第9話「大胆カットで大変身!?」[7]
カット席に緊張しながらもゆっくりと座り込む。葵さんは私に笑顔でエールを送ってくる。
「大丈夫、優里さん。これから素敵な変身が始まるんですよ」
緊張しながらも、私は覚悟を決めた。
「ありがとう、葵さん。私も期待しています」
櫛で髪をとかし、ブロッキングが終わる。
鏡に映る私はこれからショートスタイルになるんだ、と意気込みと緊張が漂う。
葵はハサミを手に取り、私に笑顔で声をかける。
「さあ、優里さん。まずはこの長すぎる髪をバッサリ切っていきますね」
緊張しながらうなずく。
「うん、お願いします…」
一声の勇気。今はこれが精いっぱい。正直今この瞬間も髪を切るのが怖いと思っている。
何かに気が付いたのか唐突に葵さんは一度ハサミを私に渡し、励ましの言葉をかける。
「優里さん、一緒に切りましょう。最初の一房は自分で切ることで、新しい自分に向かって一歩を踏み出す意味があるんですよ」
「え?え?自分で…自分の髪を??」
「そうです」
葵は目の前にしゃがみ込み、私の右手にしっかりとカットばさみを握らせる。
「ピクシーカットですからね、最初からバッサリいっちゃいましょう」
「え、、、どの辺まで?」
「そうですね…」とわざとらしく人差し指を唇に当てながら一言。
「まずは左サイドを顎あたりまで切ってみてはどうでしょう?」
「え?え?えーと…この辺りですかね?」
左手で自分の横髪を一房掴んで大体顎のあたりに右手に持ったカットばさみを寄せてみる。
「んー?もうちょい上ですかね?」
下から私の顔を眺める葵さんはどことなく笑顔のような気がした。
「う、上…おかしいな顎ぐらいにあてたと思ったんだけど……」
言われるがままにハサミを上の位置に少しだけずらす。
「そうです!その位置で切ってみてください」
私は緊張しながらも勇気を出して自分の髪にハサミを当てる。
そして、勇気を振り絞って一房掴みハサミをゆっくりと閉じていく。
―――ジョキ…ジョキジョキ……
バッサリと切り落とされた髪が私と切り離される。
「き、切っちゃった!!私、できました!」
葵さんは私の勇気に感激したのか軽く拍手をしていた。
「素晴らしいです、優里さん!では、引き続き私がハサミを入れていきますね。」
切った左サイドの髪の毛先が頬にあたるのに気が付き切りすぎたことに気が付く。
「あ、、、私切りすぎちゃってる―――なんか耳たぶちょっとみえちゃってるような―――」
それを聞いた葵さんは「大丈夫」と言わんばかりに私をカット席に座らせ落ち着かせる。
「勇気出しましたね、耳出しにするのも可愛いですよ?思い切って耳も出しちゃいましょ」
私が頷いたのを見ると葵さんは大胆に且つ遠慮なく私の太ももまであるスーパーロングにハサミを入れ、躊躇なくバッサリと切り落としていく。
右サイドを左サイドと同じ長さに。
後ろ髪の一部だけ長さを残して首の真ん中あたりに。
前髪を眉辺りに。
トップを目の高さ付近に。
あっという間に優里の髪はショートスタイルと呼ばれる長さに変化を遂げた。
後ろ髪に一部残した長い髪だけが優里がかつてロングヘアだったことを物語っている。
床に落ちる長い髪は先ほどまで自分の一部だったと思うと少しばかり感慨深いものがある。
いつの間にかワクワクした気持ちで見守るようになっていた。
「これでだいぶ軽くなったでしょう?」
「うん、全然違う…!」
「まだ切りますよ」
続いて、葵は優里の前髪を眉上で切り、サイドの耳周りを耳が見えるようにカット。
そして、後ろ髪は首筋がしっかり見えるように襟足1cmぐらいまで切り込んでいく。
優里は自分の変わりゆく姿に戸惑いつつも、期待に胸を膨らませる。
「すごい…私、こんなに短い髪になったことないんだけど…」
思わず短くなった髪に自分の手が伸びる。
葵は優里の言葉に微笑みながら答える。
「これからもっと素敵な髪型に仕上げていきますよ。楽しみにしていてくださいね」
葵は慎重に優里の前髪を持ち上げ、更に短く眉上で切り始める。
「前髪は顔の印象を大きく変えるんですよ。眉上で切ることで、優里さんの素敵な目元が引き立ちます」
葵がサイドの髪を整えていくと、優里の耳元がすっきりと見えるようになる。
「葵さん、こんなに短い髪になるのは初めてなんだけど、大丈夫かな…」
葵は優里を励ますように微笑んで答える。
「大丈夫ですよ。素敵な変化は勇気を持って挑戦することから始まるんです。」
葵はさらに優里のサイドの髪を耳上までカットし、耳が完全に露わになる。優里は鏡に映る自分の耳を見て驚く。
「あ、耳がこんなに見えるなんて…」
葵はニッコリと笑い、励ますように言う。
「優里さん、耳が見えることでお顔周りがすっきりと見えますし、大人っぽい雰囲気になりますよ。」
葵の言葉に安心し、新しい自分に自信を持ち始めていく。