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ある工場の若者たち

作者: 後東衣桜利
掲載日:2024/10/03

ひらひら、ひらひら、ひらひら


天使?いいえ、わたしは神。

わたしは恋愛の神キューピッド。

金色の羽をなびかせ、今日も気まぐれに矢を放つ…。



居酒屋の二階の一部を貸し切り、工場の働く従業員達は、食事を食べたり、お酒を飲んだりして、わいわい騒いでいた。

この度、正社員の爽やかイケメンの柚留木屋(ゆるぎや)さん23歳とかわいらしく華奢な子猫の様な女性パートの初瀬川(はせがわ)さん21歳が結婚し、それで飲みが好きな連中がそれにかこつけて飲み会を開いたのであった。

たいしてこの二人と親しいわけでもないし、祝っているわけではない。

それでも皆から集めたお金でお祝いの品を買い、代表者が二人に渡した。

「おめでとう!おめでとう!!」

皆で拍手。

それを笑顔で眺めている1人の女性がいた。

春野友加里(はるのゆかり)だ。

彼女は23歳。実はこれから3ヶ月後、柚留木屋(ゆるぎや)から友人数人の飲み会で、計画的に不倫のお誘いを受けて、まんまとその策略にはまり、不倫をしてしまい、当然奥さんにばれ、ゴタゴタしてしまう気の毒な未来が見える。

キューピッドは、この間(8月)銭函の海に1人で来ていた彼女が持っていたイルカの浮き輪が気になり、何となくついてきてしまったのだ。

キューピッドは、この、友加里と、柚留木屋にまず目を向けた。

キューピッドは、子供の姿をした裸ん坊の見た目で、金色の羽をはやし、その辺を飛んでいる。手には弓と矢を持ち、足元には矢筒をつけている。矢筒には金の矢と鉛の矢が1本ずつ入っている。金の矢をキューピッドが放ち、その矢にささった人は、ささった直後に最初に見た者に恋をしてしまうのだ。

反対に鉛の矢をキューピッドが放ち、その矢にささった人が直後にみた者を大嫌いになってしまうのだ。

キューピッドは少し考え、そして決めた。

最初に友加里がお手洗いに行き、少し経ち、柚留木屋もお手洗いに行く。

お手洗いの入り口には誰もいなかった。そこに柚留木屋が進む。

キューピッドは、鉛の矢を柚留木屋に放つ。その直後に、女子のお手洗いから友加里が出てくる所だった。柚留木屋が友加里を見た。その途端に柚留木屋は、何故かは知らないが友加里が生理的に受け付けなくなってしまったのだ。

友加里は柚留木屋のことは好きでも嫌いでもない。もともと何とも思ってはいなかった。つまり、友加里が柚留木屋からの不倫の罠にはまってしまう不幸な未来は防がれた。

これから友加里はキューピッドお墨付きの、変な既婚者からの誘惑もなく明るい恋愛をしていくであろう。

キューピッドは胸を撫で下ろした。


さてさて、これからここにいる誰にキューピッドの矢を当てようか考えていた。

あっ!

どよ~ん、とした空気の場所があった。ここには35歳独身の男女が数人座っていた。

まず、少し太めの藤野翔(ふじのしょう)

反対にがりがりの嶋谷悟(しまたにさとる)

太めでも、がりがりでもない標準的な体型の可香野健太(かがのけんた)

派手な見た目の平岸有菜(ひらぎしゆな)

反対に地味な印象の中里佐江(なかさとさえ)

派手でも地味でもない平均的な見た目の仲澤伊知(なかがわいち)

この6人は若い時から今まで恋愛や結婚などこれといって縁が無かった。このように、独身35歳が揃いも揃って6人ここに固まって座っているというのに、特に何もないというのだ。

先ほどの、結婚したばかりなのに浮気に走りがちの、23歳の柚留木屋

とは大違いだ。彼は、今回の初瀬川との結婚も、柚留木屋の猛アプローチから始まった。この間辞めた、パート男性との初瀬川をめぐった激しい三角関係攻防の末に見事勝利、初瀬川の愛を手に入れたのだ。

そうなのだ。恋に愛に積極的な者は最初っから最後まで積極的で、その流れか縁やチャンスも引き寄せる。

反対に消極的な者は、それこそ、縁やチャンスもやって来ず、そのまま一生を終える。

それで良いのだろうか…?

