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第47話 波紋

「国后様」

「お久しぶりですね、クリスティーヌ」

 さて、話題に出て来た許嫁のクリスティーヌは、久々に王宮を訪れていた。というのも、再びレオナールを王太子にという動きが現われたからだ。

「もう、何が何だか解らず、こうしてやって来てしまいました」

 そのクリスティーヌはまだ黒いドレスを身に纏ったままだ。状況が不確定であるからこそ、そう素直には喜べない証拠だろう。

「ええ。そうね。私も色々と驚くことの連続です。それに、このままだとシャルルがどうなるのか、というのも不安です」

「ああ」

 ローラの呟きに、クリスティーヌは困惑の表情を浮かべることしか出来ない。クリスティーヌはレオナールのことだけを考えていればいいが、二人の母親であるローラは、この騒動で必ずどちらかを失ってしまうのだ。その心の中は色んな感情がせめぎ合っていることだろう。

「もちろん、廃嫡騒動という政変を起こしたのはシャルルです。それで自らが王座を得ようとしたのだから、それなりに罰が与えられるべきでしょう。しかし、あの子も、そしてレオナールも異能が関わっているなんて知らなかったのです。それを思うと」

 理不尽ですねと、ローラは泣き顔のまま微笑むことしか出来ない。

「異能」

 そしてクリスティーヌも、この事実に困惑してしまう。そして、自分の未来の夫が未知の力を持っているということに、僅かだが恐怖もあった。

「あなたは、別の誰かを選んでもいいのですよ」

 クリスティーヌの怯えに気づき、ローラは優しく告げる。しかし、クリスティーヌはすぐに首を横に振った。

「いいえ。異能を恐れること、それが間違っていたのですね」

 そして気丈にもそう問い返した。それにローラは頷くと

「ひょっとしたら、大戦後、異能を持った事実を隠し続けた罰なのかもしれませんね」

 溜め息とともにそう呟いていた。




 異能の問題について悩むのは、もちろんシャルルも同じだった。

「どういうことだ。王族に異能があるなんて」

「私も聞いたことがありませんでした。どうやら、あのパウロを初めとする王宮教会の連中が、この事実を隠していたようです」

 どんよりと沈むシャルルに、同じくどんより沈むラオドールはそう説明するしかない。

 三週間という期日、その先にあった謎の村、これもまた、あの王宮神官長が仕組んだことだったのだ。それに気づかず、なんと都合のいいところに城館があって、レオナールを捨て置くのに丁度いいと思った自分たちが間違っていたのだ。

「くそっ。しかも俺には異能がないだと。どういうことだ?」

 王太子になれない理由として挙がる、異能がないということ。それにシャルルは頭を掻き毟る。が、これに関してラオドールは知っていることがあった。

「現国王陛下が王になられる前のことです。お子様は三人いらっしゃり、陛下は次男でございました」

「えっ」

 初めて知ることに、シャルルは顔を上げる。それに、ラオドールは大きく頷いた。

「そう。シャルル殿下と同じく、上に兄君がおられたのです。しかし、王太子になられたのは陛下でした。その理由を、今までは兄君が暗君であったからだろうと考えておりましたが」

「異能がなかった。つまり、異能は生まれた順番すら関係ないというのか」

「ええ。そして、対外的に次男である陛下が王になったことを不審がられぬよう、宰相が置かれのです。私の前任者でございます」

 ラオドールがぐっと唇を噛み締めた。つまり、その時も宰相という身分は王族のごたごたの隠れ蓑に使われたのだ。この国において、宰相ほど切り捨てられる可能性が高い身分はないということになる。

「ははっ。まさかそんな秘密まであったなんて」

 シャルルはもう笑うしかない。自分たちはとんだ道化ではないか。王宮神官長にまんまと嵌められ、事実の一部を信じ込んでいたに過ぎない。

「ラオドール。お前がその代替わりで弟が勝った事実を知って俺を推したのだろう。だとすれば、それをわざわざ教えたところから、すでに今回の騒動の図面は描かれていたんだ」

 シャルルはそこでどんっと机を叩くと

「こうなったら、レオナールを殺してやる」

 そのまま執務室を飛び出していたのだった。




「ほら。もっと集中してみろ」

「ぐううう」

 その頃。俺はシモンによって異能を発動する訓練を受けていた。シモンは日頃、大工仕事をする時に身体強化に似た力を使って、重たい荷物を難なく運んでいる。そこで、馬鹿でかい丸太を運ぶことで能力の発露を促せるのではないかと考えてくれたのだが――

「む、無理」

 俺は丸太を動かすことも出来ず、最終的にべちょっと地面に広がってしまう。全く以てびくともしない。

「駄目か。ほら、こうだよ」

 で、シモンは異能を何のアクションもなく発動させると、俺が動かすことさえ出来なかった丸太をひょいっと担ぎ上げてくれる。

「マジか。これが身体強化の真の威力」

「ああ、そうだ」

「はあ」

 いやいや。人生二十年ほどですけど、そんな馬鹿力を発揮したことはありませんよ。

 俺は本当に自分の中にこんなものがあるのかよと疑ってしまう。


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