第26話「ハゲ・コンプレックス!!」[3]
「ふむ、今日も看板の角度は完璧だ……」
輝太郎はゴミ箱の陰からそっと顔を覗かせ、葵の動きを目で追っていた。
しかし、その日の「葵チェック」には予期せぬ訪問者が現れる――。
「ちょっと、何やってるんですか?」
突然、背後から冷たい声が響いた。
「ひぃっ!」と驚いて振り返ると、そこには小学生らしき女子の姿があった。
鎖骨あたりで切り揃えられた、ほんの少しクセのある柔らかな茶色の髪。その髪をポニーテールにまとめた姿は、活発で小気味よい印象を与える。
動きやすそうなハーフパンツとシンプルなTシャツ、そして肩に羽織った白黒のストライプ柄のカジュアルなパーカー。その無駄のない格好が、彼女の行動力の高さを物語っていた。
その少女は俺にキツイ一言をお見舞いしてきた。
「何、この怪しい行動。もしかしてストーカー?」
少女は堂々と腕を組み、ジロリと輝太郎を睨む。
「ち、違います!これは、その……調査です!」
「調査?」
「えっと、美容室の動線を分析していて……マーケティングの一環で!」
輝太郎は焦りながらも、なんとか適当な理由をでっち上げた。
必死に取り繕う輝太郎だが、少女は眉をひそめたまま、怪訝そうな表情で輝太郎を見つめ続けた。
だが、しばらく考えた後、ふっと肩をすくめて、「ふーん、まあ、いいけど」と呟いた。
その口元には、不敵な笑みが浮かんでいる。
「でも、あの人に迷惑かけたらボクが許さないからね」
その一言が鋭い矢のように輝太郎の胸を刺す。
「迷惑……いや、そんなつもりは!」
と反論したい気持ちを飲み込む間もなく、少女は振り返り、「ハピネスカット」に向かって颯爽と歩き出した。
「あーおいっ!遊びに来たよ!」
「この前教えてくれたポニーテールのアレンジ、やっぱり友達に好評だった!だから今日はもっとすごいアレンジ教えてよ~!」
外にも響くその声を聞いて、俺の背筋が凍る。
彼女と葵が知り合いであることが明白だったからだ。
店内から、葵の穏やかな声が聞こえてくる。
「美樹さん、また来たのですね。じゃあ今日は、少し違った感じのアレンジを教えますね」
遂に「葵チェック」が第3者にバレた。しかも、それを告げ口されるかもしれない危険な相手「美樹」に。
「(まさかこんな形で第3者にバレるなんて……こんなところで天使を観察する怪しい男。端から見ればストーカー。それを小学生に見られるなんて……俺の人生オワタ……?)」
俺はただただ冷や汗をかき続けるだけだった。
アーメン。