キューピッドは、眉間に皺を寄せる。

いや、よくはない。


遥か昔、キューピッドの母、愛と美の女神ビーナスは夫がいながら別の男性(戦いの神マルスかな???よく知らね…)と恋に落ち、それで生まれたのが、キューピッド。

ここで恋愛の神キューピッドが誕生したのだ。


そう、恋愛の神である、このキューピッドが縁遠く消極的になってしまっている4人にどきどきわくわくの経験をさせてあげなくてはならないと考えた。

まずは何かきっかけを…。

キューピッドが金の矢を放つ。

それが少し太めの藤野翔に当たる。

金の矢がささったまま、藤野は、たまたま席の向かえ側に座っていた派手な見た目の平岸有菜を見てしまう。途端に恋に落ちた。平岸が変なアニメのキャラクターの物真似をしていた所だった。

「ほえ~ほえ~君を守る~」

平岸有菜は、鼻の穴を膨らませ、両目をカッ!!と見開き、腹の底から絞り出してきた声を出した。

派手な見た目だが、アニメ好きでアニメオタクでよくアニメキャラの物真似をする。何故か盛り上がらないこの空間に、笑いを提供しようと懸命に物真似をしているのだった。

どう考えても恋には落ちそうにもない展開である。しかし、恋愛の神であるキューピッドが放つ黄金の矢の威力は強力である。矢が藤野にささり、藤野が場を明るくしようと物真似をしている有菜を見、藤野はそんな誰もしてないような細かな心遣い(変なアニメキャラの物真似)をする有菜が美しく輝いてみえたのだった。

藤野(かれ)は恋に落ちた。


「似てるね」

そう藤野は声を発した。

「えっ」

平岸有菜はそんな藤野の言葉に反応した。

有菜は、昔からよく物真似をしていたが、今までどこの誰も有菜の物真似を似てると言ってくれた人はいなかった。しかし、有菜は思っていた。昔からずっと物真似をやっているのだから、少しは似ているに違いない、と。

だからそう言われた途端に有菜はそんな今まで誰も見抜け無かったことに気づいた鋭い観察眼を持つ藤野にドキッとし、恋をした。

「ありがとう」

有菜はそう笑顔を向けた。

藤野も微笑みかえす。

良い雰囲気だ。その流れを察し、可香野健太が二次会にこの6人でカラオケに行かないかと誘い出す。

皆は何となく了承する。いつもなら断る流れだ。

しかし、良い流れが出来ていて、6人は二次会のカラオケに繰り出す。

この6人、特に関わりもなく、特別仲良くも無かった。

可香野健太は、親から結婚を急かされていて、困っていた。仕事も工場パートだし、なかなか結婚に積極的になれない。前に結婚相談所へ行って、散々だった。パートで年収が低いということで、相談所にいる婚活女性達から沢山酷いことを言われた。暴言をはかなかったとしても、適当な理由でお断りされたり、そもそも相手にされなかった。

そして、この工場でも目が死んでる独身若者達(自分含む)の、どよんとした空気、そして、変わらぬ状況にうんざりしていたのだった。

それを変えることにした。皆でカラオケに行こうと提案したのだった。

6人はカラオケに行き、その後も色々交流ができた。この中でカップルになったのは藤野と有菜だけだったが、彼らはなかなか楽しい思い出が出来たようだった。


~嶋谷悟は恋をする~

先ほどの独身35歳6人集の中の1人である、ガリガリ体型の嶋谷悟は、キューピッドの黄金の矢は刺さってはいないが、キューピッドが柚留木屋に放った鉛の矢により生理的に春野友加里がだめになり、不倫のお誘いはしようとはしなくなったが、冷たくするというか嫌がらせをするようになったのだ。正社員という立場を利用して、適当な理由を作り、違うライン現場に友加里を押しやり、自分の目の届かない場所に追いやったのだった。

そこの場所に同じく追いやられた嶋谷悟がいて、その嶋谷が12歳も年下の友加里に恋をしたのだった。

最初は自分より12歳も上の嶋谷悟に興味のない友加里だったが、しだいに嶋谷の飾らない人柄を好きになっていったようだった。

これでこの工場にキューピッドが来た後の2組目のカップル誕生だ。

可香野健太を中里佐江と仲澤伊知が遊びに誘っていたようだ。

可香野も同僚として楽しく3人で遊びに行ったりしているようだった。


~他のキューピッド登場~

他のいたずら好きのキューピッドがやってきた。このキューピッドは奔放過ぎて大変だ。

工場の既婚者同士に矢をあて、片方には金の矢を、もう片方には鉛の矢を当てた。金の矢が当たった方は追いかけるが、鉛の矢が当たった方は逃げる逃げる逃げる。すぐに工場の仕事を辞めてしまった。

金の矢が当たった方は失恋をして、でも既婚で、しばらくしたら落ち着いたがそれまで仕事を休んだりして大変だった。


キューピッドはもう1人のキューピッドに出ていけとは言わず、2人でひっそりとこの工場に居座っていた。

工場には2人のキューピッドがいて、今日も誰かの恋を後押ししている。





























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