第41話「新しい私のカラーパレット」[8]
「出来ますよ、彩花さんなら……」
彩花は照れながらも小さくうなずく。
「ところで、今使っているその眼鏡なんですけど……」
葵が鏡越しに優しく提案する。
「え? これ、そんなに変ですか?」
彩花が不安げに尋ねると、葵は笑顔で首を振る。
「変ではありません。でも、髪色と新しいスタイルに合わせて、フレームの色を変えると、さらに印象が良くなりますよ」
葵はカウンターの引き出しからサンプルを取り出し、彩花にいくつかのフレームを見せた。
「例えば、このライトゴールドのフレームはいかがですか? ハニーゴールドの髪色と馴染みつつ、顔全体を明るく見せてくれます」
彩花はライトゴールドのフレームを手に取り、試しにかけてみた。
鏡に映る自分を見て、驚きの声を上げる。
「全然違う……なんだか、垢抜けた感じがします!」
葵が嬉しそうに微笑む。
「フレーム一つでも、こんなに印象が変わるんですよ」
「さらに、彩花さんの髪色を引き立てるには、こういった明るいトーンの服もおすすめです」
葵がスマホを取り出し、いくつかのコーディネート例を見せた。
「例えば、クリームベージュやライトピンクのトップスに、白のパンツを合わせると、今のスタイルがより華やかになります」
彩花は画面を見ながら、「可愛い……」と呟いた。
「でも、私には似合わないんじゃないかって、いつも地味な服ばかり選んじゃうんです」
葵は軽く頷き、励ますように言った。
「大丈夫ですよ。服も髪型と同じで、少しずつ挑戦してみることが大切です。それに、彩花さんならきっと似合います」
「それから、メイクも少し取り入れてみると、もっと楽しくなりますよ」
葵は、ハニーゴールドの髪色に合う自然なトーンのアイシャドウとチークを手早く選び、彩花に説明する。
「まず、このコーラルピンクのチークを使ってみましょう」
葵はチークブラシを手に取り、彩花の頬に軽く色をのせる。
「こうして、頬の高い位置にふんわりと入れると、顔全体に温かみが出ますよ」
彩花は鏡を見つめながら、頬に広がる柔らかな色合いに目を瞬かせた。
「なんだか……顔が明るく見えますね」
「そうなんです。髪のハニーゴールドと相性が良いので、全体の印象が統一されるんですよ」
次に葵は、淡いベージュとピンクのグラデーションアイシャドウを選び、彩花のまぶたに乗せていく。
「アイシャドウは、こうやって明るい色を目頭側に、少し濃いめのピンクを目尻に入れると、自然に目元が引き締まります」
彩花が目を閉じて葵に任せている間、ほんの少しだけドキドキしていた。
「はい、目を開けてみてください」
言われるままに目を開いた彩花は、鏡の中の自分を見て驚いた。
「わあ……私の目、こんなに大きく見えるんですね!」
彩花が興奮気味に話すと、葵は満足そうに微笑んだ。
「最後に、リップを足してみましょう。この淡いコーラルピンクのグロスを塗ると、全体がより華やかに見えます」
葵が手早くグロスを塗ると、彩花の唇がほんのりツヤを帯びて、柔らかい印象に仕上がった。
彩花は鏡の中の自分をじっと見つめる。
今の麻耶はどうしているだろう――SNSで見た写真を思い出す。
昔と変わらない自然体の笑顔に、今は少しオシャレな要素が加わっている。
麻耶は自分らしさを保ちながらも、新しいスタイルを見つけていたのだ。
「(麻耶なら、私のこの髪を見て、なんて言うだろう……?)」
彩花の胸に小さな期待が生まれる。麻耶が褒めてくれる姿を想像すると、少しだけ胸が温かくなった。
「全然違う……自分の顔にこんな可能性があったなんて……」
鏡の中の自分を見つめながら、彩花の胸の奥がじんわりと温かくなる。
店内の優しい雰囲気と葵の言葉が、彼女の心にしっかりと染み込んでいくようだった。
鏡の中の自分は、あの頃の私とはまるで違う。
高校時代、麻耶と一緒に笑い合いながらも、私はいつも自分を変えることを恐れていた。
自分なんて変われない――そう思い込んでいた。
でも今、ハニーゴールドの髪が私の顔を明るく見せてくれる。
あの頃、麻耶が「絶対可愛いのに」と言ってくれた言葉が、ようやく現実になった気がした。
「(麻耶、私も少しは変われたよ―――)」
彩花は心の中でそっと呟いた。
「私、ずっと地味な自分が嫌で……でも、変わるのも怖くて……。こんなに変われるなら、もっと早く挑戦していれば良かったかもしれません」
葵は優しく微笑む。
「彩花さん、今この瞬間がその一歩なんですよ。変わるのに遅すぎることなんてありません」
彩花は鏡越しに葵の目を見て、小さく頷いた。
「そうですね……ありがとうございます。私、これからもっと自分を好きになれるように頑張ってみます」
葵の心の中にも、彩花の決意が静かに響いていた。




