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番外編:好奇心、そして今は_03

思っていたよりもあっけなく魔人の封印に成功することが出来た私たちは

マサトを召喚した者たちのいる城へ戻る事になった。


マサトに"絆の契約"を願い出ようと思っていたが、

願い出る機会をなかなか得られず、ついには城にまで着いてしまった。


初めて見る人間の城は私たちドラゴンにとっては大変脆いものに感じられた。

小さく柔らかい者達にとっては「強固な城」なのだろうと、

価値観の違いをまざまざと見せつけられたような気がした。


城に着くとマサトに抱きかかえられている私の姿を認めた兵士たちが慌てふためいた。

ドラゴンはあまり人の前には姿を現さない。

異なる種族同志、顔を合わせれば争いになることが多かったからだ。

そんなドラゴンが人の腕の中に大人しく抱かれているという状況が特に異様なものだったろう。


城から偉そうにローブを着た者が出てきて、私とマサトをじっとりと嫌な目で見つめた。

兵士たちの会話からして城付きの魔道士なのだろう。

嘗め回すように不躾な視線が不快だ。

目線、妙に撫で付けられた白髪の髪、趣味の悪いローブ。

何から何まで気に食わない。


よくぞ御戻りになりました。それにしてもその腕のなかのドラゴンは立派な云々。

などと態度と一致しないような事がよく口から出てくるものだと思っていたが、

マサトは私が褒められて嬉しかったらしく穏やかに応対していた。

この子はミドリです。とても優しいドラゴンです。と私が喜ぶ事を言う。

それに加え、若干頬が高潮しているマサトの様は大変愛らしい。


しかし、城付きの魔道士がマサトと私にべたべたと触るのは気に食わない。

マサトから離れろ愚か者と喉元まで出かかったぐらいだ。


そろそろブレスを見舞ってやろうかと思ったときにやっと離れた奴は更に気に食わない事を言う。

城にはドラゴンを入れないと言ってきた。

やはり、ブレスを。とも思ったが、ここで暴れてマサトの評判を落とす事も無い。


仕方なく私はマサトから離れ、その辺りを飛んで暇を潰す旨を伝えた。

申し訳なさそうなマサトの首元に顔を摺り寄せ甘えた声をだす。

しばし離れるのだ。これくらは許されよう。


謁見の様子は後で教えるね。と優しく私の喉元に触れるマサトに頷き、私は空へと飛び立った。



--



マサトに着いて行けなかったのは残念だったが、

その気になれば城の様子など手に取るように分かる。

しかし、マサトが後で教えると言ってきたので私は私で空の散歩を楽しもうと思った。


そういえば今の時期はこの城から北の方の森で花が咲いているはずだ。

可憐な花で、きっとマサトも気に入るだろう。と思い、

花をプレゼントするためにその森へ行こうとしたその時だった。


全身を包み込む不快な魔力。

思わず空中で体制を崩してしまった。


なんと言う不覚。

この不快な感覚は先ほどの城付きの魔道士のものに違いない。

先ほど触ったときに私の身体に力を注ぐ為の印をつけていたのだろう。


些細な力ゆえ、あまり気にする程度のものではなかった。

むしろ、こんな力しか人間にはないのかと思わず嘲笑ってしまった位だ。

しかし、全身を包み込む力の流れが変わるのを感じた。


思わず全身の鱗が逆立ってしまうような感覚。

私とマサトの間で成した"従属の契約"を断ち切ろうとしている。


許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!


私とマサトの間の契約を断ち切ろうなどと許せない!

怒りのあまり咆哮を上げる。

その怒りをそっくり返すかの如く、契約を断ち切ろうとしている魔力を私の怒りを込めた魔力も乗せて相手に返す。

返すついでとばかりに、相手の記憶領域にも踏み込む。

中を全て探り、分った事は2つ。


一つはこの愚か者共はマサトを騙している事。

マサトを元の世界に返すと約束しておきながら、

その方法を探さないまでか婚姻という形でこの国へ縛ろうとしている。


そして、もう一つは私をマサトから引き離し国の騎士、または魔道士と契約させようとしている事。


ドラゴンも随分と甘く見られたものだと思わず嘲う。

それよりも、マサトが元の世界に戻る術がこの場に無いのであれば、この場に留まる理由などない。


ついでに、踏み込んでいた城付きの魔道士の記憶領域を引っ掻き回しておく。

これで暫くは起き上がれまい。

様を見ろ。

私とマサトを離そうとするとどうなるか、身を以って思い知るが良い。


さぁ、いこう。

マサトの元へ。

私は城へと引き返すため、宙で身を翻した。



--



マサトを取り戻し逃げる事に成功した後、事態は私にとって良い方向へと向かった。

マサトは城に戻るつもりもない上、旅を続けたいと言った。

その言葉に私は安堵した。


まだ共に居られる。と。


これからの事を相談しているマサトを見つめ思う。

折をみて"絆の契約"を交わすことを願い出よう。


そして、マサトが元の世界に帰るとき。

その時は私の生を終わらせてもらおう。


今回の事で理解した。

彼と離れることなど出来ないと。

マサトと離れてしまえば、きっと私は狂ってしまう。

狂ったドラゴンはこの世界の脅威となる。

狂う前にこの生を終わらせなければならない。


終わらせるのであれば彼に。

マサトの優しく暖かい手で。

そしてマサトの記憶に私という愚かな狂ったドラゴンが存在したという記憶を。


私は彼の声を聞きながら、膝の上で丸くなる。

マサトとのこれからを思い描いて。

これにて『そろそろ家に帰りたいです』は完結です。

この話の続きも大まかに考えているので、またどこかでお会いするかもしれません。

それでは、ここまで読んで下さりありがとう御座いました。

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