表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子の初恋と黒薔薇の剣姫  作者: 夢神 蒼茫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/48

第24話 黒薔薇の花言葉

 剣が舞う。僕と君の想いを乗せて、カシャンカシャンと金属音を響かせながら。


 僕とネイローザの手に握られた訓練用の細剣レイピアが、右へ左へ、あるいは宙に円を描き、そして、ぶつかり合う。


 金属音のハーモニー、今の僕には花道バージンロードを進む足音のように聞こえる。


 それほどまでに心地よく、何の憂いもなく自由自在に動き回っているかのようだ。


 しかし、自由自在と言っても、それは見ている側の視点であって、実際に舞っている僕やネイローザは、きちんと“互いの動きを読み合って”動いているのだ。



(そう、剣舞で重要なのは、相手の動きを正確に読みつつ、相手にこちらの動きも悟らせる事。互いが互いを読み合い、決闘しているように見せつつ、その実、呼吸を合わせて踊るんだ)



 そんな事など、僕にとっては朝飯前だ。


 ネイローザの動きくらい、余裕で先読みできる。


 なにしろ、彼女の動きは普段の訓練に比べて、あまりにも“遅い”からだ。


 何の事はない。本気で彼女が細剣レイピアを振るったら、常人の目にはまともに捉える事もできないだろう。


 十年以上、彼女との訓練を繰り広げている僕でさえ、どうにか見える程度だ。


 しかし、今の彼女は実にゆっくりだ。


 だからこそ、剣舞を眺めている周囲も目で追える。


 ましてや僕なら、先読みくらい造作もない。



(まあ、と言うより、読ませていると言う方が正しい)



 実に単純な事だ。


 武器を振るう際には、必ず“予備動作”が入る。


 決闘の際には、まさにその“繰り出す瞬間の動き”が重要で、それによって相手の動きを先読みしたり、あるいは逆に引っかけたりするものだ。


 もちろん、今は決闘ではなく剣舞であるため、引っかけなどない。


 だからこそ、素直にその予備動作を読み取れる。


 足運び、僅かな腕の筋肉の膨張、あるいは視線や体の傾き、そこから相手の“次”を読み解き、それに合わせて自分も動く。


 独りよがりな動きでは、剣舞とはなり得ない。


 美しくないからだ。



(そう、これだ! こういうのでいいんだよ、こういうので!)



 ネイローザと舞う。これほど楽しいものだったとは、想像を超えている。


 互いを読み合い、互いの動きを見て、次に繋げる。


 つまらなかったダンスではあるが、こうした剣舞であれば、いや、相手をするのが君であれば、いくらでもステップを踏める。


 繰り出す足運びも、思いの外、軽い。軽い!


 さながら、おとぎ話に出てくる小さな妖精にいざなわれ、森や湖畔で闊歩するかのようだ。


 もう金属音すら聞こえないくらいに、僕は意識をネイローザに集中させている。


 耳をすませば、君の呼吸、それどころか心臓の鼓動すら聞こえてきそうだ。


 剣と剣が交差し、時にすれ違いながらの恋の鞘当て。


 男女の駆け引きさながらに、すれ違い、絡み合い、回り回って、また交わる。


 今の剣舞はまさにそれ。


 何者にも邪魔されない、男女の睦み合い、それそのものなのだ。


 そんな楽しい時間が、今この瞬間、この空間に顕現されている。


 王子と騎士、生徒と教師、貴人と護衛、君との関係は様々だ。


 でも、今は男と女、それだけなんだ。


 鏡で見ずとも、今の僕は笑顔である事は疑いようもない。


 君と、麗しの『黒薔薇の剣姫』と剣舞を交える。


 ああ、こんなに嬉しい事、楽しい事はない。


 君もまた、素敵な笑顔を見せてくれている。


 森の中に住まう妖精エルフ、その希少種たる黒エルフ(ダークエルフ)、それが君なんだ。



(これが邪神の加護を受けた呪われた存在だって? 冗談も大概にしろ。こんな可愛らしい妖精が、見目麗しい女性が、悪魔だなんだと罵る輩の気が知れない) 



 まあ、それも分からなくもない。


 先の戦でもこの華奢な体付きの妖精が戦場で舞い、百人からの敵兵をねじ伏せたと言うのだ。


 彼女の前に敵として立ち塞がったりすれば、それは恐怖であり、悪魔に見える事もあるかもしれない。


 今こうして互いに剣を繰り出していても恐怖を感じないのは、これが剣舞であると分かっているからだ。


 実戦だったらこうはいかないだろうが、だからこそ僕は彼女に敬意を表する。


 こんな小さな体で、王国の剣となり、仇成す存在を屠る姿に感銘を受ける。


 まだまだ未熟ながらも、僕をここまで鍛え上げてくれた彼女には、捧げる感謝の言葉もない。



(だからこそ、思い止まらせてしまう。彼女に愛の告白をする事を)



 ネイローザは誰よりも真面目で、この国の事を大切に思っている。


 百年以上の長きにわたってこの国に仕え、実に僕で七代を数える。


 そんな彼女の事を愛おしく思いつつも、抱き締めてはならないという戒めがあるのが実に腹立たしい。


 目の前にいる妖精に僕は色恋を抱き、思慕しているのは間違いない。


 普段から、彼女が目の前にいると心臓が高鳴りを覚えているのだから。


 しかし、彼女を抱きしめれば、この国の“次”がなくなってしまう。


 成長が止まり、子供のままの君は、子供を、次代を担う次の王子を産めない。


 継嗣が無くなり、この国が絶えてしまう。


 成長なくして次はなく、“不変”の黒薔薇を抱き締めれば、そこで何もかもが止まってしまう。


 そうなれば、君は悲しむ事だろう。


 僕の死後の事だろうが、君は嘆き、絶望するに違いない。


 君は枯れない永遠の黒い薔薇なのだから、ずっと咲き続けるだろう。


 それでも君は民草の血と涙を吸って生き続けるだろうが、それでも黒い薔薇のままでいられるのか、それは分からない。


 涙に枯れて黄色くなるか、あるいは血を吸って赤に染まるか。


 ともかく、全てを覆う黒ではいられないのではと、僕は思う。



(でも、僕の気持ちがどうあれ、僕は君を悲しませたくはない)



 黒薔薇の花言葉は不思議なもので、“渡す場面”によって変化するのだ。


 祝い事やめでたい席で渡される黒薔薇の意味は“永遠の愛”。


 変わる事無く咲き続ける君に、相応しい花言葉だ。


 しかし、不吉なものがある。


 別れ際に渡される黒薔薇の花言葉、それは“恨み”だ。


 もし、彼女を抱き締め、国を亡ぼすような暴君に僕がなってしまえば、君は“恨み”を抱く事だろう。


 血の涙を流しながら、国を滅ぼした事への責め苦の言葉と共に、地獄の果てまで追いかけてきそうだ。


 そんな事に、僕は耐えられない。


 悪鬼になった君なんて、見たくない。


 だからこそ、僕は君を抱きしめる事は許されない。


 どれほど望んでも、君を手にする事はできないんだ。


 妖精は妖精のままでいて欲しい。


 黒い薔薇は、いつまでも凛としたまま咲いているべきだ。


 掴む事は許されない。


 妖精として、黒い薔薇として、そのままでいて欲しいと願うのであれば、決して触れてはならないのだから。


 手を伸ばせば掴めても、棘が突き刺さり、全てを台無しにしてしまう。


 ああ、本当に理不尽だ。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