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ハピネスカット-葵-  作者: えんびあゆ
佐藤彩花編

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第35話「新しい私のカラーパレット」[2]

「ねえ、このカフェ、インスタ映えするらしいよ!今度行こうよ!」


教室の隅で友達同士が楽しそうに笑い合う声が耳に入る。

彼女たちはみんな、髪をきれいに巻き、流行りの服を身にまとい、キラキラと輝いて見える。

自然体でおしゃれな彼女たちに比べて、自分の姿はどうだろう。


彩花は、自分が鏡で見慣れた姿――黒縁の眼鏡に、地味な黒髪ストレートのポニーテールを思い浮かべた。

服装も、シンプルな白いシャツに無難な黒のスキニーパンツ。流行りの服とは違い何ともラフな格好だ。

地方から出てきたばかりで服を買う余裕もなく、「これで十分」と自分に言い聞かせている。


「ううん、別に気にしないでいいよね。地味でも、ちゃんとやることをやれば……」

そう自分に言い聞かせるものの、学内の華やかな空気に飲み込まれるような感覚が止まらない。


「学生は勉強が主体……」

そんなことはわかっている。

だが、何かが違う。馴染めないのだ。

別にギャルになりたい、派手な格好がしたい、というわけではない。


なんというかこう、周囲に圧倒されるがゆえ自分に自信がもてないのである。

友達を作ろうと思い切って軽音サークルに入部したときだ。


初日、みんなの前で「趣味は読書です」と震える声で自己紹介をしたときのことは、今でも忘れられない。


「ふーん、読書か……。楽器はやらないの?」

「え、えっと……まだ初心者で、ギターを始めたいなって思ってて……」


そのとき返ってきた「まあ、がんばってね」という軽い一言が、彩花にとってはまるで「期待してないよ」と突き放されたように感じられた。

練習の場でも、既に経験者の同級生や先輩たちが目立つ中、彩花は自分の居場所を見つけられないままだった。


みんなが楽器を構え、自由に音を鳴らし始める中で、私はただ黙って座っているしかなかった。

笑い合う輪の中に入りたいと思うのに、どう声をかければいいのかわからない。

そのまま練習が終わり、片づけをしているときの、あの肩の重さ。

「頑張らなきゃ」って何度も自分に言い聞かせるけど、頑張り方すらわからない。そんな自分が嫌だった。



―――孤独。



そんな2文字が彩花の頭をよぎる。

良い大学に入り、良い就職をするために都会に出てきたが、今となってはこれが正しかったのかも疑問だ。



さらに、居酒屋のアルバイトでも同じような状況が続いていた。

「佐藤さん、お客さんから笑顔が固いって言われてたよ。もっとリラックスしてみたら?」

バイト先輩である園田のアドバイスに彩花は小さく頷きながら、「(リラックスするって、どうすればいいの……?)」と心の中で呟いた。


制服姿の自分を鏡越しに見る。

華やかなメイクをした同僚たちの隣で、自分だけが冴えない存在に見えてしまう。


鏡の中の自分は、ただ「仕事をこなすだけ」の存在に見えた。

同僚たちはお客さんと自然に会話をし、楽しそうに笑顔を交わしている。

それが特別なことじゃないように見えるのに、私にはその“当たり前”ができない。

こんな自分がここにいること自体、場違いなんじゃないかと思えてくる。

鏡に映る顔を見つめても、そこに自信なんて一つも見えなかった。



「(変わりたい……けど、どうしたらいいのか分からない……)」

彩花の胸に溜まったこの思いは、日に日に大きくなっていく。

鏡の前で髪をほどいてみるが、それだけでは垢抜けた印象にはならないことを知っている。


このままでは、ただ「地味な田舎者」のままで終わってしまうのではないか。

そんな不安が頭をよぎり、思わず下を向いて歩く日々が続いていた。



そんなある日、大学の帰り道、彩花は偶然一枚の看板を目にする。


「Happiness Cut 〜新しい自分に出会える場所〜」


小さな美容室の前に立つその看板は、カラフルな文字で彩られていた。

中を覗くと、落ち着いた木目調のインテリアと、温かそうな雰囲気が彩花を引きつける。


「新しい自分に……?」


胸の奥で、小さな声がした。


――変われるのかな? こんな私でも。


彩花は、ドアノブに手を伸ばしかけて止めた。

頭の中では「どうせ無理だよ」と思う自分がいる。


けれど、木目調の温かそうな扉から漏れる光に、足が引き寄せられる。

どこかで「もしかしたら」という期待も湧いてくる。

心の中で渦巻く不安を振り払うように、小さく息を吸い込んだ。

自分でも知らない間に、その期待に引き寄せられるように手が動いていた。


「……入ってみようかな」


小さな勇気を振り絞って彩花がドアを開けると、心地よいベルの音が鳴り響いた。

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