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ハピネスカット-葵-  作者: えんびあゆ
三田村梓編

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50/76

第50話「変わること、変わらないこと」[7]

梓がハピネスカットを出る頃、空は淡い茜色に染まっていた。

夕日に染まる路地を見下ろしながら、葵は扉の前で見送る。


「今日は来てくれてありがとうございました、梓さん」

葵が穏やかな声で言うと、梓は少し照れくさそうに振り返った。


「……私、また来てもいいですか?」

葵は驚いた表情を浮かべたが、すぐに優しい微笑みに変わる。

「もちろんです。いつでもお待ちしています」

梓は小さくうなずき、振り返らずにそのまま歩き出した。

その背中はどこか迷いが晴れたように軽やかだった。


店内に戻った葵は、席に座る優里に声をかける。

「さて、優里さんも仕上げ終わっていますのでお会計が終わり次第、帰宅して大丈夫ですよ」

そう言った葵に対して優里の表情はいささか神妙だ。

「葵さん、少しだけお話できますか?」


「もちろん。何かありましたか?」

優里は少し緊張した表情を浮かべながら、話した。


「葵さん、私……将来、美容師になりたいんです」

その言葉に、葵の目が少し見開かれる。

「美容師……?」


「葵さんに髪を切ってもらったとき、ただ見た目が変わるだけじゃないって分かったんです。」

優里はそっと自分の髪に触れた。

「自分でも気づかなかった気持ちを、髪型を通して引き出してもらえた気がしました。勇気が出たんです。私も誰かにそんな勇気と幸せを届けられる存在になりたい」

その言葉には、かつて自分が変わることに怯えていた弱さを越えた、確かな決意が込められていた。



「私は髪を切って変わることができました。でも、それは葵さんが私の気持ちを聞いて、背中を押してくれたからなんです」

優里はそっと自分の髪に触れながら続けた。

「私も、誰かの背中を押せる存在になりたい。ハピネスカットで、それを学ばせてもらえませんか?」


優里は真っ直ぐな目で葵を見つめる。

「葵さんは、ただ髪を切るだけじゃなくて、お客さんの心に寄り添ってくれる。それがすごく温かくて……私もそんな美容師になりたいんです。」

彼女の声は震えていたが、その瞳には揺るぎない光が宿っていた。


「ハピネスカットでなら、本当に人を幸せにする方法を学べる気がして……お願いです、ここで働かせてください!」

優里の言葉は、まるで魂を込めた叫びのようだった。


葵は優里の瞳をじっと見つめていたが、ふと視線を落とし、少しだけ遠い記憶に思いを馳せた。

「そう……私も、昔はあなたみたいに思っていました」


葵の脳裏に浮かんだのは、かつての自分と清宮隆太の姿だった。

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