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ライナス15歳 ミーシャの救出①

 ……最近セリエと話しをするのが、どうも億劫だ。


 一時期は執筆の参考になると楽しくて堪らなかった放課後の時間だが、いざ聞きたいことを全て聞きつくしてしまうと、あとはもう執筆に集中したくなって、徐々に図書館から足が遠くなってしまった。

 たまに行っても、最近では本の話ではなく、俺の私生活やセリエ自身のことといった、あまり執筆に訳に立たないことまで話そうとするので、正直面倒臭いのだ。……俺は執筆に関わる話だけをしていたいのに。

 しかし俺が会いに行かないと、今度はセリエが時間を見つけて自ら俺に会いに来るようになってしまった。

 そして、そんなセリエを見て何故かディアナが憤って乱入し、その噂を聞きつけてやってきた妹のライラが「お兄様に近づかないで」と激高するという謎の連鎖が出来上がってしまったのだった。


 ……なんでこんなことになったんだ。俺はただ、執筆に役立つ話が、そして俺の新作に対するファンの反応が聞きたかっただけなのに。


「【不死身】‼ どこにいるんだ⁉ お前は私より、このエルフの小娘が好きなのか⁉」


「……ライナス様は別に、ディアナさんの物じゃないでしょう。……ライナス様は剣よりも、読書の方が好きなのです。ディアナさんは、もっと剣がお好きな方の方が良いのではないですか?」


「うるさい‼ そ、それに私は、【不死身】をす、好きだなんて、一言も……」


「そうなんですか? 良かったです。それじゃあ、ライナス様に以後付き纏わないで下さい。ライナス様だって迷惑でしょう?」


「お、お前に指図される筋合いなんぞない‼」


「……どっちも邪魔よ。邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔……お兄様に女なんか要らないのお兄様は私と、ずっと二人で過ごすの……お兄様を奪う女は殺す殺す殺す殺す」


「……いい加減ライラさんも、兄離れされた方がいいんじゃないですか? 言っておきますけど、エルフである私に、人間の呪術なんて効きませんからね」


「……あらゆる呪いを弾き返す、騎士の守りを持っている私にもな。殺すというなら、いつでも直接掛かって来い。決闘なら受けてたつぞ」


  俺は恐ろしい会話を交わす女共から身を隠して、ひっそりとその場を離れた。

 ……セリエ、お前、そんなキャラだったか?

 ライラも。いつものこととはいえ、どこで育て方間違ったんだか、と兄として段々悲しくなってくるぞ。……昔は単純にブラコンなだけだったのに。


 溜息を吐いて向かう場所は、今は使われていない古い書物ばかり置かれた第三書庫室。

 こっそりマニアックな蔵書ばかり置いてあって、埃くさいそこは、滅多に人が寄りつかない絶好の隠れ場だ。(実は鍵がかかっていたのだが、奴らから逃げる為にこっそり魔法で壊して侵入した次第だ。……何、卒業する時にはまた直せば問題ないだろう)小説の参考になる本もたくさん置いてあるから、俺のお気に入りの場所でもある。

 嬉しいことに、多少汚いが使われなくなった机や椅子もあった為、拝借して書庫の中に執筆環境を整えた。最近では、放課後はこの書庫で執筆してから帰宅するのが日課になっている。


