第1話 届木風利の世界(1)
「...あれ?どこだ?」
届木風利は探し物をしていた。それはつい先日友人から借りた英語のノートである。
「ない......」
そのノートの持ち主とは風利が好意を抱いている女子、山城恵である。風利は何とか彼女と話すきっかけを作ろうとノートを借りたのだがどうやらなくしてしまったらしい。
「おおいおおいおいおいおい!...嫌われる!終わった...」
風利は絶望を感じていた。
「確かにバックに入れたはずなんだけど..」
風利は覚悟を決めた。謝ろう。嫌われても仕方ない。
次の日、朝早く学校に行き風利は恵を待っていた。恵はいつも始発の電車で来るためその時間を調べたうえでの行動だった。すると予想通り彼女は現れた。
「お、早いね。おはよ」
普段なら話しかけられただけでうれしい筈なのだが今日はちっとも嬉しいと感じなかった。
「お、おはよ...」
「ん?元気ないね。どしたの。」
「..実は」
風利は恵に正直に全てを話した。
「私ね。毎回必死にノートとってるんだ。授業の全てを。」
それを聞いて風利は胸が苦しくなった。たかが自分の一方的な恋心で恵の努力を崩してしまったのかもしれない。
「ご、ごめん.....」
だが謝ることしか出来ない風利は自分に腹が立った。
「別に謝って欲しい訳じゃないよ。ただ、」
「.....」
「私のなかでの届木くんの信用ってものは最低になったから.....」
そういうと恵は涙を流した。それ以来その姿は風利の頭から離れなくなった。
それから数日が経った。その間、風利は恵と1度も話せずにいた。どうしたらよいのか風利は悩んでいた。結局、ノートを見つけるしかないという結論にたどり着いた。
「かといって家は全て探したし可能性としては学校しか無いよな..」
ノートを借りた日の事を思い出す事にした。
風利がノートを借りたのは4限目の英語の授業の終わりである。
もしも盗まれたのだとすればバック(ノート)が手元に無かった
4限目が終わり購買に行ったとき
掃除時間
放課後にトイレに入るためトイレの前に置いていたとき
の3つの候補があげられる。
このいずれかの時間にノートは盗まれたのだと風利は確信した。
「とりあえず色んな人から情報を集めよう。」
まず4限目が終わり購買に行っていたときを疑うことにした。
「あ、ねぇ久留米さん。」
風利は同じ教室で弁当を食べている久留米彩菜に聞いてみた。同じ教室で食べているというだけで一緒に食べているという訳ではないのだが、今回の件でいえばむしろその条件でなければならなかった。何故なら一緒に食べている人間は一緒に購買に行った人間だからだ。
「12日の昼休みにさ。僕のいない間に僕のバックを漁ってる人見たりしてない?」
「う~ん....」
彼女は少し考えた後、よく意味のわからないことを言った。
「ん、12日か...。その日学校に来たの私じゃないんだよね..って言っても意味わかんないよねあはは~...と、とにかく明日また来てよ。」
「へ?う、うん、わかった。」
風利には言っている意味がよくわからなかったが本人が明日来いというのだから明日もう一度聞いてみようと思った。
その後数人にも同様の質問をしたが有力な情報は得られなかった。
次に掃除時間を疑うことにした。
掃除時間、教室の担当の生徒は7、8人いる。また担任の教師も教室掃除に加わっている。
「あの~、先生。12日の掃除時間に僕のバックを漁ってる人とかいませんでしたか?」
「何でそんなことを聞くんだ?なにか盗まれたか?」
「え!?..あ、いや、まぁその....」
「まぁいい、没収されるような物だったんだろ?自業自得さ。ははは、お見通しか。」
先生は勘違いをしているが風利はあえて訂正しなかった。
「ま、まぁ...」
「そういえば、漁っている生徒は見なかったが、12日あたりで掃除時間にお前の机が倒れてバックの中身がバラバラになった日はあったな。」
風利は驚いた。風利のバックのチャックは錆びているからなのか開閉する際の重みがあるため、閉め忘れたことは1度もない。恐らくその日もちゃんと閉めていたはず。机が倒れた衝撃で中身が散乱するわけがない。
誰かが故意にやったとしか思えない。
「ちなみになんで机が倒れたんですか?」
「ぶつかったんだよ」
「誰がです?」
恐らく犯人はそいつだ。その時どさくさに紛れてノートを盗んだんだ。風利は思った。
「なんだ、謝りに来てないのか。山城だよ。」
「!?..........」
山城恵の自作自演。そんなはずはない。あの涙は嘘なんかじゃない。
風利は認めたくないが、現時点で「恵が恵のノートを盗んだ犯人」という仮説が1番筋が通っていた。
残る可能性である放課後のトイレに行っていたときのことは調べようが無かった。
その日の帰り、風利は決めた。
「明日早く行って山城さんと話そう。」