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ハピネスカット-葵-  作者: えんびあゆ
三田村梓編

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第51話「変わること、変わらないこと」[8]

――高校生の頃、引きこもりがちだった私は、自分に自信が持てなかった。

その暗い性格の故か学校に行けば、いじめられる日々。それが続きやがて学校には行かなくなり引きこもりるようになった。

一日中部屋に引きこもり、部屋は散らかり暗闇の中で生活する毎日。

気が付けば私の髪は背中を覆うほど伸びて前髪も顔を覆いつくしていたと記憶している。


ある日、母親に「少し外に出てみない?」と促され、しぶしぶついて行った先が、少しオシャレな―――清宮隆太の働いている美容室だった。

これが私と美容師・清宮隆太との出会いだった。


「ここなら、何かが変わるかも」――その言葉に半信半疑だった。


「(変わるわけない……こんなところに来たってなにも変わらない)」

この頃の私はもう真っ暗な気持ちで過ごしていた。

何を言われても信じることが出来なくて何に対しても否定的だった。


店内に入ると木目調のデザインの室内にアンティークの掛け時計。

観葉植物が並びリラクゼーション効果のありそうなBGM。

そして、棚に守り神のようにたたずむテディベアのぬいぐるみが印象的だった。


席に座ると、そこにいた清宮隆太が穏やかに微笑んでこう言った。

「藤井葵さんだね?初めまして。」

そう言って、優しい笑顔を浮かべながら手を差し出した彼の第一印象は「眩しい人」だった。


「髪を揃えるだけでも良いですか?」と控えめに言った私に、隆太は枝毛だらけの髪をそっと触れながら言った。

「君の髪はすごく綺麗だね。これをもっと活かしたら、きっと素敵な髪型になると思うよ」


初めて聞いた「褒める言葉」に、葵は少しだけ涙ぐんだ。

それまで誰にも気づかれず、長い髪の中に隠れていた自分を、隆太が真正面から見つけてくれた気がした。


「ずっと頑張ってきたんだね。でも、髪を切ると気分が変わるよ。僕にカット任せてくれないかな?」

隆太さんの問いに、私は無言で頷いた。


彼がハサミを手にし、ロングヘアが床に落ちていくたび、私の心の中の何かが軽くなっていくのを感じていた。

1本1本の長い毛が私の目の前を通過して、頭が軽くなると同時に私の気持ちも軽くなる。

それと同時に明るい光を私の胸の奥を照らしてくれるような、そんな気がした。


「できたよ」

鏡越しに映るのは、自分とは思えない軽やかなショートヘアを持つ少女だった。

「これが……私……?」

隆太さんは満足そうに微笑みながら言った。

「とても似合ってるよ。これを機に、自分を信じてみない?」


その言葉をきっかけに私は少しずつ外に出る努力をした。自分を変えるために―――。

たかが髪型が変わっただけだったけど、それがきっかけでクラスメイトも「なんか雰囲気変わったね」と声をかけられたり、買い物先で知らない人と話すことが増えた。

きっと、私自身が私の弱さを受け入れて"変化"しようと行動した結果なんだ。

気が付いたら友達が増えていじめられることもなくなっていた。


清宮隆太との出会いが私を変えた、と気が付いた。

月に1回は隆太が居る美容室に髪をカットしに行くのが楽しみになっていた。

この頃の私は清宮隆太という美容師に恋をしていた。

将来はこの人のような美容師になりたい、と自然に思っていた。

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