第40話「新しい私のカラーパレット」[7]
「あなたの魅力、引き出しました!」
葵が一歩下がって鏡の向こうに広がる新しい自分を示す。
彩花は恐る恐る目を上げた。そこに映るのは、これまで見慣れた地味な自分ではなかった。
髪は、明るく温かみのあるハニーゴールドに染められ、肩にかかる軽やかなボブスタイルがふわりと動きを見せている。
顔まわりに流れる前髪が、目元を柔らかく引き立てていた。
鏡越しに見える美容室の一角には、小さなテディベアがそっと置かれた棚が映っていた。
柔らかな布地のベアは、ほのかに微笑むような表情で彩花を見守るように佇んでいる。
その隣には、アンティーク調の時計と温かみのある木製のフレームに収められた「あなたらしい美しさを見つけて」というメッセージが飾られていた。
「……これ、私ですか?」
彩花は小さな声で呟く。その言葉には、驚きと感動が滲んでいた。
「そうですよ。これが彩花さんの新しいスタイルです」
葵の声は穏やかだが、その中に確かな自信が感じられる。
彩花は鏡の前で目を瞬かせる。
「私も……こんなに変われるんだ……」
指先でそっと髪を触れるたびに、光を受けて揺れるハニーゴールドの色が輝き、軽やかにまとまるボブスタイルが新しい自分を語りかけてくるようだった。
ふと視線を下げると、店内の小さな観葉植物が目に入った。
柔らかなグリーンが店内に生気を与えている。
その中に飾られた一輪の黄色い花が、ハニーゴールドの髪色と重なって見えた。
彩花はふいに、高校時代の麻耶のことを思い出した。
「自然体が一番!」と笑顔で言ってくれた麻耶の声が蘇る。
夏祭りの帰り道、麻耶が「彩花もさ、もっと髪を下ろしてみたら?絶対可愛いのに」と何気なく言ってくれたことがあった。
でもそのときの私は、「無理だよ、私なんて」と首を振るだけだった。
自分を変える勇気が持てなかったのだ。
麻耶はその後も「彩花は十分可愛いのに」と優しく笑いながら、私を励ましてくれた。
でも、私はその言葉を信じられなかった。
「なんだか……私、ちょっと可愛いかも……」
ぽつりと漏らした言葉に、自分でも驚く。
「彩花さん、とっても素敵です。これからの大学生活、きっともっと楽しくなりますよ」
葵の言葉に、彩花は胸が温かくなるのを感じた。
彩花の目が再びテディベアに向かう。
「この子、なんだかずっとここにいたみたいな感じがしますね」
葵は微笑んで頷く。
「そうなんです。このテディベアは、実はお店を始めたときからずっとここにいて、お客様を見守ってくれているんですよ」
彩花はベアの柔らかな表情を見つめながら、小さく呟いた。
「なんだか安心しますね……私も、こんな風に穏やかな気持ちで誰かを癒せるようになりたいな……」




