第2話 届木風利の世界(2)
現実的日常ものの久留米彩菜が目を覚ますと目の前には平行世界ものの久留米彩菜がいた。
「お、起きた?おはよ」
「...ここは?」
「公園」
「そうじゃなくて...何の世界なの?」
「ここはね、[多重人格もの]の世界だね。」
平行世界ものの彩菜は得意気に言った。
「多重人格の世界....か。本当に来たんだ。別の世界ってものに。」
現実的日常ものの彩菜は現実から逃げることができた喜びと共に少し寂しさを覚えた。
「さて、行きますか。」
そう言うと平行世界ものの彩菜は何処かへ向かい歩き出した。
「どこいくの!?」
現実的日常ものの彩菜が彼女を追いかけ並走しながら問う。それに対して平行世界ものの彩菜は足を止めずに返答する。
「あなたの世界で私たちは井戸で死んだよね?でもこの世界で目を覚ましたのは公園だった。世界が変わって場所が変わる。そしてその場所ってのはこの世界での久留米彩菜が近くにいるってことを示唆してるってわけ。だから取り敢えず私はこの世界の私を探して会う。それだけ。」
「会ってどうするの?」
「さぁね。そのとき考える。」
「んじゃ、私も一緒に行く」
「ま、そりゃそうなるわな。って言っても私も場所は分からないから協力して探すよ。この世界、多重人格ものの世界の久留米彩菜を。」
「うん!」
こうして現実的日常ものの彩菜と平行世界ものの彩菜は多重人格ものの久留米彩菜の捜索を始めた。
風利は恵と話すため恵よりもはやく学校に着いていた。
「あ、お、おはよ山城さん......」
風利は恵が教室に入ってきたと同時にぎこちない挨拶をした。
「.....うん、おはよ」
「あ、あのさ、ノートのことなんだけど......」
「うん......」
恵の表情はどんどん曇っていった。
と、その時
「おーーーい!久留米彩菜ーーーーー!」
「ちょっ!やめて恥ずかしい。っていうか学校とか勝手に入っちゃって大丈夫なの?」
「大丈夫でしょ。多分ここがあの公園から一番近い学校だから私はこの学校に通ってることに間違いなさそうだし。」
廊下から二人の生徒の声が響いてきた。正確には、似た声の会話が響いていた。すると恵は
「彩菜ちゃんって来るのこんなに早かったっけ?」と言いながら廊下に出ていった。
風利はふと昨日の彩菜の言葉を思い出した。
[「ん、12日か...。その日学校に来たの私じゃないんだよね..って言っても意味わかんないよねあはは~...と、とにかく明日また来てよ。」]
「そういえば久留米さん、何か意味深なこと言ってたんだよな...」
風利も恵と同じく廊下に出た。
「え?....」
そこには久留米彩菜が二人いた。
「ん?え、え?」
あまりの衝撃に言葉を失った風利と恵に一人の彩菜が声をかけた。
「ねぇ?私って何組?」
「.......」
「だから!私何組?????」
恵は動揺しつつも質問に答えた。
「....2組....だよ.........ね?」
「っしゃ!ビンゴ!やっぱりこの学校にいるんだ!よし、それじゃ学校終わるまでどっかで待ってよ。いくよ」
「うん、わかった。って待ってよ~!」
そう言うと二人の久留米彩菜は何処かに去っていった。
「なんだったの今の?....」
「さ、さぁ.....」
授業もいつものように平凡に終わり、昼休みになった。
風利は彩菜に会いに行くことにした。
彩菜はいつもと同じ場所で食べていた。
「ねぇ、久留米さん。今朝のことなんだけど....」
「何?」
「いやだから朝....」
どうやら彩菜は本当に何も知らないようだった。このまま問いただしても返答は変わりそうになかったので本題に移ることにした。
「ま、まぁそれは置いといて....昨日言ってたよね。明日また来てくれって。」
「あ、あー。言った言った。いいよ、話そっか。廊下出よ。」
そう言うと彩菜は廊下に出た。
風利も慌てて着いていった。
彩菜は真剣な顔で話し始めた。
「最近よくニュースで見るでしょ?無意識殺人事件。」
「あー見るね。殺人犯がこぞって犯行時の記憶がないっていう証言をしてるっていうあれでしょ?」
「うん、それでね、実は私もたまに意識がなくなる時があって怖くて.....。それでね。12日。その日は私丸々記憶がないんだ...」
風利は何と言うべきかわからなかった。
「だから、もしかしたら恵ちゃんのノート盗んじゃったの私なのかも....」
「いや、それはないよ。」
風利は思っていないことを口に出していた。
「だってノートを隠したのは僕なんだからさ!」
そう言うと風利は意識を失い倒れた。