第52話 意地とプライドのぶつかり合い
「面倒なのよね。政治って」
「言うなよ。要するに意地とプライドのぶつかり合いだ」
俺はどうするかなと悩み、ついでアンドレを見る。
「証拠を全部持って来れるか?」
「もちろん。あとは王子様の洞察力があれば、なんとかなると思う」
「じゃあ、それを基にさらに証拠を持ってくるのが私とシュリね」
と、そこに唐突に現われるキキだ。今まで天井裏に張り付いていたのだという。
「そうだな。それで行こう」
俺はこのメンバーならばやれるかと頷いた。
そう、怪しいものの確かな証拠としては残っていない不正の数々。これに対して今までの俺ならば見落とすか、こういうものだと納得して終わるしかなかったが、今ならば証拠を掴む手段がある。
「異能の怖さ、見せてやろうぜ」
俺はにやりと笑い
「おう!」
部屋にいた異能力者三人も、ぐっと親指を立てたのだった。
そして二日後。こうして無事に不正の証拠が揃い、ラオドールの前に積み上げられることになったのだ。ちなみにこの不正に関わった役人も総て洗い出されている。なかなか吐かない奴もいたが、そこは俺が直接出向いて説得したり、それでも言わない場合はシュリの幻術を使って、ばっちり引き出していた。
「馬鹿な。そんな」
こんなのは偽物だと必死に書類を捲るラオドールに
「俺を侮った罰だ。ラオドール」
俺は最後通牒を突きつける。
そこにある書類は一つの抜け穴もなく証拠が揃った状態のものばかりだ。どれだけ調べても、ラオドールが言い訳できる隙はない。さらに、不正に関わった連中の名前もしっかり記され、それだけでなく、そいつらの署名もある状態だ。
「ま、まさか、こんな」
ラオドールも言い逃れが不可能だと解り、へなへなとその場に崩れる。
これによって、ついに王宮神官長が目指した場所に到達したことになる。俺は気づかれないように、そっと息を吐き出していた。
というのも、ラオドールとシャルルがパウロの企みに気づき、それを言い訳に手を回してくることは想定されていたからだ。そして、そこで絆されるようならば、俺はやはり王宮に戻る資格はないとされるはずだった。
俺としてもシャルルを信じたい気持ちがあったから、ひょっとしたら、何かの順番が変わっていたら、それを信じていたかもしれない。実はパウロが自分を嵌めるためだけに、この国を乱したのだと、そういう甘い判断を下していたかもしれない。
しかし、たまたま立ち寄った、あのビザードでの出来事が、最後の最後でパウロだけに責任を押しつけることを阻んだ。そして、本当の原因がラオドールにあることを徹底的に調べることが出来たのだ。
中途半端な真実は、誰かを傷つけることになる。やるならば最後までしっかり暴かなければ、自分で責任を取ることさえ出来ない。
それは俺にとって、廃嫡されたこと以上の経験となっていた。
「兄ちゃん。後悔のない人生なんてないぜ。だから、繰り返さないように頑張りな」
メルロに言われた言葉が、俺のこの徹底的に調べ、ラオドールがどれだけ悪かったかを明らかにする原動力になった。
正直、一日で終わらなかった時は、ここで切り上げるべきではと心が折れそうになった。しかし、ラオドールに気づかれないよう、キキとシュリの手引きで王宮内を歩き回っていて、それでは駄目だと叱咤した。
俺の肩にはこの国の市民の命が乗っている。それだけではない。多くの人の信頼が乗っかっているのだ。多くの人が信頼してくれるからこそ、この国は、政治は問題なく回っている。
その信頼に背くようなことは、絶対にしてはならないのだ。
「ラオドール。貴様は私腹を肥やすだけでなく、今回、この国の存亡に関わるような事態を起こしたのだぞ」
次期王としての顔で、俺はラオドールを断罪する。それにラオドールはぎっと俺を睨んだ。
今、部屋の中には俺とラオドールだけ。証拠の書類はこの場にある。
それがどういうことか、瞬時に考えたのだ。そして、ラオドールは躊躇うことなく隠し持っていた拳銃を抜いた。
「死ね!」
その言葉とともに放たれた銃弾を、俺は異能で容易く避けて見せる。それにラオドールはびっくりした顔で固まる。
「何を驚いているんだ。前ももう知っているだろ? 俺は異能を持っている」
「く、くそっ。化け物が」
ラオドールは闇雲に拳銃を撃とうとした。しかし、その間にさっと割って入る影がある。そいつは素早くラオドールの手から拳銃を奪った。そう、天井裏に隠れていたキキだ。
「なっ」
「殿下! ご無事ですか?」
と、そこにタイミングを見計らっていたアンドレが、話を合わせるように打ち合わせしていた騎士団長のビルドとともに突入してくる。すると、俺とラオドールの間にぽとんと銃が落ちてきた。
「こ、これは」
「この男を拘束しろ。私に銃を向けた大罪人だ」
俺は王太子として二人に命じる。ビルドはやれやれという顔をしながらも
「承知いたしました。殿下」
大きく頷くと、あれこれ考えさせられたラオドールの腕を掴んだのだった。




