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第4話 シャルル

 王宮内、三階の一番日当たりのいい部屋が王の執務室となっている。そこに座って書類仕事をしていたシャルルは、知らず溜め息を吐いてしまう。

「レオナールはこれを簡単にこなしていたのか」

 兄と自分の実力の差はそれほどないと思っていた。しかし、いざ仕事の総てを奪ってみると、上手くいかないことが多くてイライラとしてしまう。

 だが、そうだからと言って宰相のラオドールに助けを借りるようなことはしたくなかった。

 レオナールを追放するために手を組んだが、その理由は一致してない。そして、ラオドールが何を考えているのかも読めない。だから、一時的に手を組んだ相手とはいえ、そう簡単に信用するわけにはいかなかった。

 その点、兄は誰でも信じるタイプで真っ直ぐだった。

 廃嫡を決定した書類を突きつけた時も、ただ呆然とこちらを見てきただけだった。

 もっと抵抗されるかと思っていたのに、それは呆気ない反応だった。だから、ただ一言

「シャルル、どうしてだ」

 そう呟いた言葉が、今でも夢に出てくるほどである。

 こんなことをされるなんて思っていなかった。何か駄目なことがあったのか。

 レオナールの目から読み取れたのは戸惑いだけで、憎しみは何一つなかった。

「ちっ」

 こっちがすっきりするほど抵抗し、みっともない姿を晒してくれていれば、こちらは心を乱されることなんてなかったのに。

 どこで死んだか、シャルルは知らない。しかし、生き残るのは不可能だろうという徹底した追放を行った。その追放方法が王宮神官長の提案だったことは気になるが、少なくとも、あれだけのことをされて生きているはずがない。

 後悔はしていない。だが、自分の実力のなさが嫌になる。

「くそっ」

 思わず執務机を叩きそうになった時

「失礼します」

 ラオドールが入ってきたので、シャルルはすぐに姿勢を正した。

 兄に劣るなんて事実を、こいつに掴まれるわけにはいかない。

 その意地だけで今、シャルルはこの机に向っているようなものだ。

「どうした?」

 シャルルは落ち着いた声音を意識して問う。

「はっ。それが殿下、早急にお耳に入れたいことがありまして」

「だから何だ?」

 この男はもったい付けるのが好きで困る。シャルルは面倒だと横柄に手を横に振った。

「はい。それが、レオナール=ハッブルが未だ生きているかもしれない、との情報を掴みました」

「なっ」

 まさか、兄が生きているだって。

 あれだけ惨めで、そして苦痛を味あわせたというのに。

「ま、まさか復讐を」

「大丈夫です。すぐにレンジャー部隊を向わせております。それに追放してまだ一か月。生き残っているとはいえ、体力の回復もままならない状態でしょう。すぐに始末出来ます」

 動揺したシャルルに、ラオドールは恩を売りつけるかのように言ってくる。それに舌打ちしたい衝動に駆られたが

「確実に殺せ」

 夢に出てくるレオナールの顔を消したくて、なんとかそれだけを振り絞っていた。




 といった王宮でのやり取りがなされているなんて知らない俺は

「てめえ、やりやがったな」

「ははっ。すばしっこさでは俺に敵うまい」

 がははっと笑うピーターと追いかけっこ・・・・・・いやいや、体力回復のためのランニングの最中だった。

 毎日野山で食料を調達しなければならない生活なのだ。山に登ったついでにランニングをするなんて当然のこと。昨日は山盛りの魚だったから、今日は肉がいいよねっていうだけだ。

「おおい、お前ら。遊んでないで仕掛けを作るぞ」

 が、そんな俺の気持ちの切り替えは、あっさりシモンに阻まれる。

 ぐう。

「解ってるよ。この辺が動物の通り道なのか」

 俺はピーターの襟首を捕らえると、ここで捕まえられるのかと訊く。

「おう。ここに鹿の糞がある。近くにいるはずだ」

 すでにシモンはそんな痕跡を発見している。

 ううむ、さすが。山の中で生きている年期が違う。

 シモンは今年で三十五歳だというが、十九歳の時に自分が人と違う力を持っていると知り、それ以来、山で生活しているという。

 山に逃げた理由はもちろん、化け物扱いされたからだという。そこから逃れ逃れ、今の村に辿り着いたのは五年前のことだった。これは城館を直している時にシモンが語ったことだ。

「一先ずここに仕掛けを一つ作っておこう。他にもいくつか仕掛けないと獲物は捕れないからな」

 シモンは慣れた手つきで仕掛けを作りつつ、そう俺に説明する。

「なあ、ここって弓矢はないのか?」

 しかし、仕掛けを仕掛けて待つだけというのは心許ない気がして、俺は弓矢があればなと腕を組む。

「なんだよ、レオ。生意気にも弓矢が使えるのか?」

 ピーターがすぐに突っかかってくる。

 こいつ、俺のことを同い年だと思っていないか。童顔だとは思うが、十七に間違えられるのは心外だ。

「そうか。王太子だったんなら、狩猟は嗜みとしてやっていたってわけか」

 俺がむっとするのに苦笑しつつ、シモンは弓矢の扱いに慣れているんだなと確認してくる。

「そう。最近では猟銃も精度が上がってよく使われるけど、俺は弓矢の方が好きなんだよね」

 銃だと手応えがないからなあと、俺は肩を竦める。

「一丁前に。じゃあ、やってみろよ」

 ピーターはどこまでも舐めた口を利いてくれる。

 俺は弓矢があればねと言うと

「作ってやるよ」

 ピータはその辺にあった枝を掴むと

「弓矢に変われ!」

 そう命じた。すると、ぱっと光って弓矢が現われる。

「すげえ」

 なるほど、これが魔法使いの技か。俺は感心してしまったが、シモンはすかさずピーターの頭上にげんこつを落とした。

「痛っ」

「そうやってすぐに魔法を使うなって、マリナに言われてるだろ。火炙りにされたいのか」

 シモンの注意に、ピーターは口を尖らせる。


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