第43話「新しい私のカラーパレット」[10]
駅前の小さなカフェで、彩花はそっと窓の外を見つめていた。
陽射しを浴びたハニーゴールドの髪が、柔らかい光を反射して揺れるたび、彼女の心にも小さな自信が灯るようだった。
窓ガラスに映る自分の姿――肩に軽くかかるボブスタイルと、明るいライトゴールドのフレームが、これまでの彩花とはまるで違って見える。
「私、本当に変われたんだ……」
彩花はそっと指先で眼鏡のフレームを触れた。
あの美容室で、葵が優しく提案してくれたライトゴールドのフレーム。
「このフレームなら、ハニーゴールドの髪とも馴染んで、顔全体が明るく見えますよ」と言われたとき、少し不安もあったけれど、試してみた自分に今は感謝している。
大学に行く足取りも軽くなり、サークルの集まりに顔を出すのも少し楽しみになった。
少しずつだけど、「私も何かを始められるかもしれない」という期待が、心の中に生まれている。
今日は、新しい髪型と眼鏡に合わせたライトピンクのトップスと、白いパンツを選んでみた。
葵が提案してくれたコーディネートだ。
最初は少し勇気がいったけれど、街を歩いていると軽やかな生地が風になびき、自分が少しだけ「垢抜けた」気分になる。
カフェのテーブルには、小さな花模様のスケジュール帳が置かれている。
彩花はそのページを開き、何度も頭の中で考えていた計画を少しずつ書き込んでいた。
「サークルで新しい企画を提案してみる」
「バイト先でお客さんともっと話してみる」
――それは、これまでの自分なら想像もできなかったことだった。
ふと、スマホの通知音が鳴る。画面には「麻耶」の名前が表示されていた。
『彩花、最近どう?』とだけ書かれたメッセージに、彩花は思わず微笑む。
「麻耶なら、この私を見て、なんて言うだろう?」
画面に映る自分撮りの写真――ハニーゴールドの髪、ライトゴールドのフレームの眼鏡、そして明るい服装。
彩花は一瞬ためらったが、思い切ってその写真を麻耶に送った。
『すごい!彩花、めっちゃ似合ってる!私も髪染めようかなって思ってたんだよね。彩花みたいに可愛くなりたい!』
メッセージが返ってくるのは想像以上に早かった。
「……ありがとう」
彩花は胸の中がじんわりと温かくなるのを感じた。
麻耶の言葉が、遠く離れた場所からでも、まるで背中を押してくれるようだった。
カフェを出ると、陽射しがさらに強くなり、ハニーゴールドの髪とライトゴールドの眼鏡が鮮やかに輝いた。
それは、ただの髪色やフレームの色ではない。
「変わりたい」と願った自分が手に入れた、新しい自分自身の象徴だった。
変わる前、都会の喧騒はただただうるさく、灰色に見えた。
だけど今は違う。様々な色が取り囲み私のカラーパレットはカラフルに輝いている。
ギャルもキャリアウーマンも学生も主婦も、みんな様々なカラーパレットを持っている。
オシャレを楽しむってこういうことなんだと思う。
彩花は小さく深呼吸をした。
「これから、もっと私らしく生きていこう」
その言葉が、街の喧騒に溶け込んでいく。
遠くで響く電車の音が、次のステージへ向かう始まりを告げているようだった。
彩花は一歩前に踏み出し、光に包まれた街へと歩き出した。
―――新しい髪型、新しい物語。葵が紡ぐ、幸せのカットはまだまだ続く。




