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ハピネスカット-葵-  作者: えんびあゆ
松岡優里編
8/76

第8話「大胆カットで大変身!?」[6]

―――私に任せてみてもらえませんか?

突如、前のめりになって私に問いかけてきた美容師・葵の目力に私の心は揺れていく。


葵は優しく、それでいて丁寧に語りかける。

「ボブが怖いのであれば、他のスタイルも提案します。大切なのは、自分に自信を持つこと。今回のことをきっかけに、新しい自分を見つけてみませんか?」


葵は更に顔を近づけ真顔で思い切った提案をする。


「じゃあ、もっと短いヘアスタイルに挑戦してみませんか?」


私は戸惑いながらも、葵の言葉に少し興味を示す。

「短い髪型って、どんな感じなの?」


「ピクシーカットという、ベリーショートなんです。すごく新鮮で素敵なスタイルだと思います!」


葵は優里にピクシーカットの写真を見せる。どことなくワクワクしている。

優里は驚きとともに興味津々だったが、同時に恐怖も感じていた。


「こんなに短くするのはちょっと…」

葵はじっくりと優里の顔を見つめる。

「長年、長い髪で過ごしてきて髪で顔が隠れていると安心するというか…逆にこの長い髪がなくなったときどうなってしまうのかって不安もあって…」

髪に隠れていないと恥ずかしいという思いを思わず吐露してしまう。


それを聞いた葵はスルッと立ち上がり私を手招きで誘い出した。

「優里さん、こちらの大きな鏡の前までお越しください」

葵さんは、全身が見える大きな鏡の前に私を誘導する。


「少し大胆な提案になりますが、髪型が全体の印象にどれだけ影響するかをお見せしたいんです。少し服を軽くしてみてもいいですか?」

「え?服を軽くって…あ、はい」

乗せられやすい性格が災いして適当な返事をしてしまった。次の瞬間、ちょっとだけ後悔する。


「では、ちょっと失礼します」

優里の前に立った葵は優里の着ている制服のブラウスに手をかける。

そして、一瞬で私の着ていた制服のブラウスを剥ぎ取り、上半身を下着姿にさせる。


「ちょっと、何をするんですか!?」

思わず私も大声をあげてしまう。

それでも目の前の美容師は落ち着いて説明を続ける。


「安心してください、優里さん。あなたがどれだけ素晴らしいスタイルを持っているかを実感してもらいたいんです。」

下着姿にされた私だったが、ゆっくりと恥ずかしそうに鏡に映る自分を見る。

そこには黒くて長い髪に全身を隠す私の姿があった。


葵は一生懸命に、いかに優里が美人で太ももまで伸びきった長すぎる髪がもったいないかを説明する。


「優里さん、鏡に映る自分を見てください」

上から下まで自分の身体を眺めてみる。

長い黒髪で隠れてしまってよくわからない。だけど髪に隠れていることでどことなく安心感があった。

しかし、隣に佇む葵さんの表情はどこか悲し気にも見える。


「長すぎる髪で隠してしまって、もったいなさを感じませんか?首筋、デコルテ、ボディライン、脚が隠れてしまっていますよね。」


恥ずかしそうに頷く。

彼女の言葉には思わず納得してしまう。


「優里さん、もっと自分自身を見てください。素晴らしいスタイルを持っているんです。」

再び、私は「うん……」と頷く。鏡に映るその顔はどこか恥ずかしげだ。


「長すぎる髪で隠してしまっていて、もったいなさを感じませんか?」

葵は私の長い髪を片手でもって、わざとボディラインが露になるような姿にさせる。

「優里さん、この髪を少し束ねてみますね」

葵は優里の長い髪をそっと手でまとめ、後ろで軽く結び上げた。


「ほら、こうすると首筋やデコルテが見えますよね。鏡に映る自分を見てみてください」

優里は鏡越しに自分の姿を見つめた。髪が顔や身体を覆い隠していないだけで、驚くほど印象が違う。


「このままピクシーカットにすれば、もっとすっきりとしたスタイルになりますよ。」

葵の穏やかな笑顔と丁寧な言葉に、優里は緊張をほぐされながらも期待感を膨らませていった。

そうここまでの少々過激な行動と言葉は、いかに私の魅力が長い髪で隠されているかを悟らせるためであることに気が付いた。


改めて鏡の前で自分の姿を見つめる。

確かに、自分の体型には自信がなかったが、こうしてみると意外とスタイルは悪くないように思えてきた。

幸か不幸か、下着姿になり全身鏡でまじまじと自分の身体を見ることができたからこそ気が付くことができたのである。


―――葵は続ける。

「優里さん、今日この一歩を踏み出さなければ、自分の中の変化を恐れている心と決別するチャンスを失うかもしれません。」


優里はその言葉に心を打たれる。

自分の心の中で、迷いから挑戦へと移り変わる気持ちが高まっていくのを感じる。


「もし私が…もし私が今、このチャンスを逃したら、もう二度と勇気を出せないかもしれない…」

その思いが強くなり、勇気を振り絞る決意の言葉を口にしていた。


「分かりました。葵さん、私―――、ピクシーカットに挑戦してみます。」


葵は勇気ある決断に微笑み、彼女の人生がこれから変わる瞬間に立ち会うことになると感じていた。


私は決意を固め、カット席に歩みだす。そこでひとこと。

「あの、優里さん…もう服は着て大丈夫ですよ」


「あ……」

先ほどまでの勢いとは別に恥ずかしくなる。店内に他のお客様が居なくて良かった。

葵さんがそっとつぶやく


「ごめんなさい、私、興奮すると見境なくなるところがあって……」

無理やり服を脱がせたことを深々とお辞儀をして謝る葵さん。

クールに見える彼女にもこんな一面があるのが逆に身近に感じた。


「いえ…その大丈夫です、おかげで私も髪を切る勇気がでました」

そそくさと剥ぎ取られた制服のブラウスを着直す私の表情はどこか穏やかだったに違いない。


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