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ライナス13歳 ディアナとの邂逅

「――お前が【不死身のライナス】か⁉」


 俺が中高一貫の学園へ入学したその日。

 炎の色を宿したその女は、まるで嵐のように教室に押しかけて来た。


「……そう呼ぶ者もいるが……それが、どうした」


「ふん……そうか、お前がか」


 高く一つに結い上げられた真っ赤な髪に、勝気そうに吊り上ったアーモンド形の目の中で輝く橙色の瞳。

 きりっとした眉に、鼻筋が通った高い鼻。化粧っ気がないのに、赤い唇。

 その女は、客観的な見解でいえば、かなりの美人だった。ライラと並ぶくらいの。

 だが残念なことにその表情にも態度にも、可愛げというものは一切皆無だった。

 女にしては背が高く(それでも俺よりは頭一つ分小さいが)で、グラマラス。……動く度にでかい胸が揺れているのだけは、少し気になるな。正直。


「――貧相だな。ロナルド先輩の弟というから、どれほど鍛えているかと思えば……男の癖に情けない体つきだ。噂の真偽も怪しいものだな」


 女は値踏みするように俺を見て、不意にそう言って鼻で笑った。

 普通なら、突然押しかけられてこんな風に馬鹿にされて腹を立てるべき場面なのかもしれない。

 だが、俺にはどうでも良かった。……どうでもいいから、さっさと帰って欲しい。

 今、俺は新しい小説の構想中なのだから。……もう少しでいいアイディア浮かびそうなんだよ。邪魔をするな。


「……そうか。期待に添えなくて悪かったな。残念だ」


「っ何だ、その気がない返事は‼ この私がわざわざ貴様に会いに来てやったというのに…

 私を誰だと思っているんだ!!」


 ……なんか、昔誘拐された時も思ったけど、こういう言い方ってすごく三下っぽいな。

 一気に、自分を雑魚くみせるというか。価値を貶めるというか。

 有名な自信があるなら、黙っていればいいのに。……まぁ、どっちにしろこんな女知らないが。


「……悪いが知らないな。生憎世間の噂には疎いもので」


「っ‼ 私を……私を知らないだと…⁉」


 女はわなわなと口を動かしながら、真っ赤になって狼狽えた。

 怒らせたか?……だけど知らないもんは知らないんだから仕方ない。

 女は暫く激高に耐えていたようだったが、ややあって大きく息を吸うと、強い光を宿した橙色の瞳で真っ直ぐに俺を睨み付けた。


「っ、おい【不死身】‼ 二度とは言わないから、覚えておけ!! 私の名前は、ディアナ・アーシュレー。この国のある現将軍、マクベス・アーシュレーの一人娘にして、【戦乙女】の二つ名を持つ者だ!!」


「はあ……ディアナ、か」


「っっっ‼ ……な、名前で呼ぶんじゃない‼ その……まだ、今の段階では‼」


「……はぁ」


 ……何だか、さらに赤くなって狼狽えだしたぞ。……よく分からない女だな。


「……いいか!! その、来月行われる武芸大会‼ その武芸大会で貴様が私に勝つまでは、私はお前のことは認めん!! それまでは、ファーストネームでなんて、絶対に許さないからな!!」


 ……別に、俺はお前をファーストネームで呼びたくもないんだが……。

 そもそも、まず今後話す予定自体ないと思っていたんだが、まさかお前これからも俺に関わる気か?

 ……非常に邪魔くさくて、困る未来しか見えないから、やめてほしい。


「いいな!! 分かったな!! ……武芸大会、必ず参加するんだぞ‼ 不戦敗は認めんからな!!」


「……まぁ、一年の男は強制参加だから参加はするが……」


「なら、いい‼ ……言いたかったことは、それだけだ!! それじゃあ、また来月な‼」


 鼻息荒く言い放つと、そのままディアナと名乗った女は足早に教室を立ち去って行った。

 来る時も嵐のようなら、帰る時も嵐のような女だ。


 ……何なんだ? あいつ。




「おう。帰ったか。ライナス。どうだった? 初めての学園は」


「ロナルド兄さん……」


 家に帰ったら、先に帰宅していたらしいロナルドが、玄関の所で素振りをしながら立っていた。

 ……その棒の先に括り付けられた重り、一体どれだけの重さがあるんだ……?

