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第5話 スローライフ

「火炙り?」

 だが、俺はよく解らなくて、どういうことだと訊き返す。

「ああ。ハッブル王国ではやってないけど、この山の向こう、ミッドランド連邦国では魔女は火炙りの刑に処すってのが刑法で決まってるんだよ」

 シモンはあっちと山を指差しながら教えてくれた。

 ミッドランド連邦国とハッブル王国は戦争になったことはないが、互いに領土が接するドロイヤ王国との戦争の時に不可侵条約を結んだことがある。そんな場所が、魔女や魔法使いを火炙りにしているというのは驚きだった。

「珍しくねえぜ。ハッブル王国が一番、俺たちのような異能力者には優しいところだよ。とはいえ、刑罰を加えられないってだけで、弾圧はされるけどな。流浪の民になることは運命づけられているんだよ」

 邪魔なんだよなと、シモンは肩を竦める。

「そんな」

 俺はショックを受けてしまうが、シモンはぽんぽんっと頭を撫でてくるだけだ。

「それが普通なんだよ。さあ、問題はあるが弓矢が手に入ったんだ。しっかり狩りに励んでくれ」

 シモンが何も説明しなかったことで、俺が思っている以上に差別されていることを知ってしまった。しかし、俺だって居場所を奪われたのだ。この世界はいつどこで理不尽が起こるか解らない。

「俺も隠れて生きていくしかないもんな」

 レオナール=ハッブルと名乗りを上げれば殺されるだろう。その点、シモンやピーターと自分は変わらないのだ。

「しんみりしてんじゃねえよ。野ウサギとキジ、よろしく」

 ピーターは責任を感じたのか、そんなことを言いながら俺の背中を思い切り叩いてくれた。

「いてっ」

「深刻な顔、似合わねえよな。へらへら笑ってれば」

「んだと」

 ぎゃあぎゃあ言いながらも、俺は少し、この村の人たちとの仲間意識が強くなったのだった。




 無事に弓矢を使って野ウサギ五羽とキジ三羽を捕まえた俺は、意気揚々と城館に戻っていた。

「おおっ、凄いじゃん、王子様。ハンティング能力があったなんて」

 肉にありつけると解ったアンドレは、嬉しそうに俺を迎えてくれる。そのアンドレは何をやっていたかというと、マリナたちが住む教会の裏にある畑の手伝いをしていたのだ。おかげで顔に泥が付いている。

「顔を洗えよ」

「忘れてた。ここの生活って周りを気にしなくていいからさ」

「いや、でも、顔はすぐに洗えよ」

 のんびりスローライフなんだからいいじゃんと言い出すアンドレに、顔に泥をつけたまま放置するのはよくないだろうと諭す。

「ふふっ。やはりレオの方がしっかりしているんですね」

 そんなやり取りを見ていたマリナが、くすくすと笑ってくれる。

「そこは意外だとは言わないんだ」

 で、俺はその反応はどうなんだと確認すると

「レオナール王子が暗君だなんて話は聞いたことがないですからね」

 と返してくれる。

 ぐっ、やっぱり人の心の傷に塩を塗ってるだろ、この修道女様は。

 暗君だったから廃嫡されたんですよ。馬鹿だから弟に謀反を起こされるの。それも知らないうちに。

 しかも俺の噂を知ってるってどうなんだよ。どこの馬鹿だ、妙な噂を流す奴は。

「レオ、今日は肉だって。じゃあ、バーベキューにしましょ」

 色々ともやもやしていると、そこに元気なキキの声が響き、城館のドアが荒々しく開けられた。その背中には籠があり、どっさりと木の実やきのこが入っている。

「大量だわ。ああ、ちゃんと薬草も採ってきたわよ。それはシュリが持ってくるから」

 キキは疲れたと籠を置きながらマリナにそう報告する。

 って、ここは君たちの家か。別に家があるでしょうに。

 まあ、ぼろいが無駄にでかい城館だから、村人が出入りしても問題ないんだけどさ。

「おおい、捌いて血抜きも終わったぜ」

 俺が呆れていると、窓からシモンが報告してくれる。

 ああもう、本当に騒がしい。

 いいんだけどね。

「バーベキューだってよ。焚き火よろしく」

 ということで、俺は色々と深く考えることを諦めて、シモンにそう注文しておいた。

 王宮での生活とはまったくテンポが違うんだ。そう言い聞かせるしかない。

 しかし、事あるごとに王子様って呼ぶの、マジで止めてくれないかなあ。

「レオナール、ほいっ」

 俺が色々と複雑な気分になっていたら、アンドレがコップを渡してきた。見るとビールが入っている。

「おおっ、どうしたんだ」

 こんな辺境の村で手に入るものじゃないと、俺は目を輝かせてしまう。

「この村の奥に住んでいる爺さんが、隣村で物々交換してきたんだ。そのお裾分け」

「へえ」

 普段ここに集っている奴ら以外にも村人がいることは知っていたが、隣村と物々交換している人がいるとは。意外とここに物が豊富にある理由が判明した。

「まあ、ここは四方を山に囲まれていて自然のものが色々と手に入るからね。山登りなんて苦労をしたくない都会の人から重宝されるんだって。とはいえ、やっぱり隠者扱いだから、爺さん以外に取り引きに行くことはないんだけどね」

 アンドレは凄いよねと説明してくれるが、いつの間にかこの村の情報通になっていることに驚かされる。

「お前って本当に何なの?」

「騎士だったけど、王子様選んで辞めたから現在無職の暇人」

 俺の質問に、そうおちょけて答えるアンドレだ。しかし、どうにも解らないと俺は睨んでしまう。

「何を企んで――」

「肉が焼けたぞ。早く来ねえとレオの分、食っちまうからな」

 思わず問い詰めようとした俺だが、ピーターに肉を奪われるかもしれないと知り、すぐに庭にダッシュしていた。

「それは俺が獲ったんだからな!」


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