1.異端者たちの集まり
集団の中で極めて異端な人間に、人は色々な行動をとる。
それを「異物」として見る者。それを「そこには存在しないもの」として見る者。異端を正そうと「矯正」を試みる者。
そして、その視線を向けられる者たちは悲しいことに、どこにでも存在してしまう。
しかし、この現状を「いじめ」と形容してしまう奴らはとても教養が低い。
要するにこうなっているのは集団の中で、異端である人間が居てしまうからなのだ。
だが考えてほしい。いつ、その「異物」がそれを望まないと言ったか。
自分からそれを望む奴だってこの地球上にはたくさん存在する。それをいじめだのどうだのといって無理やり捻じ曲げる輩は、そいつらの意思への冒涜となるのではないだろうか。
要するに、偽善者は実は何もわかっていないということだ。
夕日が差し込む3階の空き教室の椅子に立ち、俺はこれらを高らかに演説した。
「はははっ!違いないや!」
「あんた馬鹿じゃないの?」
反応はどれも俺への賞賛だった。
まぁ当然か、俺が演説したのだから。
「くくく、まぁ落ち着け落ち着け。俺の素晴らしい演説に酔いしれたのはわかるが、サインはやらんぞ」
「サインは今度貰うよ。だけど驚いたなぁ。ちょっとだけ共感できる部分もあったよ」
「あんたマジで言ってんの?こいつが言ってることは要するに、『ぼっちな俺に気を遣うな!目障りだ貴様ら!』ってことよ」
いかにも心外である。俺の演説がそんな風に受け止められてしまうとは・・・。
これも教養の差、というものであろう・・・可哀想に。
俺は目の前の女・・・上原菜月に憐れみの視線を向けた。
大きくパッチリと開いた目と、短くも綺麗に切りそろえられた髪の毛。
小さい背で、子犬のような雰囲気があるが中身はそんなものではない。犬で例えるならドーベルマン。
入部してから魔王である俺にも怖気づくことなく噛み付いてくる女である。
「済まないな。所詮貴様のような教養の低い女に言ってもわからん話だった」
「黙りなさいよ!気持ち悪いのよあんたの喋り方!」
「まぁまぁ落ち着いて。案外菜月の言ったことは的を得ているだろうしね」
貴様もか、翔太。
なぜこの部にはこうも程度の低い輩しか集まらないのだろうか。
「だけど共感はできるよ。きっとシュートは、この部活について言ってたんだね?」
「秀兎というダサい名前で呼ぶな凡愚が。俺は『魔王』だ」
「はいはい魔王様。魔王様はこの部活に照らし合わせて、今の演説をしたんだよね」
ふん、わかっているならいい。
鼻を鳴らして、肯定の意を示す。相変わらず、昔からこの男は聡い。
渡辺翔太。俺と中学からの唯一の友であり、仇敵でもある。
背が小さく、顔も童顔であるが、何故か昔から俺はこいつに敵わない。上手くやり込められてしまうのでいつかは仕返ししてやりたいと思っている。
しかし俺と同じく変わり者で、どうでもいい知識を蓄えるのが趣味というのか、よくわからない黒魔術など知識の幅が広いのは、まぁ長所の一つ?だといえる。
学校でのあだ名は『知恵袋』
そんな翔太はニヤニヤしながら言葉を続けた。
「集団の中で極めて異端な存在。それは紛れもなく僕等を指した言葉だ。何せこの‘部活動に強制参加’の星谷高校で入学案内のパンフレットも読まずに入学してきたんだしね」
「うー、辛いこと思い出させるんじゃないわよ・・・。大体こんなふざけたルールがあるならこの学校に入らなかったわよ」
上原が頭を抱えている。まぁ当然だな、俺も当初はそんな気分だった。
星谷高校は、部活動に非常に力を入れている高校である。それは文化系でも運動系でも変わらず、その部活動の数は市でも一番だろう。
全国大会に出場する部活も多々存在し、文化系もコンクールで入賞したりとけっこう活躍していた。
しかし、それ以外は特に突出することもないし、頭もちょうどそのくらいだったからそこへ入学した俺だったが・・・。
そこには部活動強制参加というとんでもないルールがあった。
俺は帰宅部志望だったので、そのルールには猛反発した。しかしそれは教師達に通じなかった。
必ずどこかの部へ所属するように、と言われて最終期限まで入部届けを出さなかったのが、俺達である。この場には一人足りないが・・・・。
そこまで考えていた時に、空き教室の引き戸ががらりと開いた。
「遅れた。クラスの仕事で残らされててな」
「やっほー、しおりん」
「大丈夫だよ柊さん。今シュートが演説をしていたところだから」
「また坂井か」
「魔王だ。凡愚が」
扉のほうに視線を向けると、黒髪を垂らした美少・・いや、普通の女が立っていた。
柊詩織。この部のメンバーである。それ以外は知らん。
けっこう可愛・・・いいというのが、普通の人間からの印象だろうが俺からしてみれば普通だ。
いつも伸びた背筋と、長い黒髪がトレードマーク。
冷静沈着でクールといえばいいのだろうか、まぁそんな感じだ。
以前こいつのクラスで男子が柊に跪いていたのを目撃したため、俺の中では「女王様」というイメージが勝手に出来上がりつつある。
・・・少々ごたごたがあったが、これで「異端者」たちは揃った。
この四人が、最終期限に入部届けを提出しなかった人間。
数多くある部活動に、ついには何の価値も見出せなかった人間。
一人の男は言った。『凡愚が集まり孤独を忘れようとするだけの集団に何の価値がある?』と。
一人の男は言った。『汗を流し勝利を夢見て、また今日も汗をかく。ああ、なんてつまらないんだ』と。
一人の女は言った。『おもしろくないじゃない!数がありゃいいってもんじゃないわ!』と。
一人の女は言った。『冷静に考えて無意味だ。私がこの学校に来たのは無意味に部活に入るためじゃない。』と。
教師はさぞかし頭を抱えたことだろう。
四人以外は全員それぞれの部に所属しているというのに何故こいつらだけ・・・と。
俺達の措置には少々時間を要した。
さらに1週間という期間を与えられても、ついに入部届けを出さなかった俺達に出された通知は・・。
『学生問題研究部』への入部通知だった。