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ハピネスカット-葵-  作者: えんびあゆ
増毛輝太郎編

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32/76

第32話「ハゲ・コンプレックス!!」[9]

カットが終わり、鏡を見た瞬間――俺は目を疑った。


「これが……俺?」

サイドはスッキリと刈り上げられ、トップには絶妙なボリュームが残されたスタイル。

薄毛だった頭が、オシャレで堂々とした印象に変わっている。


「すごい……」

俺は自然と声を漏らした。



鏡の中の自分に目を凝らす。

薄毛を気にして俯きがちだった俺が、こんなに堂々としたスタイルになれるなんて――。

「会社の飲み会で冗談交じりに『お前、ハゲすぎておっさんくさいな』と笑われたあの頃。

鏡に映る自分を見てがっかりした日々。

育毛剤を買っては塗りたくっていた日々。

ウィッグを購入してハゲを隠していた日々。

でも、今の俺は――少しだけ自信が持てる気がする。」



「とてもお似合いですよ。」

葵さんが柔らかく微笑む。

その笑顔は、鏡越しでも眩しいほどだ。


「これなら、自信を持って外を歩けますね。」

その一言が胸に響く。

自分の姿を誇れるなんて、今まで一度も考えたことがなかったからだ。


頭が軽くなり、気持ちも高揚した俺は、勢いに任せて言葉を紡いだ。


「あ、あの!葵さん、俺、実は――!」


その時、ふと視界の隅に何かが入った。

それは、棚に飾られた写真だった。


「……あれ?」

写真には高校生くらいの葵さんと、短髪の男性が写っている。

その男性は葵さんの肩を抱き、二人は笑顔を浮かべている。


「あ、その写真ですか?」

葵さんが気づき、懐かしそうに微笑む。


「あの人は、清宮隆太さん。私が高校生の頃、憧れていた美容師さんなんです。」

「憧れ……?」

「はい、彼が私をショートヘアに変身させてくれたんです。

初めて髪型で自信を持てるようになった瞬間でした。」

葵さんの声にはどこか温かさが混じっていた。


「憧れの人……か」

写真の中の美容師・隆太さんは、俺の想像以上に完璧だった。

髪型、笑顔、佇まい――すべてが「お洒落」を体現しているようだった。

その人を憧れだと言う葵さんの笑顔は、俺が知っているどの笑顔よりも幸せそうだった。


きっと葵さんはその"清宮隆太"に惚れているのだ。

憧れのイケメン美容師と薄毛の俺―――勝ち目がないことは明白だった。

(でも、それでも俺は―――)


俺が固まっているのを見て、美樹がニヤニヤしながら近づいてきた。


「ねえ、おっさん。もしかして葵さんのこと本気で好きなんでしょ?」

「なっ!?」

驚いて声を裏返した俺を、美樹は冷静に見つめる。


「わかりやすいんだよ。さっきから目が葵さんに釘付けだし、今だって告白しようとしてたでしょ。」

図星すぎて反論する言葉が見つからない。

そんな俺を見た美樹が悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「まあ、応援してあげてもいいけど。その代わり、失敗したら面白そうだし!」

「(お前な……!)」


心の中で叫んだが、言葉が出る前に美樹は行動を起こしていた。

その顔に、何か企んでいるのが見え見えだった。


「葵さん!」

美樹が突然大声で呼びかけた。


「このおじさん、葵さんに言いたいことがあるんだって!」

「は!?お前何言って――!」

言葉を遮られる形で、葵さんの目が俺に向けられる。


「輝太郎さん、何か話が?」

微笑む葵さんの目に見つめられ、俺は逃げ場を失った。


「(おい美樹!余計なことするなよ!)」

心の中で叫びながらも、口を開くしかなかった。


美樹はニヤニヤしながらも、すれ違いざまに小さな声で呟いた。

「ガンバレ!おっさん!」

その声に、ほんの少しだけ優しさを感じた気がした。


「あ、あの……実は……その……!」


―――ええい、ままよ!!!


「俺、実は――!」

棚に飾られた写真――清宮隆太という存在が俺の胸を刺す。

完璧すぎる美容師と、ただの薄毛サラリーマンの俺。

勝ち目なんてあるはずがない。

でも、それでも――俺は、葵さんに伝えたい。


「(俺の言葉が届くのか、それとも――)」

次の瞬間、俺は大きく息を吸い込み、口を開いた――!

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