Lesson1:ハジマリ
AM6:00
起床時刻にはまだ1時間ほど早い。
耳障りなケータイのアラームも俺の早起きに便乗する気などさらさらないようで、枕元にて無音のままに惰眠を貪っている。
閉ざされたカーテンから漏れる太陽光もなければ、さえずる鳥の気配すら感じられない。
もはや常例となっている母親の俺に対する起床の催促も今日という日に限っては発動されないかもしれない。
別にもう一眠りしてもよかったのだが。
冬の早朝だというのに俺の頭も両目もおそろしく覚醒してしまっていた。
・・・寒い。
だがしかし、それ以上にヒマだ。
「・・・・・・・。」
薄暗い室内でベッドに横たわったまま、あまりの手持ち無沙汰に耐え切れず、珍しくネットサーフィンでもしてみようと傍らのデスクトップ型パソコンをたちあげた。
寝起き全開の眼球にパソコンの強烈な光が容赦なく突き刺さる。多少の目眩を感じながらも俺は小さなカーソルを細目で追いかけた。
と。
まるで俺の意思など存在しないかのように、カーソルは「12星座。今日の運勢占い」などというなんとも乙女チックな文字列の上でぴたりと静止しやがった。・・しやがったもんだから、そりゃあ俺の頭上にだって思わずクエスチョンマークの一つくらいは浮かんじまうってもんだ。
まさかとは思うが・・・今、勝手に動かなかったか?ふと見れば、白い手の甲はマウスの上で実に行儀よく鎮座している。
馬鹿馬鹿しい。
とりあえず先刻のちょっとした怪奇現象を都合よくなかったことにした俺は、再び画面に視線を戻した。
元来、俺は「占い」というものが嫌いだ。なぜかって?
胡散臭いからに決まっているだろう。
そうだな。
俺の『脳内嫌いなものランキング』では「甘味」、「女」に次いで堂々の第三位にランクインするくらいに不名誉な地位を確立してしまっていると言ってもおそらく過言ではない。
たとえ今日が地球最期の日であったとしても絶対に見てやるものかと憤慨しつつ、俺は新たなるネタを探そうとマウスを握る。
「占いなんて信じるやつは憐れだな。俺はもっと実利的かつ現実的な、」
言うともなく放たれた独り言をことごとく無視して、俺の指は非情にも「12星座。今日の運勢占い」の、よりにもよって「乙女座」をクリックしていた。
【外出は禁物。神仏に罵声を浴びせたくなるような凶日。ラッキーカラーは赤以外。糖分にも注意が必要。女難あり】
不吉極まりない、真っ赤な文字が無感情に並列していた。どこぞの某有名占い師に死の宣告を叩きつけられたような衝撃。想像以上の脱力感。
俺は占いなど信じていないはずだ。だが・・・
今にして思えば、これが全ての元凶であり、はじまりであったのだろう。
そう。
何を隠そう、俺はバリバリの乙女座だったのだ。