 特別なチート能力とかなしに(当然魔法にも頼らず)、これをやってのける辺り、大概ロナルドも化け物だよな。


「……何か、変な女に絡まれました」


「変な女?」


「ディアナ・アーシュレーと名乗っていました。……俺が武芸大会で勝つまでは、俺のことを認めないとか突然喚きだしまして。……ロナルド兄さんの知り合いのようでしたが、ご存じですか?」


「ああ、変な女ってディアナか!! ……ったく、あいつも仕方ねぇなぁ」


 ロナルドは喉を鳴らして笑いながら、どこかからかうような目つきで俺を見た。


「あいつは、俺の剣術道場の同門なんだが……あいつは、ライナス。お前のファンなんだよ」


「……は?」


 ファン?……あれが?


「お前のっつったら、語弊があるな。……あいつがファンなのは、正しくは【不死身のライナス】であり、それに纏わる逸話のファンなんだ」


「……ああ。あの脚色だらけの変な噂の」


「何言ってんだ? ほとんど真実じゃねぇか。お前が10歳の頃、数十人はいた誘拐犯をたった一人で伸したことも、その際に剣が腹にぶっ刺さっても、一瞬にして回復したことも。11歳の頃に、噂を聞いて挑戦して来た槍の達人をぶっ放したことも。数か月後には、鎖鎌の達人を倒して、その一週間後はどっかの国の拳法の使い手。12歳の誕生日には龍人族の……」


「もういいです。ロナルド兄さん。俺の噂を聞きつけて、俺に挑戦をしてきた奴らを全部あげていったら日が暮れてしまいます……というか、よくそんなに覚えてますね。俺ですら忘れているというのに」


「それぞれ戦い方が異なって、見ているだけで勉強になったからな。……ちなみに、ディアナにお前の逸話を教えたのは俺だ。だから、あいつが知っている逸話は全て真実だ」


 ……って、元凶は、お前か!! ロナルド‼


「あいつは、いつもお前の話を目ぇきらきらさせて聞いてだんだぜ。『いつか私も一度手合せ願いたい』と頬を染めてよ。中等部でお前と一緒になるのを、ずっと前から待ち望んでたんだ。……いじらしいじゃねぇか。その気持ちを汲んで、試合してやれよ……まぁ、多少は手加減してやってくれ。あいつじゃ、絶対お前に勝てるわけねぇから」


 いや、面倒臭いから、いっそ手加減して負けてしまいたいのは山々なんだが。


「……俺は、武器を持つと手加減がなかなかできないのですが」


「だよなぁ。まぁ、言ってみただけだ。あいつ自体、手加減されることを望んでねぇだろうしな。……まぁ、せいぜい顔には傷をつけないように気をつけろ。あれで一応女なんだから」


「……はぁ」


 一応ルーフェリアの祝福で、望まない限り相手を殺したり後遺症が残らないように制限はかかっている筈だが……傷まではどうだろうか。

 まぁ、勿論、一応気をつけはするが……。保障はできん。


「……ところで、ライナス。暇なら、これから俺と稽古……」


「しません。執筆をしたいので」


 正直、少し……否、非常に憂鬱だ。




「ふ、ふはははは。流石【不死身】というべきか!! よくぞここまで勝ち残って来たな!!」


「……はぁ」


「【不死身】の二つ名を持つお前と、【戦乙女】の二つ名を持つ私‼ まさに決勝を飾るのに相応しい組み合わせじゃないか!! さぁ、尋常に勝負だ!!」


 ……そんなことよりも、俺は突っ込みたくて仕方がない。


 お前が着ている、その露出度が高すぎるビキニアーマー、ちゃんと防御の意味をはたしているのか?




 新しい小説の構想を練ったり、小説を執筆したり、それを校正をしたりするうちに、いつの間にか武芸大会の当日が来てしまった。

 トーナメント表からして、俺とディアナが当たるのは決勝戦。……面倒くさいから、適当な所で抜けようと思っていたわけだが、つくづく武器を持った状態の俺は手加減が出来ないらしい。

 あっさりと勝ち進むうちに、ついに決勝戦まで来てしまった。


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