表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/28

第13話 生物界の過去と真実

 生きた人間を主体とする『η細胞』に侵されキメラと化した篠目の真実を知り、絶望に暮れる時崎を助けに来た司馬が未知の細胞である『η細胞』の主体を知る事実に不信感を抱くが、『微生物シリーズ』の裏の真実は政府主導ではなく西村研究所とウェストア家が独自に行っていると語った司馬は、その先にある暗闇に向かい叫んだ名前と同一人物であるミストが二人の移動した深夜の公園の暗闇から姿を現した。


「リョウマ・・・。何時、自分の存在を知った」

「正確には分からなかったが、俺が時崎を助けに入った時に既にお前が西村研究所に居た事は、その独特な気配で察知出来た」

「ミストが・・・なぜ、ここに・・・。まさか、あなたが綾ちゃんに何かしたの!?」

「なぜ、自分がアヤに何かしなければならない?西村研究所に居た人間が怪しいのであれば、そこに居るリョウマも十分怪しい人物ではないか?」

「そんな事はどうでもいいの!ミストは・・・あなたは一体何者なの・・・」


 深夜に会うにはタイミングが良すぎるミストの存在に、今まで感じていた感情をぶつける時崎に対し、ミストは表情を変えずに話し始める。


「自分は、ウェストリア家の末裔であるミスト=ウェストリア。この先の未来を知る人物だ」

「・・・やっぱり、あなた『微生物シリーズ』を知る人間で、『η細胞』が人間によって出来る事を知っていたのね!」

「確かに、自分は『微生物シリーズ』の全てを知り・・・そして、その結末を知る人間だ。だが、『η細胞』を知るリョウマも、自分同様に『微生物シリーズ』の全てを知る人物ではないのか?」

「確かにそうだけど・・・。あなたと違うのは、司馬さんはウェストリ家と西村研究所が密かに進めていた『人体の組織再生』から推測しているからよ」

「『人体の組織再生』を知る人物・・・。なるほど、リョウマは『謎の生物』から『微生物シリーズ』を追い掛けたと言う訳か」


 ミストは時崎の言葉から、司馬がなぜ自身を『η細胞』を作り出した人間だと推測したかを理解すると、夜風に白髪を靡かせ司馬を見つめる。


「リョウマ・・・。この先の未来を知り、今までの過去を知らない自分は『人体の組織再生』の研究を知らない。その意味は分かるな」

「ああ・・・。『人体の組織再生』は日本発祥の研究だが、その研究は日本では禁句タブーとされる研究で、実際に誰がそれを研究したのかは未だに解明されていない・・・からだろ?」

「『人体の組織再生』は、昔現れた『謎の生物』の細胞を使った研究だと言われているが、生物は死すると灰のように消えサンプル回収は不可能だった。・・・だが、それを研究出来た者が存在するのであれば、なぜお前はそれを知る人物だと言う事だ」


 『人体の組織再生』は日本では禁止されている研究であったが、『微生物シリーズ』との繋がりを知る司馬はその真相を知る人物だと確信するミストに対し、冷たい視線のままの司馬は口を開き語り始める。


「・・・俺の祖父、俺の母親の父は宇宙工学研究者の『増田 隆之』で、後に『次元操作』を確立し『タイムマシーン』を作った科学者だ。・・・そして、40年前に起きた謎の生物襲来とゲリラによる日本占拠を阻止した政府指導の『謎の生物対策省』第二部隊に所属し、相手の音で動きを読み取る天性の格闘才能を持った戦士だった」

「・・・なるほど、お前は宇宙研究の権威マスダの血を継ぐ者だったのか。それであれば、『η細胞』や『人生の組織再生』を知っている事は納得だ」

「司馬さんは、一体・・・」

「俺が時崎のように薬無しでも『亜種』と対等に渡り合える訳は、祖父の能力を引き継ぐ者だからだ。・・・そして、祖父が開発したタイムマシーンの原理となった次元操作により、過去の世界で『謎の生物』を召喚した人物は、『微生物シリーズ』を完結出来る環境にあったんだ」

「『微生物シリーズ』が既に完成出来る環境って・・・」

「祖父が残した研究はタイムマシーンに関する事が主だったが、自室に残した資料に『謎の生物』と『人体組織の再生』に関する研究結果のレポートが見つかった。国は、まさか祖父が独自に研究を進めている事に気が使ったんだろう、祖父の死後に研究レポートの回収を行っていないか・・・それとも、国自体も『人体組織の再生』を知らないと言う事だ。それを知っているのはこの実験を密かに進めていた西村研究所と、ミスト、お前の居るウェストリア家だけだ」


 司馬の言葉に表情を崩さないミストは白髪を靡かせながら立ち竦んだまま無言を貫いていたが、やがてその短い沈黙を破る。


「リョウマの言う通り、『謎の生物』の異常なまでの再生能力を利用する事で『人体の組織再生』の研究を進めていたのは我がウェストリア家で、『謎の生物』が頻繁に現れた日本でサンプルを提供してくれたのが西村研究所だったのは父から聞いている」

「でも、『謎の生物』は倒せば灰となって消えるのならサンプルの回収は出来ない筈なのに、どうしてそのサンプルを回収出来たの」

「だが、『謎の生物』が『最高神』として召喚出来る事実を知った西村研究所は、独自の研究で『13体目の最高神』を召喚する事で採取したサンプルで『人体組織の再生』理論を確立し、そのサンプルから『微生物シリーズ』も作った」

