第4話「大胆カットで大変身!?」[2]
「う、うん…まだわからないけど、何か考えるね」
そういって私は梓、美咲、結衣と別れたけど実際のところは何も考えていない。
否、今までオシャレというものに無頓着だったからこそ何もわからないといったほうが正しいのかもしれない。
結衣はともかく、梓と美咲は普段から私のことを馬鹿にしているし、私と別れた後も陰口を叩いていたに違いない。
―――悔しい。
そんな陰口が気になりながらも、私は自分の服装のことで頭がいっぱいだった。
考えれば考えるほど、心の中で悩みを抱え、その表情が曇っていた。
「あ、いたいた!優里ー!!」
そんな優里の横に結衣が追いつく。彼女は優里の心情を察していた。
ハァハァと苦しそうな息遣いが私のことを全力で追いかけてきてくれたことを証明している。
結衣は私に声をかけ、「ねぇ、優里。なんだか気分転換したい気分じゃない?」と言った。
私は少し驚いて、「え?うん、そうかも…」と答えた。
「そしたらさ……」
―――その長い髪、思い切って切ってみたら?
―――えっ?
結衣の思わぬ一言に驚く私。
それそのはず。私の太ももにまで届くロングヘアは幼いころから同じ髪型なのだ。
そのことは幼馴染である結衣も知っている。
なぜ、私がずっとスーパーロングヘアを保っているのか?
正確には中学に入学する頃に肩スレスレのボブヘアにしたことはある。
しかし、イメチェンに失敗した私の髪はオシャレなボブ、というよりも金太郎や昔の子供のようなおかっぱ頭になってしまったのだ。
そのようなおかっぱ頭は現代ではダサく、正直自分でもヘルメットのように見えて嫌だった。
当然、当時のクラスメイト達は馬鹿にされ、それ以来私は髪を切るのが怖くなり伸ばし続けた。
要するに中学デビューに失敗し、以降は髪を切ることすら怖くなり髪は伸び放題。
気が付けば太ももまで髪は伸び、学校内でも一番長いんじゃないかと噂されるレベルである。
今になって思えば、この時のイメチェンがうまくいっていればオシャレに目覚めていたんじゃないかな?
ここで躓いたばかりにこんな地味子になってしまったけれど。
で、結衣はそんな私の過去も知っているはず。
それなのに、なぜ今このタイミングで髪を切ることを勧めてくるのか?
目の前の結衣はニッコリしている。そこには梓のような陰険さは一切感じない。
「(そっか……)」
結衣は私が苦悩する姿に同情し、遠回しにアドバイスを伝えようとしてくれているのだ。
「優里の場合、髪が太ももまであって長いから、勇気出して切ってみると気分転換になるかもよ?それに、自分の髪を変えることで、ファッションにも興味が湧いてくることがあるんだって。」
私は結衣の言葉に少し興味を持ち始める。
確かに今の長い髪では似合う服も限られてしまうかもしれない。
そう感じた私は間髪なく「本当に?」と問いかけた。
きっとこの時の私の瞳は輝いていたに違いない。
髪を切る。
どんな服を着るかばかりに気を囚われすぎていてこの発想は無かった。
結衣はうなずき、
「うん。実は、この前聞いたんだけど、近くに腕の良いスタイリストさんがいる美容室があるんだって。『ハピネスカット』っていう名前らしいよ。」
と言った。
「ハピネスカット…幸せのカット…」
結衣の言葉に、私は自分の髪を切ることで、自分自身を変えるチャンスがあるのではないかと思い始める。
「髪の毛、切ってみようかな?」
太ももまで伸びた自分の髪を触りながら結衣に聞いてみる。
「いいじゃん!いいじゃん!絶対に良い気分転換になると思う!」
「……うん、考えてみるね」
そして、その心の中に芽生えた勇気が、やがて私の運命を大きく変えることになるなんてこの時は思いもしなかった。