第46話 禿げそうだ
「封印されているっていうわけじゃなさそうね」
「へえ」
昼。適度にキャンプ場所を移動した後、マリナが俺の身体に手を翳して、異能が封じられている痕跡があるかを探ってくれた。しかし、その結果はなし。異能は特に封印されているわけではないようだ。
「ううん。そうなると」
「そうなると?」
「気になるのは食事かしら。レオが不味いと言う王宮料理。その中に異能を抑える成分を含む薬草が混ぜられていたとか」
「え? そんなのあるの? あと、不味いとは言ってないからな」
王宮料理人の名誉のために不味くはないと俺はツッコみつつ、薬草でどうにか出来るのかと訊ねる。
「もちろんあるわ。でも、一時的よ。ほら、魔女と疑われて逃げる時のために、異能を制御する薬があるのね。もちろん秘薬中の秘薬だけど、王族が過去に魔女と取り引きしているのならば、そういう薬も伝達されていておかしくないと思うの」
「へえ」
異能、まだまだ奥深いな。俺は感心するしかない。
「でも、ここ最近は私たちが作る料理しか食べていないし、それに、身体強化はすでに発動されているみたいだし、ううん。難しいわ」
一方、その薬草だけでは説明が付かないとマリナは首を捻っている。
「身体強化って、簡単に死なないってやつ?」
が、俺は無自覚に異能を発動しているのかと、そっちに驚いた。
「ええ。あと、反射神経に関しても普通の人とは異なるから、それも身体強化のおかげね」
「ほほう」
俺は自分の手をにぎにぎと握って、すでに発動している部分もあるんだと感心しっぱなしだ。
「でも、それだけじゃあ血の盟約の効果として薄すぎるわ。他にも出来るはずよ。いくら大戦が過去のものとはいえ、まだ百年足らずですもの。何かが隠れているはずだけど、解らないわねえ」
マリナはどうなっているんだろうと、今度は俺の身体を容赦なく触りまくってくれるのだった。
「結局解らずか」
「ええ。王族の血と混ざったことで、異能も何らかの変異をしているのかもしれないわね。そして、何らかの発動条件があるのかも」
シモンの問いに答えつつ、解らないわとマリナは腕を組む。が、俺は地面に突っ伏したままだ。
どこかに秘密がないかとあちこち触るのは構わないが、せめて股間を触る前に一言欲しかった。
「ぐう」
俺は色んな意味を込めて唸ってしまう。そんな俺を、アンドレが面白がって棒で突き始めた。
「止めろ」
「いやいや。いいですねえ、王子様」
「良くねえよ。もうちょっと雰囲気があれば別だったけどな」
「あらやだ。あんなのが好み? 許嫁のクリスティーヌ姫が泣いちゃうよ」
「お前なあ」
俺がぎっと睨むと、そのアンドレの脳天に一発拳が落ちる。もちろん、やったのはマリナだ。
「廃嫡騒動を起こさせたってことは、レオがピンチになる必要があったのかもね」
で、それまでの会話をさらっと無視して、話題を変えてくれた。これほど怖いことはないので、俺は起き上がると
「命の危機になると発動するとか?」
真面目に訊ねる。
「そう。でも、発動したのは、すでにレオが日常的に使いこなしていたと思われる身体強化だけ。ううん。何か違う感じね」
マリナは、それでも俺に異能があることがポイントとされている今、何かあるはずだと悩んでいる。それは俺も同じで、このまま強靱な肉体を持っていますだけでは、世間を納得させられないと理解していた。
「廃嫡かあ」
そして改めて、その言葉の意味を考えていた。
普通に考えて、それはもう、お前には王位継承権はないと断言することのはずだ。それがどういうわけか、ねじ曲がって俺にはまだ王位継承権があることになっている。これだけでも不思議だ。
「あれ? ってことは、シャルルにはないのか。異能。同じ王族なのに」
「あっ」
「そうだ」
俺の呟きに、それが不思議だと、その場にいた全員がぽんと手を叩く。シャルルが王太子になれない理由は異能が無いからだ。これはどういうことだろう。
「つまり、王族総てが力を持っているわけじゃないってことだな」
「で、レオのように眠った状態の人と、本当にない人がいる」
「それは直系の兄弟間でも起こりえる、か」
「ますます解んねえ」
ややこしくなってないかと、俺は王族の異能問題で禿げそうだと本気で思っていた。




