものが何も映っていやしないし、俺の体はほんの僅かにしか……それでも事故直後の全く動かない時に比べれば大分マシではあるけれど……動かすことができない。


 これじゃあ、駄目だ。ここじゃ、小説は書けない。

 小説が書けない場所なんて、どれほど居心地が良くても意味がない。それだったら、不愉快に満ち溢れていても、小説が書ける環境の方がずっと良い。だって、その時は身に降りかかる不愉快さですら、きっと小説のネタになる筈だから。


 いやだいやだいやだ


 こんな場所、いたくない。


 出たい。出たい。出たい。


 こんな狭い場所ではなく、もっと広い場所に‼ 広い、世界に‼


 そう思った瞬間、体がまるで何かに吸い寄せられるかのように動くのが分かった。

 何も映さない瞳は、それでも光だけを認識して、自分が僅かに感じる光の方に引っ張られていることを知らせる。

 あそこだ。あそこから、出るんだ。

 あそこが、俺の新しい人生の、始まりなんだ。


 俺は体を取り巻く何かの力に身を任せ、光の方を目指した。

 頭が圧迫され、苦しさにもがくが、それでも俺は力に抗おうとはしなかった。

 この苦しみに耐えれば、外に出られる。――小説が、書ける。


 自分の体を包んでいた液体が、流れ落ちるようになくなっていくのが分かる。

 途端に感じた空気の冷たさに、空いた口から喉に流れこんでくる空気の感触に、俺は込み上げて来る生理的な何かを堪えきれなくて、大声で泣き叫んだ。


『生まれたわ……なんて、元気な赤ちゃん』


『ああ。金色の髪がフレイアにそっくりだ!! 元気で、美しい子だ』


 外を出た瞬間、聞いたこともない言語で騒ぐ男女の声が聞こえたが、俺はその意味を理解することが出来なかった。

 外に出てもなお、俺の目はまだ光以外を認識することができず、男女の姿ですら薄ぼんやりとしか認識が出来ない。


『私の愛しい三番目の息子……お前は、ライナス。ライナスだ。古の英雄の名に恥じない、立派な男に成長しておくれ』


 ただ、男が告げた『ライナス』という単語が、自分の名前であることは何となく理解できた。

 そして、自分の体を抱き上げる男が、恐らく今世の自分の父親であるということも。


 ライナス。

 ライナス・フェルディア。

 それが、俺が今世の生で得た、新たな名前だった。




「あーあーあー(すみません。腹が減ったので飯をお願いします)」


「あらあら、ライナス。お腹すいたの?……それとも、おしめかしら」


「あっ‼ あー!あー! あー! あー!(ち、違‼ 確かに今の俺は、おしめの中でしか用を足せない身だけど、今は違う、違うんです!! ……あーー‼!)」


「おしめは濡れていないから、おっぱいね……ほら、たーんとお飲み」


 ……一度成人した男が、その意識を持ったままもう一度赤ん坊をやらされるのは、羞恥プレイでしかないと、実感させられる。

 ルーフェリア……もう少し育ってから記憶を戻すとか、そういうことは出来なかったのか……。頼むから。

 俺は局部を晒された羞恥に噛みしめながら、差し出された母親の胸に顔を寄せた。……まぁ、そうは言っても美女の双房を思う存分揉める今の立場を、少し喜んでいる自分がいるのも確かだ。……仕方がない。俺だって男だ。おっぱいはエロスを超越した浪漫だ。


 視界がはっきりしてから分かったことだが、俺の母親にあたるフレイアは金髪碧眼のかなりの美女だった。そして、父親にあたるルーカスも黒髪碧眼なきりっとした美形。兄、レックスと、ロナルドも同じく。

 この世界の美的基準が今のところ分からないから、なんとも言えないが、恐らく美形一家で、俺もまた同様であると考えた方がいいだろう。残念ながら、まだ鏡を覗いたことがないから、真偽は不明だが。……まあ、別に前世だってよくも悪くもないな自分の顔に不満は無かったから、別に俺一人が美形でなくてもどうだって良い話だが。

 視界が届く家の中を見る限り、この世界はファンタジーの王道、中世ヨーロッパ的な世界ってとこだろうか。また、随分とベタベタな異世界に転生したものだ、と内心少し呆れている。




「……げぷっ」


「いっぱい飲んだわねー。ライナス。良い子良い子。……それじゃあ、ねんねしましょうか」


「あー‼ あー‼ あー‼ あー‼(ちょっと、待てくれ‼ まだ、いつもの話を聞いていないぞ‼)」


「ねんね嫌なの? ……また、お話を聞きたいのかしら」


「あーう、あーう(そうだ、そうしてくれ)」


「本当にライナスは、あの話が好きねぇ……いいわ。お話してあげる。だから、良い子に寝て頂戴ね」


「あー……(本当は別の話も聞きたいんだが…)」




 俺が転生して、すぐに目指したのは言葉の習得だった。

 視界がはっきりした今、ペンと紙さえあれば日本語で小説を書きとめると思ったのだが、生れたばかりの俺のそんな行動はいたずらとしか思われなくて、すぐにペンと紙を遠ざけられてしまい、果たせなかった。

 そうでなくても、赤ん坊の体というのはとにかく眠くて、とても執筆に集中できそうにない。

 ならば、今出来ることは、少しでも早くこの世界の言語を習得して、そして執筆をする上で最前提となってくる「今の世界」を知ることだった。

 世界を知らないままに、ただ作者の世界の中だけで完結して描かれた物語が、大衆受けする筈がない。それが、俺が小説を書く上での持論だった。

 より一般受けする小説を描く為には世界を、そして、世界に出回っている物語傾向を知らねばならない。オリジナルティを追求するのは、まずそこからだ。知らずに、自分だけの世界を表現するのと、知ったうえで自分だけの世界を表現するのとでは、全く別物なのだから。

 その為に、俺が一番最初に乗り越えないといけない壁は、「言語」だった。


「あなたの名前のもとになったライナス様は、この国を一番最初に作った英雄だったのよ、彼は、高い魔法の能力と、剣の才能を持っていて……そして、そう。ライナス。貴方や私と同じ、金色の髪をしていたそうよ」


「あうあう(ふんふん)」


「ライナスは、当時世界を闇で包み込もうとしていた魔王を倒した後、その城を修復して自分の城にして、国を興したのよ」


「……あぅ…(……それって、国の乗っ取りだよな。どう考えても。魔王って、本当に邪悪な存在だったかも怪しい所だな)」


 赤ん坊の脳みそというのは不思議なもので、何度も繰り返し同じ話を聞いているうちに、不思議とその意味が理解できるようになっていった。……もしかしたら、某悪魔の加護とやらが働いているのかもしれない。だとしたら、この点はあいつに感謝せねばなるまい。

 流石に喋れるようになるのはまだまだ時間が掛かりそうだが、耳での聞き取りは通常の赤子にあるまじき理解度だ。そのうち、家人の話を盗み聞きしたりして、もっとこの世界を理解出来るようになるだろう。

 そしたらきっと……もっと…小説が………小説が…面白く…………


「あらあら、寝ちゃったの? ライナス……」


「すー…すー……」


「それにしても不思議ね……まだ言葉なんて分からない筈なのに、まるで理解しているみたいにいつも私の話をじっと聞いているんだから。――もしかしたらこの子、天才かもしれないわ」


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