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第33話 洞察力

「確かに世間知らずだけど、どうしてケイルという人が事情を話せず、また、お嫁さんに知られたくないか、は解ったよ」

 俺がそう言うと、ビルもケイルも、そして仲裁に入っていたメルロもびっくりした顔をする。

「おい、レオ。本当か?」

 シモンが大丈夫なのかと訊ねてくる。それに俺は大きく頷いた。

「ああ。お嫁さんが産気づいたというのに、赤ちゃんが生まれたって話はないんだよね」

 俺はビルとメルロに確認する。

「あ、ああ」

「生まれたら大騒ぎだからな。それに税金を納めなきゃなんねえし」

 ほぼそのための借金だしと、ビルとメルロは頷いた。

「そしてどういうわけか、お嫁さんに事情を知られたくない。そこから導かれるのは、赤ちゃんが死産だったか、もしくは何らかの事情があって、生まれてもお嫁さんに見せられないんじゃないかな」

 俺がそう言うと、ケイルは明確に俺を睨んできた。

「待ってくれ。この問題はお金をすぐに解決できない事情を説明するためだ。この場以外でこの話題を言うつもりはない。他の人たちも、この人のお嫁さんを傷つけたくないのならば、喋らないはずだ」

 俺は落ち着けと、そう付け足して周囲を見る。すると、遠巻きで見守っていた人たちはうんうんと頷いた。

「今の話からして領主にお金を納めたわけではないようだ。とすると、子どもは」

「死んでたよ。嫁さんは産後の肥立ちが悪くて寝たまんまだ。赤ちゃんはどうなったって聞かれて俺、産婆さんに預けてるって嘘を」

 ケイルは泣きながら事情を話し始める。

「で、でも、嫁さんの腹、そんなに膨れてなかったぞ」

 ビルは納得出来んと慌てて主張すると

「早産でしょう。赤ちゃんが上手くお腹の中で育たず、出てきてしまったのですわ」

 そこにマリアの声が響いた。こういう時、修道女の言葉というのは重みがある。

「早産って、じゃあ」

 この事実に、詰め寄っていたビルは動揺する。そして、本当に嫁さんは産気づいたのかと、改めてケイルに詰め寄る。

「ああ。俺、今度こそ真面目になろうって決意して、子どもが生まれてくる十ヶ月後までにお金を貯めようと決心していたんだ。でも、でも」

 ケイルはそこで膝から崩れ落ちた。そしてううっと泣き始める。

「いきなり赤ん坊が生まれて、それも死んでたとなりゃあ、パニックになるよな。それで、取り敢えず纏まった金を借りれる肉屋のビルを頼ったのか」

 メルロがなるほどねと顎を擦る。しかし、そこでふと気づき

「じゃあ、五百金貨を使ってどうしたんだ?」

 根本的なところが解っていないぞと問い直す。と、それに答えたのは俺だ。

「おそらく、お嫁さんの病院代、死んだ子どもを秘密裏に処理して貰うための手続き代、というところでしょう。赤ちゃんが生まれても死んでも税金が発生してしまう。だったら、なかったことにしてしまうのが手っ取り早いですからね。それにお嫁さんは予定外の出産で体調を崩してしまい、ちゃんとした医者に診せる必要があったというわけです」

「ああ。そうか。産後の肥立ちが悪いって、普通に産んだ後に体調を崩している場合も大変だもんな。それなのに早産の上に赤ちゃんが死んでいたとなると、医者は必要だな」

 メルロはそういう場面に何度も立ち会ったことがあるのか、ふむふむと頷いている。

「にしても、全部使い切ったのか?」

 ビルはお気の毒だとは思うけどと、苦い顔になっている。事情が事情なだけに、お金を返せと強く言えなくなったためだ。しかし、五百枚の金貨と言えば、かなりの大金だ。医者代や裏ルートでの死体の処理があったとはいえ、使い切るだろうかと悩んでいる。

「その点はさすがに俺も」

 俺も可能性が見えたからこうやって割って入っただけで、二人の言い分から全部を知ることは出来ない。どうなんだと、俺は助けに入ってくれたマリアを見る。マリアはこくりと頷くと

「あの、私がお嫁さんの体調を見てもいいですか?」

 ケイルにそう問い掛けた。すると、ケイルの目が僅かに泳ぐ。これはどういうことだ。

「おい」

「まだ何か隠しているのか?」

 せっかく巡礼中の修道女様が手を差し伸べてくれているんだぞと、ケイルの煮えきれない態度にビルとメルロが詰め寄った。それに俺はどうすればいいんだと、今度はシモンを見る。しかし、シモンは肩を竦めるだけだ。

「ああ。鎮痛剤として用いたものが悪かったのですね。それで、中毒症状を起こしているのではないですか?」

 だが、マリナは穏やかな声のままそう問い掛ける。すると、びくっとケイルの肩が震えた。

「それって、使いすぎってこと?」

 俺はよく解らなかったので、素直にマリナに訊いた。すると、マリナはそのとおりと大きく頷く。


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