ライナス13歳 ディアナとの邂逅②
武芸大会は一年男子は全員強制参加。
だが、女子の場合は希望者のみの参加となっている。
その為参加する女子は少なく、また参加したとしてもすぐに敗退してしまうのが殆どで、俺は決勝に至るまで女子相手と闘うことがなかった。
だからこそ、ディアナが決勝まで勝ち抜いたのは予想外といえば予想外な結果だった。
……まぁ、正直俺は、その勝因の一つにディアナの格好があると思っているのだが。
「…っな、なんだ【不死身】。そんな目で私を見て……ふ、ふふん。私の勇ましい姿に見惚れているのか」
……いや、見惚れているのは、お前の雄姿ではなくて、13歳とは思えないその胸の大きさなんだが……。
俺は僅かな金属で隠されながらも、はっきりとその曲線を露わにしている胸からそっと目を逸らす。
10代前半の、少年にとって、ほぼ水着状態のディアナの格好は刺激が強すぎる。掌がすっぽり入ってしまいそうな深い胸の谷間も、きゅっとくびれた腰つきも、小麦色に日に焼けた腕や顔とは違い、元々の肌の白さが伝わってくる引き締まった太ももも、どこを見ても思わず視線を奪われてしまう。……こんな状態のディアナと対峙してどうやったって注意力が散漫になるのは必然だ。
これを狙ってやっているなら、寧ろ大したものだと思うが……
「……ディアナ。その…お前が身に着けているその鎧は」
「なんだ、この鎧が気になるのか? これは我がアーシュレー家に伝わる、由緒正しい女性用の鎧だ!! 魔法耐性まで備わった高い防御力と、抜群の動きやすさを誇る、最上級の一品だ。この鎧に目をつけるとは、流石【不死身】……い、いや、だからと言って、私はまだ、お前を認めたわけではないからな!!」
……違うらしい。まじか。こんな格好しておいて、そういう目で見られる自覚ないとか、どんだけだよ。
そもそも高い防御力って、本当か。嘘だろ。腹とかがら空きじゃねぇか。
由緒正しいというのも、正直怪しい。……単に、お前の先祖がエロかっただけだろ。
だが、勿論そんなことを口に出せるわけもないので、小さく「そうか……」と返してやると、ディアナはふんと鼻を鳴らして口端をあげながら、誇らしげに胸を張った。
……やめろ。でかい胸が、増々でかく見える。
「それでは両者、定位置につくように。……今から決勝戦を開始する」
「ふふん…【不死身】ようやく、この時が来たな。女だからと言って容赦は要らんぞ。お前の全力の力を、私に見せてくれ!!」
……いや、全力でやった時点で、お前吹っ飛ぶから。
それこそ壁に叩きつけられて、綺麗に人型の状態で穴が開くから。
ああ……男だったら、それでもまぁ良かったのに。……面倒臭ぇな。
「両者、用意は出来たな、それでは……はじめ‼」
審判の教師の言葉を合図に、ディアナは剣を振り上げた。なかなかの素早さだ。速さだけなら、ロナルドよりも勝るだろう。
だが、大会用の模擬刀を手にしている俺の目には、剣の動きも、降ろされる筈の場所も、はっきりとわかった。
俺は、素早く繰り広げられるディアナの剣技を、必要最小限の動きでかわしてやった。
……さて、どうやったら、極力ディアナのプライドを傷つけることも、体に怪我を負わせることもなく、この戦いを終わらせることができるだろうか。
「なんだ⁉ 【不死身】避けてばかりか⁉ 何故、お前から技を仕掛けてこない⁉ お前の秘めた力を、私に見せてみろ‼ 私にお前の剣を、味わわせろ‼」
爛々と目を光らせて剣を振りながら、猛々しい笑みを浮かべるライラの姿は、稽古と称してことあるごとに俺に襲いかかって来るロナルドとよく似ていた。
全く、戦闘狂って奴らは、どいつもこいつもイカれてやがる。
……しかし、正直キャラとしてはこういう奴ら美味しいんだよな。個性がはっきりとしていて。
今書いている実在の人物をモデルとした英雄小説に、戦闘狂キャラを追加してみるのも、良い案かもしれない。……いや、いっそ主人公を戦闘狂にしてみるか?
