第38話 無限に食える
久々のキャンプ料理は、俺の落ち込んでいたテンションを上げてくれた。
「美味っ。このジャガイモとベーコン、無限に食える」
俺はマリナが作ってくれた、ジャガイモとベーコンの重ね焼きを大絶賛してしまう。アクセントに使われているタマネギとマスタードがまたいい感じだ。
「もう、素朴な味が好きなんだから」
薄く切ったジャガイモとベーコンを鍋に重ねて焼いただけよと、マリナは呆れたように言うが、顔は嬉しそうだ。
「やっぱこうやって喜んでいるレオがいいよな。町では陰鬱全開だったから」
ピーターは俺に全部食われてなるかと必死に口に詰め込みながら言う。
「悪かったな、陰鬱で」
「まあまあ。ほら、ナマズのフリッターも食え」
口を尖らせる俺に、こっちも美味いぞとシモンが俺のさらにナマズの揚げ物を入れてくれる。
「へえ。ナマズも揚げられるんだ」
「揚げれるよ。っていうか、基本、衣を付けて揚げると何でも美味い」
「暴論だね。否定出来ないところが悲しいけど」
それまで黙っていたアンドレが、めちゃくちゃだよと苦笑している。
そんなみんなで焚き火を囲ん他愛ない話をして食事をしている光景に、俺は心の底から嬉しくなってしまう。
思えば、王宮では絶対に味わえないことだ。そして、この光景を俺はずっと続けていきたいと思っている。
後悔なくというのならば、中途半端に今起こっていることに介入するのではなく、この生活を守っていきたいと思ってしまう。
でも、それが正しいと言い切れないのが悲しいところだ。俺が逃げれば逃げるほど、戦争になる機運を高めることになるかもしれない。が、俺はそんな不手際を起こしたシャルルと宰相のために死んでやるつもりはない。
「美味いもの食って幸せに生きるって、意外と難しいんだな」
俺はふかふかに揚がったナマズを口いっぱいに頬張りながら、やれやれと溜め息を吐く。
「それはどんな職業でも思うことだろうよ。俺たちはたまたま仲間に恵まれているのさ」
シモンはにかっと笑うと、俺の皿にナマズのフリッターを五つ追加してくれるのだった。
三日間の湖での生活はあっという間だった。その間、敵が襲撃してくることもなく、平和だった。
「さてと」
しかし、それでも長い間同じ所に留まるのは危険だ。俺たちはテントを畳み、今度は西側へと移動を開始することになる。
「西側は農村が集中しているし、放牧地も多い。開けた土地が続くから、そこが問題点だな」
シモンがそう呟くと
「何とかなるわよ。いざとなれば私が宿を調達してあげるから」
にこっと笑うのはシュリだ。
「お前の世話になると後が怖いんだよな」
しかし、それにシモンは難色を示す。
「いくら開けているとはいえ、全く木々がないわけじゃないし、村はずれならば大丈夫よ」
そんな二人に、まあまあとマリナが仲裁に入る。
「意識しなきゃいけないのは、貴族の領土があるってことだよなあ。そこが、山の中や都市とは違うところだ」
俺が懸念ついでにと言うと
「まあね。とはいえ、今は収穫期からはずれているから、地方に土地を持つ貴族もそれほど意識はしていないだろう」
アンドレが真っ当な意見を述べた。
確かに、今は種まきが終わってちょっとした頃。つまりは初夏だ。貴族たちは王宮付近にいることが多い時期だろう。とはいえ、収穫期にちゃんと領土に顔を出す貴族なんて稀だ。サボっている奴が多い。が、その貴族を支える人たちはしっかりと働いている。ここが問題点だ。
「まあ、貴族そのものでなければ、俺の顔を見て一瞬で理解出来ることはないな」
俺は考えるだけ無駄かと、貴族問題を棚上げにする。それに、戦争だなんだと話し合っているのならば、貴族たちは王宮に呼ばれているだろう。あまり城館に近づきすぎなければいける。
「ぐだぐだ考えてないで、行きましょう」
そんな俺たちに向けて、準備を済ませたキキが元気よく声を掛ける。見るとピーターも準備を終えていた。
「そうだな。下手な考え休むに似たりだ」
俺は頷くと、重たいリュックを背負っていた。




