側近迫る、ほのぼの
空が白くなり始めた頃、西から東へ繋がる航路で真っ直ぐにライワノール用の大船に乗り、ライワノール王の側近は自身の茶髪を海の風に当たらせ東の大陸を見つめていた。
風に揺られる茶色の髪は日の光に当たり、金にも思える色となった。
ライワノール用の船だからか、とても様になっている。
「ハーネス様、少々海が荒れてきたため、東の大陸に着くには時間が掛かるかと…」
ライワノールの王の側近ハーネスは長旅になるであろうから、騎士を数名つけて神の送り人を探しに旅をしていた。
「そうか、海の上ではどうしようも出来ないな。大陸に着いたら急ぐぞ、それまで身体を休めておけ」
「はっ!」
ハーネスに敬礼して自室に戻る騎士を目で送り、ハーネスは無表情ながら胸を高鳴らせていた。
(確証はないが、やっと…会える気がする)
そんなハーネスの想いが伝わったのか、レイシアは身を震わせていた。
《シア…シア…どうしたの?》
レイシアの異常な震え方に、ジェミーは心配してレイシアの周りをチョロチョロ動く。
それが鬱陶しかったレイシアはジェミーの前に手をやり、ジェミーの進む流れを変え、窓の外に意図的にジェミーを追い出した。
追い出してレイシアは先程の震えのことを腕を組み、考える。
「いや、なんだろう…殺気のような気持ち悪い視線を感じた。」
《シア…、大丈夫だよ…この森には今、シアしかいないから》
アーシュがふわふわと流れるように上下に移動しているのを脇目で見ながら「へぇ…」と呟く。
窓の近くに立っているのも暇になってきたレイシアは、小腹が空いたのでオヤツを食べる事にした。
「ジェミー、木苺を取ってきてくれない?」
《いいよ…いいよ。どのくらいいる?》
「コップ一杯」
レイシアは縦25cm直径20cmの丸いコップをジェミーの目の前に出した。
《分かった…分かった。》
ジェミーはレイシアが持っていた自身の体よりも大きいコップを、両腕一杯に広げて持って、コクコクと頷いて森の方へ飛んでいった。
「さぁて…と。ルイス~、ルイス~ルイス~ルイス~…出て来いコラァ!」
《聞こえてるよ!ババァ!》
赤い羽を広げ、赤の服に包まれたルイスの言い様にレイシアは眉を寄せる。
「だぁれがババァだって!?え?」
レイシアはルイスの小さな頬を器用に掴み、自身の顔まで近付けるとガンつけた。
《痛いって!ババァ!》
「ったく!ルイス、いつもみたいに火を起こしてくんない?」
ルイスの頬を名残惜しそうに離し、火の妖精ルイスに頼む。
《はぁ!?またかよ、今度は何を作る気だよ》
「ふふーん。ホットケーキ~」
《何だそれ?》
この世界には、フライパンと言うものはあるのにホットケーキと言う、フライパンで作られるお菓子は存在しなかった。
「出来たら分けてあげるわよ」
《仕方ねぇな。甘くしろよ》
「嫌よ、ルイスの注文通りにしたら、この世に有り得ない血ゲロ物の食べ物が出来上がっちゃうじゃない。」
レイシアの言う通りである。
ルイスは超が付くほどの甘党で、尋常ではない味覚を持っている。
パンの上に、シロップ、砂糖、蜂蜜、ジャム、生クリームを乗せてもまだ足りないと言ったような味覚の持ち主なのだ。
「いーからここに火を付けて」
ルイスはブツブツ言いながらだが、素直に中指をちょいっと上に上げ、フライパンの下にと火を起こす。
「まぁ見てなさい。」
レイシアはフライパンの上に小麦粉、卵、牛乳、砂糖で作ったドロドロの液体を流し入れた。
液体がポツポツと穴を開けてきたのを確認したレイシアは、フライパンを器用に使い『よっ』と焼けてきたホットケーキを宙に浮かした。
周りで見ていた妖精達が感嘆の声を漏らしている。
(ただ引っくり返しただけなんだけど…)
妖精達はフライパンの上で出来上がってくるホットケーキに興味深々として、前へ前へと出ようとする。
レイシアが鬱陶しいと思ってきた頃、助けがきた。
《シア…シア…お待たせ。》
ジェミーはコップ一杯に木苺をいれたコップを窓まで運んできた。
それを見たレイシアはジェミーに親指を立て、GJサインを出す。
「はいはい。離れてねー、貴方達も盛り付けちゃうわよ」
レイシアの本気のような眼つきに《きゃーー》と一目散に逃げていく妖精達。
(やっと、離れた)
レイシアは肩を数回、まわして黙々と焼けたホットケーキに木苺を盛り付ける。
「あっ、色の映える赤って盛り付けに欲しいわよね~」
と冗談か本気かの中間の気持ちでルイスの羽を掴み、盛り付けようとする。
《や・め・ろーーー》
バタバタと抵抗するルイスに悪魔の微笑みを見せ、ルイスの嫌がっている姿を見て喜んでいる。
だが、ルイスの羽が下手をして折れてはいけないので、レイシアはゆっくりと離した。
「ちぇっ、さて遊びはこれくらいにして、はい。出来たわよ。」
ルイスに俺で遊ぶな!この悪魔!と怒鳴られているレイシアはこれと言って何のダメージも受けておらず、むしろルイスをスルーして妖精達用に小さく切ったホットケーキを皿に乗せ、窓に置く。
レイシア自身も、窓の近くに椅子を持って行き腰かける。
「それじゃあ、いっただきます」
使える妖精は使う。それがレイシアです。
今回はほのぼのを書いて見ました。なんのハプニングも無く、のんびりとした描写を書くのは初めてだったのですが、火の妖精ルイスが出てきたため、私の中では盛り上がりました。
火の妖精:ルイス
赤の羽
赤髪
目は黄色
ヤンデレ…のつもりデレは少ないけど
レイシアに弄られる存在
頭に血がのぼりやすい。
何でシアの事をババァって呼ぶかって?そんなの決まってる。
俺達より何倍も老けて見えるからに決まってんだろ。
ったく、あのババァときたら俺を餓鬼みたいに扱いやがる。
言っとくが、俺達 妖精は人の何倍も生きてる。ババァが俺を見る時の眼を知ってるか?悪魔だぞ、まるで死神だ。あの眼は本気にしか見えてならねぇ。
ババァが本気にしたら俺なんて簡単に食われそうで、夜もおちおち眠れねぇよ。全く、完全な睡眠妨害だ。ようやく眠れると思っていたらしつこく俺を呼びやがる。
最初は下手に出ながらだが、最後は必ず怒声だ。めんどくさいババァだろ?
あんな奴の相手をしてやれるのは俺しかいねぇよ。ったく。
なんだよ!!別に何とも思ってねーよ!ババァの事なんか…
もういい!俺は寝る!起こすなよ!
デレの使い方はこれで合っているのか…と少々不安に思う所も有りますが、この路線でいくので。