 だがしかし。本日は残念ながら、先客がいたようだ。


「やめ、やめるのにゃああ!! ミーシャに触らにゃいでにゃ‼」


「ミーシャちゃん脅えてるの? かわいいね。大丈夫、怖い事なんか何もしないから」


「そうそう……ちょっと、そのお耳と尻尾をモフモフさせてくれればいいんだ……ああ、脅えて倒れたその耳、たまんねぇな……」


「獣人の耳と尻尾は急所にゃにょにゃ‼ そうみだらに人に触らせるものじゃにゃいのにゃ‼!」


「あぁ……ナ行が言えないところも、本当可愛い……猫、本当最高」


「ほら、ミーシャちゃん……実は俺、こんなもんも持って来たんだ。一緒に遊ぼうぜ? な? な?」


「ああ、体が勝手に動くにゃ‼ 卑怯にゃ‼」


  ……何だこの、物騒なのか、平和なのか分からない会話は。

 俺は、涙目で揺らされた猫じゃらしに飛びつく猫獣人少女と、にやにやと笑いながらその様を見守る不良…なのか二人を前に、固まった。

 ……というか、お前ら扉が開いて俺が入って来たことを気付けよ。どう反応すればいいか分からないだろうが。

 このまま回れ右して返って良いだろうか、と悩む俺に聞き捨てならない声が飛び込んで来た。


「しかし、本当ここ、穴場だな」


「これから毎日ここで俺達と遊ぶか? ミーシャちゃん」


  「い、いやにゃあ!!」


 ……毎日、だと?

 学園において、俺の最高の執筆場所を、こんなわけがわからんじゃれ合いの為に奪われるだと。


 ……許さん!!


「……残念ながら、ここは俺の場所だ」


「ひぃっ‼ 【不死身のライナス】‼」


「いつの間に、俺達の後ろに‼ け、気配なかったぞ‼」


 ……アホめ。俺の気配がないじゃなくて、お前らが鈍いんだ。

 俺は二人の男の首を抱え込むようにして背後から腕を回しながら、脅すように軽く締め上げた。


「ぐぅえっ」


「分かったら早くここを出ていけ……二度とここに近づくな」


「わ、分かりました!! ……分かりましたから腕を…腕を離してください‼」


 ……どうやらまた、力加減が出来ていなかったようだ。

 俺が手を離すと、不良どもは咳き込みながら脱兎のごとく逃げて行った。

 おいお前ら……遊んでいた猫も一緒に連れて行け。


「……あ、あにょ……」


 ミーシャと呼ばれていた少女は戸惑ったように俺を見上げながらも、不良たちと違って逃げて行く気配はない。

 目を潤ませて上目づかいに俺をミーシャは、不良たちがモフりたくなる気持ちも分かるくらい可愛らしい顔をしていた。

 猫の種類で例えるならば、アメリカンショートヘアといったところだろうか。

 髪の色はピンと上を向いた耳と同じ、茶色と黒の斑模様だ。

 吊り上り気味のくりっとした目の中の瞳は、エメラルド。

 小さな鼻も、口端が自然にあがった薄い唇も、小柄な体も、全てがミーシャの愛らしさを一層強調していた。

 まさに愛玩動物といった風情だな、と他人事のように思う。……実際他人事だ。俺はもう、これ以上この少女に関わる気はないのだから。



 ……一応被害者であるこいつを、追い出すのも心苦しいしな。仕方がない。今日はここを使うのを諦めるか。


「……大丈夫、だったか」


 一応人としての礼儀として掛けた声に、返ってきた言葉は予想外のものだった。


「……王子さま、にゃ……」


「………は?」


「……王子様が、ミーシャを助けに来てくれた、にゃ‼」


 ………何言ってんだ。この女。


「ミーシャ、ずっと信じてたにゃ……いつか、ミーシャにょ王子様が、ミーシャの前にいつか現れてくれるって‼ ずっと、ずっと待ってたんだにゃ‼」


 ……なんだこの女。電波か?


 俺は頬を染めながら、ぴょんぴょんと跳ねて喜びを露わにするミーシャに、内心ドン引きだった。

 王子様?俺が?たまたま不良に絡まれているのを確かめただけで?


 ……駄目だ。理解できない。というか、理解したくない。……どんだけめでたい脳みそをしているんだ。この女は。


 俺は早々に思考を放棄して、一刻も早くこの場を立ち去ることにした。

 これだけ元気があるなら、これ以上気を使ってやることもないだろ。……元々襲われていたというには、あまりに平和な光景だったしな。


「……それじゃあ。俺は失礼させてもら……」


「……待つにゃ‼」


 ……だがしかし、そんな俺の両腕にしっかとしがみ付いたミーシャが、逃亡を許してはくれなかった。


「ま、まだにゃんにょお礼もしてにゃいにょにゃ‼ 助けてくれてありがとうにゃ‼ お礼に……お礼に、王子様だったら、ミーシャの耳と尻尾、触らせてあげてもいいにゃ‼ 」


 ……ええ――……。


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