オレンジ
僕は小学4年生。
大阪の田舎に住んでる。
朝晩は冷え込むけど、5月のこの時期が一番好き。
なんでやと思う?
「青空、ゴールデンウイークだからっていつまでも寝てないで遊びにでも行きな」
と、お母ちゃんが僕に注意してくる。
正直だるい。
うちん所はそんな裕福でもないから、ゴールデンウイークにどこかに行くことも早々ない。
しゃあない。
「蒼ん所に行ってくる」
僕がそう言うと、お母ちゃんは、
「なら、これ蒼ちゃん家に持っていってくれる? いつものおすそ分けですって」
と、親戚から届く夏みかんを何個かビニール袋に詰めたのを渡しに来る。
「わかったよ」
そう僕は言って、ビニール袋を持って蒼ん家に行き、インターホンを鳴らす。
蒼は幼馴染で1つ上や。
まぁ、蒼は早生まれやからあんま年上とは思わんけど。
「はぁい、あら青空くんいらっしゃい」
と、おばちゃんが出てきた。
「遊びに来ました。あと、お母ちゃんがこれどうぞって」
そう言って、おばちゃんにおすそ分けを渡す。
「まぁ、いつもありがとう。良かったら、ケーキあるの。青空くん食べて行き?」
と、おばちゃんが言う。
そう、僕はこれが目的。
おばちゃんは、遊びに行くたびおやつを出してくれるんや。
それも豪華な。
「ありがとうございます! 蒼はいつもの所にいますか?」
と、僕は尋ねる。
「えぇ、おるよ。蒼ー! 青空くん来てくれたよ!」
と、大きな声で蒼を呼ぶおばちゃん。
「今手が離せない! 青空、遊ぶならゲームしよー!」
と蒼からの返事がくる。
「ったく、動こうとしないんやから。青空くん、あがって」
と、おばちゃんは呆れるように言い放つ。
「お邪魔します」
そう言って、僕は慣れたように縁に向かう。
「蒼、なにしてんの? ゲームって最近ハマりだしたって言うあれ?」
「そうそう、一緒にしよー」
気だるそうに蒼は言うてくる。
僕は蒼のハマってるゲームよくわからんけど、RPGの類らしい。
蒼の家は古く、2階建ての木造をあちこち改築してできている。
蒼の部屋は2階やけど、ゲーム類は縁の隣の部屋の10畳ある和室。
蒼ん所は、その部屋を応接間兼リビングとして使ってる。
障子で仕切られてる部屋。
縁からは、庭に1本の木があって、夏休みのときは蝉がうるさい。
蒼は何故かこの縁で寝っ転がりながら外を眺めるのが好きや。
蒼とは絵を描いたりボードゲームとかもここでよくする。
でも、最近本格的なゲームにハマってる。
部屋に入ろうかなと思った矢先、おばちゃんが、
「青空くん、お母さんにいつもありがとうって伝えてくれる? それと今日のケーキ。ゆっくりしていってね」
と、麦茶と豪華なタルトケーキを縁に置いて、忙しそうにして台所に行った。
おばちゃんはお菓子作りの名人やと思てる。
いつもこんな豪華なケーキ食べれるんは羨ましい。
「青空、先におやつ食べてからゲームしよう!」
と、蒼が言う。
僕はコクリと頷き、外を眺めながらケーキを食べる。
「んー、うまい!」
僕はそう言いながら、手を休めることなくケーキを口に運ぶ。
「そう? 缶詰のみかんでお母さん作ったな? 青空からのおすそ分けの夏みかん使ったケーキのほうが断然美味しいよ!」
と、文句言いつつも食べる蒼。
すると、蒼は何かを思い出したかのように、
「そうや、青空。ちょっとこっち向いて?」
と言うので、僕は何やろ?と思いながらも蒼の方に顔を向けた。
すると、蒼は僕に顔を近づけてくる。
僕は、反射的に目を瞑る。
フューと音が鳴ったあと、
「あはは、騙された! 青空、キスされるとおもたやろ?」
と、笑い転げる蒼。
僕は何が何だか分からず、
「蒼なにしたん?」
と尋ねる。
すると、蒼は唇を尖らせ、フューと音を鳴らす。
「ただの口笛や。最近できるようになってん。にしても、青空、顔赤なってておもろいなぁ」
と、蒼があまりにも笑いすぎなので、
「そんな笑わんでもいいやん!」
と、僕も唇を尖らせそっぽを向く。
だからといって、口笛ができるわけではないのだが。
「ごめんごめん、こっち向いて?」
と、蒼は言う。
「何?」
怒りながら振り向くと、蒼の唇と僕の唇が触れ合った。
突然の事で、あっけらかんとしている僕をよそ目に、
「キスってこんな味するんやな」
と、ちょっと照れながら言う蒼。
理由がわからず、唇に手を触れる。
今、僕、蒼とキスしたん?
放心状態の僕は我に返る。
「な、何すんねん!」
と、怒鳴る。
「ええやん、キスの1つや2つ」
と、蒼は微笑みながら余裕そうに返事する。
段々と僕は頰を赤らめる。
キスはレモンの味言うけど、僕はみかんの甘くでもちょぴり酸っぱいもんなんやと思った出来事やった。
こんなん、忘れたくても忘れられやんやんか。
なんだかくらくらする。
目の前がオレンジ色掛かってしゃあないくらい、梅雨前の暑さは僕等を狂わせた。