表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

言ノ葉の記憶

作者: あきの丘

 丘の上に佇む一本の大木。

そこを訪れることが日課になっていた。

学校での長い1日が終わり帰路につく。

学校生活が嫌なわけではないが、

毎日同じような変わり映えのない日々。

自転車の帰り。毎日訪れる登り坂の疲れが、

いっそうそれを印象づける。

息遣いが荒くなり、家に着く頃にはくたくたで。

でも最近は少し違う。とっておきの場所がある。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ーーーーーーーーーーーー

【サツキとメイ】

 エアコンの効いた教室。

国語の授業の後、ある言葉が耳に入った。

「サツキとメイじゃん!これ」

教室の空気が切り取られる。

そんな要素どっかにあったか?

少しノートを見直してしまう。

「何の話してるの?」 

誰かが僕の声を代弁してくれる。 

机の周りに数人が集まり、

その言葉に教室中が興味津々だ。

せみの鳴く声も耳の彼方。彼は話し出した。

「よく聞けよ、、

 皐月(さつき)って五月のことで、

 五月って英語でMay(メイ)だよな、、」

「ということは、、、

サツキとメイで五月の旧暦を覚えられる!」

思わず声に出してしまった。

「そう!そういうこと!」

教室中がライブ会場のように湧き上がる。

「天才じゃん!」

そう言って僕はその輪に入っていった。

ーーーーーーーーーーーーー


ぼんやりとしていた視界が晴れる。 

天才だこれ!自分では絶対思いつかない。

「小学生の頃か〜懐かしいな」 

1人寂しくつぶやく。

何かあるとすぐ集まりだすもんな。

放課後友達と集まってゲームもしたっけ。

今振り返っても色褪せない。大切な思い出。

あの頃に戻りたい。

自由だった、あの頃に。

今の自分と、どうしても比べてしまう。

変わり映えのない、今と。

こんな毎日を変えたいと

ずっと前から思っているが、

それはなかなか難しい。

何とか新しいことをしようと努力はしている。

最近はいつも通らない道を通り、

学校への最短ルートを研究している。

そんな時にこの場所を見つけたのだ。

最初は小休憩にちょうどいいとしか

思っていなかった。

木漏れ日を浴び、

寝転んだり。

本を読んだり。

ここを訪れ、早一か月。

いつものように寝転んでいると顔に葉が舞い降りてきた。

その葉には記憶が宿る。

最初は夢だと思っていた。

過去の記憶が呼び起こされることもよくあるし、

そこに記憶に無い脚本が加えられることもある。

しかし、夢として割り切るにはリアルすぎたのだ。

感情が手に取るようにしてわかる。

あまりにも共感ができる。

そして何よりも、その葉にふれたとき、

なんとも言えない温かさを感じられたのだ。

そうして、言ノ葉を摘むことが日課となった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ーーーーーーーーーーーーー

【サツキって何?】

「サツキって何?」

そこだけ切り取れば、

悪口にもからかいにも聞こえる。

しかし今はそんな深刻な状況ではない。

ただ単に、どうでもいい茶番劇を

四人で繰り広げているのだ。

「人間では無い」

いきなりの否定。

さて、どう転がるか。

「じゃあ何よ」人間でないものが言う。

「宇宙のチリ」

筋は通っている。

宇宙から見ればそうかもしれん。

「ナスでいいだろ」

唐突なナス宣言。

「水やってやろうか?」

俺はつかさずつっこむ。

「昼は肥料だな」

「夜に焼いて食べよう」

続いて二人が話す。

「それ実質火あぶりだよねそれ!」ナスが申す。

「なら煮よう」

「溺れるって」

時を告げる鐘が鳴る。

休み時間まるまる使って何やってんだ。

心の中で思う。

楽しい時間もここまでのようだ。

ーーーーーーーーーーーーー


内容はともかく、またサツキ出てきたな。

なんなんだ。まさかの同一人物?

でも少し笑えてしまった。

こんなに笑ったのはいつぶりだろう。

笑い転がり空を見上げる。

雲行きが怪しくなってきた。

「長居しすぎたな」

時刻は五時をまわっている。

急いで帰りの支度をはじめなければ。

大木といえど雨宿りできると言う保証はない。

丘への坂は急で階段もなく、

ぬかるみ、滑る心配もある。

何より制服を汚したくないのだ。

そして足早にその場所を後にした。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


とうとう明日からは夏休み。

木漏れ日も突き刺すほどに熱く。

もはや蒸し風呂状態だ。

長時間(とど)まるのも

苦になってくる。

しばらくはお別れかな。

それにしても暑い。


ーーーーーーーーーーーーーー

【学校訪問】

 今日はいつもと違う道を歩いている。

少し懐かしい、中学校ヘの通学路。

当たり前のことだが景色は何も変わっていない。

家々にとまる車もそのままだ。

どこの家にどの色の、

どの車種が駐まっているのか全て記憶している。

気持ちわる。と思うかもしれないが

三年間通っているんだ、いやでも覚える。

「もう四か月か…」

最近と言われれば最近だが、

かなり昔に感じられる。

手には高校のパンフレットやらポスターが

入った封筒。

面倒かと言われれば面倒だが、

少し楽しみでもある。

ーーーーーーーーーーーーーーー


これって、、


ーーーーーーーーーーーーーーー

【テニスボール】

 こんな暑い日にテニスなんてどうかしている。

時刻は一時半。

せみが騒音と化し夏の暑さを助長する。

体育は嫌いではないがこれは論外だ。

今はラリーの時間。

ラケットにどうしても力が入ってしまい

思うように飛ばない。

ペアの相手は東山くん。遅刻常習犯である。

クラスの中ではかなり話しやすい。

端のコート、二人でぎこちなくラリーをする。

ネットに引っかかったり。あらぬ方向に飛んだり。この空気感、悪くない。

「あっ、、」

思わず声をあげる。

ボールが高いフェンスを放物線を描き、

太陽と重なる。

二人で外を眺める。

「やったな、、」

自分が言ってどうする。

東山がテンパりながらも少し楽しそうに言う。

「どうする?」

「後ででいいか」

頭にハテナが浮かんでいるのが見て取れる。

説明を補足しよう。

「誰も見てなかったし帰りでいいかなって」

「なるほど。草に隠れて見えないしね」

二人だけの秘密。

そう心で思いながらラリーを再開した。

こんな少しの事件も、思い出になりうる。

ーーーーーーーーーーーーーーー


もしかして、、


ーーーーーーーーーーーーーーー

【後日談】

昨日から続く雨は、

今日になっても降り止む気配を見せない。夏の長雨だ。

今日はいつもの場所には行かず即帰宅、

物思いに耽っている。

窓を眺めると外は暗く、雨水が窓に滴る。

机にはテニスボール。早く返さないと。

夏休みまで体育がもうないことを、

このときは知る由もなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーー


僕だ、、


ーーーーーーーーーーーーーーー

【大きな木の下で】

 三日ぶりに来たこの場所は、

なぜか美しく感じられた。

太陽の光に照らされ、

葉の一枚一枚がきらきらと宝石のごとく輝く。

「今日は何かな。」

一人つぶやく少年がいた。

こんな日常も悪くない。

ーーーーーーーーーーーーーーー


ぼんやりとしていた視界が晴れる。

「けっこう悪くなかったのかもな、、」

心の重荷が降りたような気がする。


お読みいただきありがとうございます。


私が初めて書いた小説となっています。

言の葉は、想像半分、実体験半分。

自分の日常を振り返ってみると、

なかなか楽しかったなと、

思い出し笑いしてしまう場面もありました、、、


少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