だが、史実では主人公は、戦闘時も冷静沈着な人物だったと残されている。あまりに一般の認識とかけ離れた人物にしてしまっては、読者のイメージが……いや、逆にそれが新しいとウケるかも……っつ‼
「戦闘中に考えごととは余裕だな!! 【不死身】‼ ……それほど私は、お前にとって取るに足らないという存在なのかっ⁉ 私はずっと……ずっと前から、こうしてお前と闘える日を、待ち望んでいたというのに……っ‼」
い、痛―――‼!!
肉、今剣が掠った部分の肉が抉れたぞ‼ 絶対‼
刃がついてない模造刀だっつーのに、どんだけ馬鹿力なんだ…この女‼
どうせ再生するとはいえ、痛覚自体は普通の人間と同じなんだ…!! まじ、勘弁してくれ…!!
ディアナは何か知らんが、今にも泣きだしそうな悲痛な表情を浮かべているが、正直泣きたいのは俺の方だ。
……もういい。こいつのプライドとか、もうどうでもいい。
またさっきみたいな痛みを味わうのはごめんだし、それにさっさと終わらせて小説を書きたい。……まずは短編で、戦闘狂主人公バージョンと、そうでないバージョンを二種書いてみてから、長編をどっちにするか決めよう。実際に行ったことと、それぞれのキャラを照らし合わせて、どっちがよりしっくりくるか試したいんだ。こいつに付き合ってやる時間なんぞない・
俺は、俺の脳天に向かって振り下ろされた剣の真芯を、自身の模擬刀で捕えると、そのまま勢いよく天に向かって吹っ飛ばした。
「…っ‼」
ルーフェリアの祝福によって強化された俺の力に、ディアナの力が叶う筈もなく、ディアナの手から抜けた模擬刀はくるくると回りながら、天高く舞い上がっていく。
……おおう。高い高い。ホームランホームラン。……で、この試合終わりだな。
中等部の武芸大会は、片方の武器が手からなくなった時点で、もう勝敗は決定する。だから俺は、これ以上ディアナに何かをする必要はないのだ。
……あー疲れた。さっさと帰って小説を書こう。
俺が溜息を吐いて視線を戻すと、模擬刀を失ってバランスを崩したディアナが、ちょうど俺の方に向かって倒れて来ていた。
別に、避けようと思えば、避けられた。
それぐらい、武器を持った状態の俺の身体能力は高い。
だが、俺が避ければディアナは顔面から地面に倒れ込むことになる。
『……まぁ、せいぜい顔には傷をつけないように気をつけろ。あれで一応女なんだから』
先日のロナルドの言葉が脳裏に過ぎる。
……仕方がない。クッションくらいなってやるか。
「……ぶっ」
次の瞬間、ディアナの体の下敷きなって倒れこんだ俺の顔面は、何か柔らかいものによって挟みこまれそのまま圧迫された。
「……【不死身】…!! 何で避けなかった…お前なら、避けられただろうに……」
ちょ…そんなことはいいから、まずはどけろ‼!
息が、息が詰まるんだよ!!
「まさか……まさか私を庇って……」
「う…ううう……」
「? 何を言って……ああ、すまない‼ まずは避ける方が先決だったな……」
そこでようやく、俺はディアナの乳圧から解放された。
……おっぱいは男の浪漫だが、巨乳に顔面を押しつぶされて窒息とか、正直洒落にならん……。
「すまなかったな……それで、どうして」
「……俺が下敷きになれば、お前の顔に傷はつかないだろう」
……一応まあ、女の顔に傷をつけるのは、俺だって心苦しいしな。
「せっかく(客観的に見れば)綺麗な顔をしてるんだ……傷がついたら、勿体無いだろう」
その瞬間、ディアナの顔は一瞬にして赤く染まった。
「……て、やる……」
「……ん?」
「……や、約束だ!! 私に勝ったのだから、私はお前のことを認めてやるっ‼」
きっと俺を強い目つきで見据えたディアナは、そう言って俺に人差し指を突きつけた。
「……だから、今日から私のことは、ディアナと呼べ‼ 分かったな!?」
「……はぁ」
「っだから、呼べと言っているだろう!!」
「はぁ……ディアナ?」
「っ‼ も、もう一回だ」
意味が分からないまま、俺はディアナが満足するまで何度も名前を呼ばされるはめになった。
……本当、何なんだ。こいつは。
否真意はどうでもいいから、それより早く帰って執筆させてくれ。




