第21話「双子のアイデンティティ[6]
美奈子は、葵の言葉と鏡に映る双子の姿を見つめながら、心の中でふと立ち止まった。
「(双子だからお揃い……それが正しいと思ってたけど、この子たち、それぞれにこんなに違う魅力があるんだ……)」
美樹のスポーティーなポニーテールは、彼女の活発な性格をそのまま映し出しているようだった。
跳ねる毛先が、娘の内に秘めた明るさと強さを表現している。
一方、美香の編み込みスタイルは、優しい性格と上品さが際立ち、リボンの輝きが彼女の純粋さをさらに引き立てていた。
「(私……今までこの子たちを一緒に見てばかりで、一人ひとりをちゃんと見ていなかったのかもしれない)」
ふと、自分が双子コーデやお揃いの髪型にこだわり続けてきた理由を思い返す。
―――。
幼い頃の美樹と美香。
まだ歩くのもおぼつかない二人が、同じピンクのワンピースを着て手を繋ぎ、はしゃいでいた日のこと。
「ママ、見て!美香と同じお花摘んだよ!」
美樹が小さな手に握りしめたタンポポを嬉しそうに見せたとき、美香もその隣で笑顔を浮かべて同じようにタンポポを差し出した。
「美奈子さんのところ、ほんとに双子らしくて可愛いわね!」
公園で他のママ友にそう褒められた瞬間、美奈子の心は幸せでいっぱいになった。
その日以来、双子らしさを大切にしようと心に決めた。
二人の服は常にお揃い。髪型も揃えて、周りから「素敵な双子ね」と言われるたびに誇らしさを感じた。
「(だって、双子はいつも一緒にいるのが当たり前で、それが幸せだと思っていたから)」
けれど、次第に二人の個性が育ち始めると、違う場面も増えていった。
例えば、美樹がズボンを履いて木登りを楽しんでいるとき、美香は花柄のスカートでおままごとに夢中になっていた。
「それでも、服や髪型だけは同じでいれば、双子らしさを守れる―――。」
しかし―――。
目の前で輝く双子の笑顔を見ていると、幼い頃の「お揃い」に囚われ続けていた自分に疑問が湧いてくる。
美樹のポニーテールからは、彼女の内に秘めた活発さと自由への憧れが感じられる。
一方、美香の編み込みスタイルは、彼女の優しい性格をそのまま表しているようだった。
「(私はこの子たちをお揃いにして、『同じであること』が幸せだと信じてきたけど……)」
美奈子は小さく息をついた。
「(でも、本当は―――それぞれが自分らしく輝けるほうが、ずっと素敵だったのかもしれない)」
その思いは、まるで初めて気づいた秘密のように、彼女の胸にそっと響いた。
「(可愛い双子の姿を見て喜ぶのは、私自身だったんじゃないの?それがこの子たちにとって幸せだと思い込んでいただけで……)」
目の前で輝く双子の笑顔を見て、美奈子の胸にぽっかりと空いた何かが、静かに埋められていくようだった。
「ママ見て!このポニーテールにすると動きやすい!」
「ママこっちも見て!この編み込みすっごく可愛いの!」
目の前に写る2人の双子―――美香と美樹を見て私は自然に口が動いた。
「(私は今まで、二人の個性を無視していたのかもしれない……)」
美奈子は胸の奥で、幼い頃の二人の笑顔を思い出しながら、そっと心の中で呟いた。
「(でも、今ならまだ間に合う。この子たちの違いを認めていける―――)」
―――「ええ、2人ともとっても似合っているわ」




