第27話「ハゲ・コンプレックス!!」[4]
帰宅した輝太郎は、部屋のソファに倒れ込んでいた。
「ストーカー呼ばわりされるなんて……いや、俺が悪いけどさ!」
自分の行動を振り返れば確かに言い逃れできないが、それでも「俺はただ葵さんを眺めていただけなのに!」と心の中で反論する。
机に突っ伏したまま、彼の脳裏には「ハピネスカット」の光景が鮮明によみがえる。
優雅に看板を磨く葵の姿、そしてあの眩しい笑顔――。
「……本当に天使だったな。」
呟くと同時に、"葵チェック"がもうできないと考えると心がずっしりと重くなる。
「ハゲである俺が、あんな女神に近づくなんて……罪では?」
何気なく口にした言葉が、自分の胸に鋭く突き刺さる。
ふと目を上げると、鏡の中に映ったのは薄毛の頭頂部をウィッグで覆った自分だった。
「これが俺……か。」
ウィッグをつけては外し、つけては外し――その動作を繰り返す。
"ハゲた自分"も"ウィッグをつけた自分"も、結局は同じ自分だ。
鏡越しに目が合った瞬間、思わず呟く。
「……いや、罪じゃない!俺だって変わりたいんだ!」
しかし、その勢いも束の間。輝太郎は再び肩を落とす。
「いや無理だ、こんな俺が……いや、でも……」
鏡の前で自問自答を繰り返すうちに、ふと美樹の言葉が頭をよぎる。
―――「でも、あの人に迷惑かけたらボクが許さないからね」
「……迷惑か。」
輝太郎はしばらく考え込み、そしてポツリと呟いた。
「俺、このままじゃ本当に怪しい奴だよな。まずはちゃんとしたお客さんとして行かないと……。」
だがその勢いも束の間、またハゲである事実に絶望し始める。
「いや無理だ、こんな俺が……いや、でも……」
思い出すのは美樹が「ハピネスカット」に向かって颯爽と歩きながら言った言葉。
―――「あーおいっ!遊びに来たよ!」
その声の明るさと堂々たる態度が、心に引っかかっていた。
「あの子、あんなに普通に話せるんだよな……俺だって、行けば……!」
一瞬希望が湧くが、すぐに思い直す。
「いやいや、俺はハゲだぞ?こんな姿で行ったら笑われるだけだろ!」
鏡の前で頭を抱えたその時、鏡の中の自分が静かに語りかけてくるように見えた。
「(お前、何を怖がってるんだよ)」
――そうだ、ウィッグがあるじゃないか。
輝太郎は勢いよく立ち上がり、拳を握りしめた。
「お前、ウィッグだってバレないようにすればいいだけだろ!」
ウィッグを整える手に力が入る。
「完璧な状態にして挑むんだ……!」
輝太郎は自分に言い聞かせるように、丁寧にウィッグを手入れする。
「俺は負けないぞ!」
その言葉に少し自信が乗る。
しかし、布団に入る直前、再び不安がよぎる。
「いや、でもやっぱり笑われたら……」
枕をぎゅっと握りしめたまま、「明日は堂々と行けるはずだ……多分……いや、絶対!」と自分を奮い立たせる。
「完璧な状態にして挑むんだ。俺は負けないぞ!」