「待って!それじゃ、『微生物シリーズ』は既に確立されていた研究だったって言うの」

「日本では禁句とされていた研究の為、その手法での研究は裏の世界で密かに行われていた。ミストの住むイギリスと、西村研究所との間でな。それに、『13体目の』最高神も日本を襲ったテロリストの正体も解明されていない今、人類を恐怖のどん底に陥れた生物が復活していたなんて知られれば世界を混乱に陥れるだけだ。」


 司馬の言葉に共感するように無言を貫くミストは沈黙を破る。


「別に、人類を滅ぼす為に『レイラ菌』を撒く訳じゃないです。『レイラ菌』は人類の最後の希望なのです」

「最後の、希望・・・」

「ケイコは今の世界の人口を知っていますか?この2070年の世界人口約100億人が、世界中に蔓延する謎の病原菌の影響で、私の生きていた2100年には人口は20億人にまで激減します。それを危惧した世界の研究者は、どんな病気にも強い抗体力を持つ『レイラ菌』に注目します。これが2090年の世界です。これから20年後、『微生物シリーズ』は完成を向かえ『δ細胞』『ι細胞』を元に完成した完ぺきな『レイラ菌』を発見します」

「完ぺきな『レイラ菌』・・・」

「完成した『レイラ菌』は他のワクチン同様に抗体として取り入れるワクチンとしての効果があり、この菌をウェストリア家は世界へ散布する事で世界に蔓延する病原菌のワクチンとして試みた。・・・だが散布した『レイラ菌』もまた病原菌となり、それを世界中に撒いた事によりワクチンとしてではなく人類を滅ぼす殺人細菌として『レイラ菌』は世界を滅ぼした」

「お前達が撒いた『レイラ菌』はあくまでワクチンとして使おうと考えていたと言う事か?・・・それとも、お前達が選んだ人間以外にはワクチンの存在を隠す作戦だったのか」

「リョウマ、ノアの方舟を知っているか?腐敗して行く人間に絶望した神が全てを滅ぼす計画を立てたが、洪水から人類のタネを絶やさない為に一部の人間と動物を救った物語。ウェストリア家は、ノアの方舟のように自分達が選んだ者を選び世界を救おうと考えただけで、それ以上の目的は無い」

「あなたは選ばれた人間だから、人を殺して良いと言うの!?」

「だから・・・、自分は未来の世界で『神』に殺された。だが、別の『神』によって自分は蘇り過去の世界へ来る事で自分を殺した『神』より先に『微生物シリーズ』を完成させる。私を殺した『神』は自分の行動を間違っていると思っていると同時に、蘇らせ過去へ送った『神』は自分の行動は正しいと思っている筈だ。自分の考えが正しいと思ってくれた『神』が居た事で、再び『レイラ菌』を世界へ散布するチャンスを与えて貰えたんだ」

「お前・・・。その『神』の判断だけで、世界を滅ぼすつもりなのか」


 ミストが語る言葉に怒りを露わにする時崎に対し冷徹な表情で話す司馬は、これ以上ミストの行動を許す事は彼の語る人類滅亡が早まると感じ、自身の持つ銃口をミストへ向ける。


「・・・ミスト、お前と違い過去を知る俺は知っている。『η細胞』は人間を元に作り出す事は出来るが、それが材料ではお前の欲しがっている『ι細胞』は完成しない」

「なるほど・・・。それこそが、『人体の組織再生』の元となる『謎の生物』と言う訳だね。だが、ご心配なく。『η細胞』は既にカナメにサンプルを作ってもらっている」

「何、要教授に?」

「ウェストリア家とカナメは『人体の組織再生』の研究で密かに手を組み行動していた仲でね、それを未来で知っている自分は先回りして『人体の組織再生』を起源とする『η細胞』のサンプルは既に手に入れている」

「じゃぁ、なぜ篠目を利用してまでも人体を元にした『η細胞』が必要だったんだ!?」

「・・・それが、自分の潔癖を証明する唯一の手段だ。自分はアヤを使って、『η細胞』を作る必要は無いから声を大にして言える。・・・これ(・・)を行ったのは自分ではない」


 要から既に『η細胞』を手に入れたと話し、目の前で倒れる『亜種』を利用してまで細胞を作る必要のないミストに返す言葉が出ない司馬を見たミストは、ゆっくりと歩み出し司馬の横を通り過ぎる。


「・・・リョウマこそ、マスダから引き継いだ『人体の組織再生』の研究の為に『η細胞』が必要なのではないですか?いくらタイムマシーンがあるからと言っても、40年前に絶滅した『謎の生物』を手掛かり無しに探すのは無理に等しい。なら、資料のある人体を利用した『η細胞』は生成可能だ」

「・・・」


 横を抜ける際に呟いたミストの言葉に返答出来ずにいる司馬を後にしたミストは、目の前で強張る時崎に目を向ける。


「ケイコ、自分は君達の敵では無いが・・・多分、味方でも無い。・・・申し訳ないが、それだけは間違いない。しかし、アヤを殺したのは自分では無い事だけは信じて欲しい・・・。それと、リョウマもね」

「・・・ミスト、あなたは一体何者なの?」

「自分は、『微生物シリーズ』から『レイラ菌』を完成させる為にこの世に戻ってきた。・・・そして、全てをリセットする」


 その言葉に恐怖を感じ身動きの取れない時崎の前を霧のように静かに去ったミストは、まさにこの世の人間とは思えない不気味な闇を持ち合わせた人物だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