第44話 血の盟約
三日後。見晴らしのよいカポフ丘で集合した俺たちは、集まった情報の共有とこれからの作戦を会議することになった。
といっても、焚き火を囲んで、いつも通りにキャンプをしながらだ。今日はあちこちの町を回ってきた三人のおかげで、豪華な晩ご飯となっていた。
「チーズフォンデュなんて久々だな」
そう言ってぱくぱく食べるピーターの真似をして、俺もフォークにパンを刺して鍋で溶けているチーズを絡める。
「危なっ」
「落としたら罰ゲームだぜ」
「マジ?」
「今日はそれどころじゃないわよ」
落としそうになった俺がびっくりしてピーターを見るが、マリナが会議中なのよとビシッと止めてくれる。
「でも、王宮は静かなもんなんだろ。あれだけ戦争だの王子様が悪いだのって言っていたのに」
ピーターはウインナーにチーズを絡めながら訊く。
「そう。びっくりするくらいに鎮圧された後って感じだね。その理由は国王が起き上がれるようになったこと、プラス近隣諸国の動きが大きいみたいだ」
アンドレは複雑骨折だったのに復活したんだねと俺を見てくる。
「昏睡は続いていたけど、死にそうにはなかったもんな」
それに対して、俺は死なないと思っていたと付け足す。どういうわけか、あの父はちょっとやそっとじゃ死にそうになかった。それだけ、生命力があったというべきか。だから、このタイミングで復活したとしても不思議には思わない。
「まあ、そういうわけで、一時は混乱した政権は一応安定している。それに合わせてドロイヤとは戦争から通商条約の話に代わり、ついで、ミッドランドとオーロランドがレオナール様の支持に回って、あれこれ落ち着いているってわけ」
「えっ?」
「ちょっと待て。俺を支持するだって?」
さすがに想像しない展開にびっくりするシモンと俺だ。
一体全体、どういうことが起こればそうなるんだ。
「どうやらそれには、この国が過去の大戦を切り抜けたことと関係があるようなの。それと、この国が異能力者に一応は寛大な措置を施している理由でもあるわ」
シュリがにこっと笑って俺を見てくる。しかし、俺はなぜかぞわっと鳥肌が立った。何か、聞いちゃいけないことがこれから待ち構えているかのようだ。
「過去の大戦っていうと、異能力者や魔法使いを大量投入して行ったってやつだよね。おかげで俺はこうやって能力を隠さなきゃいけない」
まだ十七歳のピーターは不満げに唇を尖らせて言う。そんなことがなければ、自分は自由に生きられるのではないか。過去のせいで今の自分が理不尽な扱いを受けているのでは。そう考えているのが、ありありと解る表情だ。
「そう。それ。最終的にはこの国、ハッブルが最大限の軍事力を投入して他国を鎮圧、和平協定を結んだことで終わったんだけど」
そこでシュリはまた俺を見る。この先を聞く覚悟は出来ているか。そう確認されているのだ。
「な、何か裏があったんだな」
俺は僅かに声が上擦りながらも、先を頼むと促した。それにシュリは頷くと
「ええ。ハッブルが一気に他国を圧倒できたのは、当時の王様がある魔女と取り引きしたからなの」
衝撃的な内容をさらっと告げてくれる。
「ん? でも、他の国も異能力者を大量投入していたんだろ。だったら珍しい話じゃないんじゃねえの?」
ピーターは言葉をそのまま受け取りそう訊ねるが、もちろんこの場合の取り引きは普通の取り引きではない。
「血の盟約だな。となると、その後、王族はほぼ異能力者になったはずだ」
シモンが口にし難いことをさらっと言ってくれ、俺はびくっと肩を震わせる。
他の国では見つかっただけで殺されるかも知れない存在。それが、国のトップにいる。その危険性に、俺はぶるっと震えてしまう。
血の盟約とは文字通り、魔女と血を交すことをいう。その交わし方は魔女によって異なるそうだが、最もメジャーなのは互いの血を飲むというものだ。ワイングラス一杯分の血を互いに提供し、秘密の儀式を行った後、同じタイミングで飲み干す。これにより、魔女の力を分け与えて貰えるのだ。それと同時に、魔女にとって不都合な状況になれば、いつでもその魂を刈り取ることが出来るという、マジでやばいものである。
異能に関してほぼ何も知らなかった俺でも知っている、最大の禁忌だ。それを、大戦中とはいえ祖先がやっていたことに驚きを隠せない。
それと同時に、ハッブルはどうなってしまうのだろうと身体が震え続ける。
と、そんな俺の手を、マリナがぎゅっと握ってくれた。




