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第37話 解らん

 無事に湖まで戻って来た時、俺は心底ほっとしていた。しかし、胸の中にはメルロに言われた言葉が渦巻いている。

 俺が後悔しないためにしなければならないこと。それは何だろうか。逃げることに集中するのは正しいのだろうか。そんな、答えの出ない疑問がずっと頭の中にある。

「はあ。なんか緊張しっぱなしで疲れたな」

 しかし、アンドレがそうぼやく声がして、俺は考えるのを止めた。確かにそうだ。町でもずっと緊張していたし、移動中というのは敵襲を気にするから疲れる。こうしてゆっくりキャンプできる場所まで戻って来たのは、本当に久しぶりである。

「三日はここにいたいわね」

 キキもずっと偵察を続けていたから、休憩が欲しいとシモンに訴える。

「そうだな。状況次第にはなっちまうが、三日ぐらいはゆっくりしよう。しっかりとテントを張ってくれ」

 シモンも気疲れしたという点は同じなので、キキの提案を受け入れた。

「三日か」

 しかし、俺はそれでもゆっくり出来る時間は僅かだよなと感じていた。王宮では、こんなにも緊張感が続くことはなかった。今までは廃嫡のショックや、やることに追われていて感じていなかったが、随分と違う場所に来てしまったものだと強く感じる。

 とはいえ、戦争だ何だと大騒ぎしている状況では、王宮も気が休まらない日々だろう。特にシャルルは、俺が死んでいないと知って、悔しがっているに違いない。さらには戦争でも仕掛けなければ王になれないと知り、イライラしていることだろう。

「はっ、でも、それは自業自得だよな」

 俺は何とかシャルルに同情する気持ちを切り捨てると、テントを張るべく立ち上がっていた。




 さて、そのシャルルはあれこれと対応に追われていた。しかし、その中でも的確に指示を出しているおかげか、王宮の内部は幾分と落ち着きを取り戻していた。

「パウロの姿はどこにもありません。どうやら国外に逃れたようです」

 騎士団長・ビルドの報告に、シャルルは大きく頷くと

「ミルト、どうだ?」

 と外務大臣のミルトに確認する。

「今のところ、亡命したとの報告は受けていません」

 外交ルートを通じては何も来ていないと返した。

「ううむ。どうして逃げたんだ? 俺の立太子の反対の急先鋒だったはずなのに」

 シャルルがあえてそう問い掛けると

「自らの主張が不利とみたからではないでしょうか」

 すかさず外務大臣のミルトがそう追従する。ミルトは廃嫡騒動の時に真っ先にシャルルに付いたとあって、本人の前ではレオナールへの評価が上がった今も、支持する立場を崩さないようにしている。とはいえ、少なからず動揺もしていた。やはり不正をしていたという後ろめたさもあるのだ。

「それならば、さっさと立太子の儀の執り行いについて話し合いをしてもらいたいところだったよ。あえて神官全員を連れて逃げて邪魔するなんて、どういうつもりだろうか」

 シャルルが不満を述べると

「それだけレオナール殿下をお慕いしていたのかもしれませんね」

 議論するだけ無駄でしょうと、ビルドが間を取った意見を述べる。

「なるほど。あの兄は嫌われている数と同数に好かれているからな。とはいえ、あの男は王の器ではない」

「それはもちろんです」

 シャルルの言葉に、ミルトのおべっかがすぐに続く。それにビルドは溜め息が出そうになったが

「ドロイヤの情勢を見張ることに専念します」

 それだけ告げて、シャルルの前を辞した。

「どっちがいいのかって聞かれると、やっぱりレオナール殿下なのかな」

 そして、こっそりとそう呟いてしまう。

 先ほどのシャルルとミルトを見ていると、もしもシャルルが王になった時、金権政治になるのは目に見えていた。そして、シャルルは上辺しか評価しないから、それで正しいと思い込むに違いない。

「とはいえ、一介の騎士団長が意見できることじゃねえけど」

 レオナールが戻れるように自分が何か出来るわけじゃない。そもそも、問題のレオナールはどこに行ってしまったのだろう。

「解らんことばっかりだ」

 やれやれと呟くビルドの言葉は、実は王宮内の誰もが感じていることだった。



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