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番外編:好奇心、そして今は_01

本編に出てきたドラゴンのミドリちゃん視点の話です。

ドラゴンと言うのは総じて長寿である。

長寿というより、寿命がないものなのだろう。

事故、または第三者に殺されない限り生き続ける種族だ。


また、ドラゴンには血縁関係というものが存在しない。

ドラゴンの数は一定であり、一頭がその生を終えれば新たな一頭の生が始まる。

どのように生が始まる、即ち産まれるのかはドラゴンである私たち自身も理解していない。

気がついた時には、私は私であった。


このドラゴンである私は現在、小さく柔らかい者達から『ミドリ』と呼ばれている。

小さく柔らかい者達の中でも更に小さき者に名づけられた。

私は私である故、名というものは必要ない物であった。

しかしこの名、『ミドリ』という名を私は気に入っている。

小さく柔らかい者達の中の更に小さき者、マサトに名付けられたからであろう。


マサト。私の大切な存在。

出会った時にはここまで私の心を占める大切な存在になるとは思わなかった。



--



私とマサトが出会った日、私は最初に私というものを意識した場所、森に来ていた。

私が私である事を意識した時に小さな芽を出し、懸命に太陽の光を浴びていたそれは、

今ではしっかりとした幹を持ち、甘い芳香を漂わせている果実を実らせていた。


それを見た私は嬉しくなり、鼻歌を歌っていた。

そんな時にマサトが現れた。


ガサリと音がした。

目を向けるとそこには大きく目を見開いた薄汚れた小さな生き物がいた。

確かこの生き物は"人間"と言ったか?などと考えていると、

この小さな生き物は私を胸に抱え走り出した。


何事かと思えば、この小さな生き物は魔獣に追われていたらしい。

抱えられながら魔獣の様子を伺えば、あまり賢く無さそうであった。

私は魔獣を惑わせるよう森に命じ、ついでに肉食性植物の方に向かわせるようにしておいた。


たまにはあの肉食性植物たちにも腹一杯喰わせてやるのも良いだろうと思っていると、

不意に体の感覚がおかしくなった。

私を抱えていた小さな生き物が足を踏み外したようだ。


少し高めの斜面から転がり落ちる。

多少の事なら傷つかないと解っているが、ここで放り出されたら面倒だと思った。

しかし、この小さい生き物は私を胸にしっかりと抱きしめ、私を守ろうとしているようだった。


困惑した。


我々ドラゴンは強い。

その強さ故、戦いを挑んでくる者たちは少なくない。


また、ドラゴンの記憶、及び知識は特殊である。

自分と言うものを意識した時、それまで生きてきたドラゴンたちの記憶及び知識も自分のものとなる。

今まで私という存在で生きてきた記憶、それまで生きてきたドラゴンたちの記憶、

その両方を合わせても守られるのは初めてだった。


斜面を滑り落ちると、小さな生き物は傷だらけだった。

その小さな生き物は私を確かめると、顔を変に歪めて「無事でよかった。」と言った。


この生き物は何なのだろうか。今まで会ったことがない。

気付けば小さな生き物の傷を治していた。

傷を治すと小さな生き物は最初に会った時のように目を大きく開いている。

しかし、突然我に返ったよう私の頭を撫で、

「君が治してくれたんだよね。ありがとう。」と先ほどよりも変に顔を歪めていった。


その顔を見ていると天気の良い日に木陰でまどろんでいる時のような心地よさを感じた。

しかし、立ち去ろうとしている小さな生き物を見ると説明の付かない焦燥感が溢れた。

このまま立ち去らせてはいけない・・・!


そして私はこの小さな生き物について行く事にした。


途中で追い払われたりもしたが、ひたすら付いていくと

小さな生き物も追い払うのを諦めたらしく私を抱えて一緒に行こうと言った。


「一緒に行くなら君の名前もないといろいろ不便だよね。」

「綺麗な緑色だし・・・君の名前は『ミドリ』!俺はマサトって言うんだ。ミドリちゃん、よろしくね!」


そう言ってマサトは変に顔を歪めて――後にこの表情は"笑み"であると知った――私を見やった。

私を見つめるマサトの表情、そしてマサトの瞳に写る私の姿。

落ち着かないが、どこか心地よさを感じる。

この不思議な感覚が何であるかを確かめるため、私はマサトと行動を共にする事にした。

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