第11話「大胆カットで大変身!?」[9]
目を開けた優里が最初に見たのは、床に散らばる自身の切られた長い髪。
それはまるで、過去の自分が形となってそこに横たわっているようだった。
鏡の中の自分を見るのが少し怖い気もした。
だけど、ふと視線を上げた瞬間、そこに映るのは―――これまでとは全く違う私だった。
短く切りそろえられた髪が、これまでの重みを一気に取り去り、軽やかな印象を与えている。
耳元がすっきりと露わになり、首筋はまるで風を迎える準備ができたかのようだ。
「これが……本当に私……?」
優里はつぶやきながら、そっと髪に触れる。
短くなった毛先は、これまで感じたことのない軽さを伝えてきた。
まるで新しい自分を祝福しているかのようだ。
長い髪を切ること。それは、優里にとってただのヘアスタイルの変更ではなかった。
―――ずっと、自分を守ってくれているような気がしていた。
小学校の頃、結衣以外の友達とうまく話せず、休み時間に一人で本を読んでいた日々。
中学に入ってからは、髪を伸ばして顔を隠すことで、他人と目を合わせないようにしていた。
高校生になったら多少は頑張って梓のような自分とは違うタイプの人間とも話すようになったけど、どこか壁を作ってた。
「長い髪なら、私の気持ちも誰にも見えない。だから安心だって、ずっと思ってた……。」
そんな風に自分を守りながら、目立たないように過ごしてきた自分。
でも、今日、葵さんと話しているうちに気づいた。
「隠れているだけじゃ、何も変わらないんだ。」
鏡に映る自分は、これまでとは違う――隠れる場所を失った代わりに、軽やかで明るい印象をまとった自分。
恐怖よりも、ほんの少しの期待が勝っていることに気づき、私は小さく息を吐いた。
「似合っていますよ、優里さん。」
葵が優しく微笑みかける。
その一言が、優里の胸にじんわりと染み込んでいく。
「でも、まだちょっと信じられないんです。こんなに短い髪型にするなんて、自分でも想像してなかったから……」
優里は少し恥ずかしそうに笑う。
葵はそんな優里を見て、軽く肩を叩いて安心させる。
「最初はそう思うものですよ。でも、鏡の中の自分を見て、少しずつ慣れていくと、だんだん楽しくなりますから。」
「楽しく……ですか?」
優里は少し首をかしげながら尋ねる。
「そうです。新しい自分を楽しむ気持ちが、自信を作っていくんです」
葵の言葉に、優里の心が少しだけ軽くなるのを感じた。
「これが本当に私なんだ……。」
自分のつぶやきがまるで誰か別の人の声のように聞こえた。
でも、次の瞬間、鏡の中の自分が柔らかく微笑み返してくれたように感じた。
「さあ、これからは新しい優里さんの人生が始まりますよ」
葵の言葉に深く頷く。これから何が待っているのかはわからない。
だけど、これまでの自分とは違う一歩を踏み出せる気がする。
鏡に映る自分を最後にもう一度見つめ、そっと目を閉じた。
そして静かに息を吐きながら、小さな決意を胸に抱く。
「ありがとう、葵さん。」
その言葉とともに、新しい風が優里の背中を押してくれた気がした。
「優里さん、ショートスタイルの髪型がとてもお似合いですよ。自分の変化を楽しんでください。」
優里はまだ不安げな表情を浮かべるが、葵の言葉を受け入れようと努力している様子だった。
「本当に…?でも、こんなに短い髪にしたことがないから、ちょっと不安だけど…」
葵さんは私の肩を軽く叩いて安心させる。
「大丈夫ですよ。最初は慣れないかもしれませんが、新しい自分を受け入れることで、自信もついてくるはずです。」
葵さんの言葉に徐々に勇気を感じ始め、新しいヘアスタイルに自信を持ち始める。
「そうかな…うん、わかった!新しい自分を楽しんでみるよ!」
そして、自分自身の外見について考えることも少しずつ楽しくなっていく。
「そういえば、葵さん。このピクシーカットって、どんな服装やメイクが似合うんだろう?」




