第34話 廃嫡の裏側
「痛みを誤魔化すための鎮痛剤に用いる植物は、依存性の高いものが多いの。だから、長期的に使っちゃうと、痛みが引いてもそれが欲しくて仕方がなくなるのね。そして、さらに効果が高いものを求めてしまう。そうなると、行き着くのは麻薬よ」
「あっ」
俺は呆然とケイルを見てしまう。
それじゃあ、彼のお嫁さんは。
「もう終わりだ。もう終わりだ」
ケイルは呆然と呟くと、ふらふらと立ち上がった。
「お、おい」
「うわああああ」
ケイルは大丈夫かと近づいたメルロを跳ね飛ばすと、そのまま駆け出した。
「拙い」
俺は咄嗟に追い掛けようとしたが、それはアンドレによって阻止される。
「離せよ」
「行かない方がいいよ。彼だってギリギリだったんだ」
「でも」
俺は言い募ろうとしたが、急にぐらっと視界が揺らいだ。そしてそのままアンドレの腕の中に倒れる。
「おや」
「ごめんね。危なそうだから介入したわ」
そう言うのは、いつの間にか現われたシュリだ。彼女はどんな場面でも蠱惑的な笑みを浮かべている。
「しかし、大した洞察力だな」
シモンは俺が眠っているのを確認して、それから溜め息を吐く。
「うん。そしてそれが、大臣たちが廃嫡の書類に署名した理由だよ」
アンドレは我慢できないんだねえと呆れ顔だ。
「それって」
「詳しくは宿に戻ってからにしよう。シモン、取り敢えずこの場は任せたよ」
「ああ」
シモンは頷きつつ、なるほど、単に馬鹿な宰相と弟だけが原因ではなかったかと複雑な表情になっていた。
「なるほどな。多くの大臣が優秀なはずのレオを追い落とそうと考えた理由は、自らの不正を見抜かれることを恐れてってわけか」
宿屋に戻り、ケイルたちの対応をマリナに任せたシモンは、アンドレから説明を受けて納得していた。廃嫡騒動が起こった予兆がなかったと俺自身は考えていたわけだが、実際はとんでもない原因があったというわけだ。
「そう。俺みたいに千里眼があるわけでもないのに、ずばずばとああやって何でも見抜いちゃうからね。これが怖いわけ。しかも王子様は身分による順位っていうのを重要視しない、事実だけを重要視するタイプだからなおさら、ややこしくなっていたわけ」
アンドレはベッドの上で膝を抱えて座る俺に向けて、さっきみたいな状況が王宮でもいっぱいあったんだよと諭すように言う。
「はあ。つまり、俺は知らないうちに、周囲が隠している秘密を暴いていたってことか」
いつの間にか宿屋に連れ戻され、しかも事件の処理は手伝えないと言われた俺は、さらに追い打ちを掛けるようにアンドレから色んな説明を受けて、むすっと膨れていた。だが、どうして廃嫡されたのかという疑問の答えが出てきて、そんな理由かと溜め息を吐くしかない。
「まあ、まだ発覚していない不正ばかりだっただろうけど、あのままの調子で王子様が国王の地位に就くとヤバいって思った人は多いだろうね。だから、宰相の甘言に簡単に乗れたんだよ。でも、疚しいことと疚しいことの狭間にいるものだから、大臣たちはシャルルがすんなり王太子に就けないと知って焦っているってところだろうね」
日和見の人が多いわけだよと、アンドレはやれやれと首を横に振る。
どっちにしろ、宰相のせいで王宮内には不正が多くはびこっていたのだ。それが看過されていたせいで、国王の不在という緊急事態が起こると同時に色々と噴出するのだ。
「父上は全く気づいていなかったのだろうか」
俺は疑問になって、実は異能者だったと知った元騎士を睨む。そういう部分も覗き見していたんじゃないか、全部言えよと、本当ならば掴み掛かりたいところだ。
「国王はわざと宰相を泳がせている感じだったかな。これには王宮神官長も絡んでいると思うよ。でも、俺が知れるのはこの辺まで。あの王宮神官長は秘密にするのが得意みたいでね。最奥部は俺の千里眼を用いても何も見えないんだ」
アンドレはその辺は解らないってと苦笑いだ。異能は万能ではない。そういう点では、俺の洞察力の方が優れていると言えるほどだ。
「ううん。王宮神官長か。確かに俺もよく解らないことが多いな。っていうか、洞察力に優れているって言うけど、俺、なんも解ってないに等しいぞ」
自分のことは解らないものなのかと、俺は腕を組んで悩む。これでも王太子だったのだ。王宮神官長のパウロに会うことも頻繁だったし、国王と並んで話を聞く機会だってあった。それなのに、何も掴めないものなのだろうか。
「考えられるのは王宮神官長も異能力者ってことだな。自分の内面を悟られない、そして証拠を消す、このくらいのことを簡単にできる異能を持っているってことだろう。そして国王もそれを知っている」
シモンはこのくらいは言っても大丈夫だよなと、そうアンドレに視線を送りながら明かす。




